海外電力関連 トピックス情報

ベルギーで複数の原子炉停止を契機とする冬季電力需給ひっ迫の恐れ

2018年10月22日

   ベルギーでは2018年9月28日、冬季電力需給ひっ迫の恐れがあるとして、停止中のビルボールデガス火力発電所を再稼働させる特別措置を講じるための王令案が閣議決定された。これは「1999年の電力市場法」に基づく、電力市場における需給ひっ迫等の緊急事態が発生した際の特別措置と位置付けられている。政府がこの措置を講じる契機となったのは、国内7基の原子炉のうち、5~6基が11月~12月にかけて保守点検等により運転停止する見通しとなったことであった。

   ベルギーは、2003年に脱原子力法を制定し、7基の原子炉が運開から40年を迎えた時点で閉鎖し、脱原子力する方針を決定した。しかし、この法には、電力需給ひっ迫が危ぶまれる場合には運転延長を認めるとの例外措置を定める規定があった。同規定を根拠として、政府は2009年に、長期的なエネルギーミックスの検討結果を踏まえて、ドール1、2号機及びチアンジュ1号機の計3基の運転期間を2015年から2025年まで10年延長する方針を決定した。ところが、その後の政権崩壊と総選挙後の連立交渉の遅れにより、これら3基の運転継続に関する法整備がなされないまま、2011年3月の福島第一原子力発電所事故が発生した。事故後に発足した新政権は、ドール1、2号機の運転延長を白紙撤回し、チアンジュ1基の運転期間のみを10年延長することを決定した。また新政権は、電力需給ひっ迫時の運転延長例外措置に関する規定も削除し、2013年の法改正では脱原子力法には、全ての原子炉の停止時期が明記された。
   しかし、2015年中の閉鎖が予定されていたドール1、2号機は、2015~2016年にかけての冬季電力需給ひっ迫の恐れがあるために、10年間の運転延長の方針が再度決定された。この決定により、ベルギー国内7基の原子炉は、2022~2025年までの間にすべて閉鎖されることとなった。
   脱原子力決定以降のベルギーのエネルギー・原子力政策の経緯をまとめると、下表のようになる。

   一部原子炉の運転延長の方針が二転三転したものの、ベルギーは2025年までに脱原子力することになる。しかし、下図のとおり、国内の発電電力量の50%を賄っている原子力の代替となる電源の開発は十分に進展している状況とは言えない。再生可能エネルギーも、洋上風力や太陽光を中心に増加しており、ベルギー経済省のデータによれば、2007年から2016年までの10年間で、発電電力量は4倍になっているが、総発電電量に占める割合は15%程度にとどまっている。

   このような状況のもと、電力市場では、再エネの大量流入等による卸電力価格低迷によって、ガス火力発電所の経済性が低下し、事業者がガス火力発電から撤退する可能性が出てきたことから、ベルギー政府は2014年以降、電力の戦略リザーブを確保する措置を講じている。これは系統運用事業者(TSO)による分析の結果、11月から3月にかけての電力安定供給が危ぶまれる場合には、戦略リザーブとして必要な設備容量の入札をTSOが実施して確保するものである。これまで、一部の年を除いて戦略リザーブが確保されてきたものの、実際にこの戦略リザーブ発電所の稼働が必要となったことはなかった。2018~2019年の冬季についても、8月末の時点でTSOが、戦略リザーブは不要であるとの判断を示していた。しかしその直後に、複数原子炉の運転停止期間が見直されたことにより、政府は前述の特別措置を講じることを余儀なくされた。ベルギーは、近年でもっとも安定供給が脅かされる事態に直面したと言える。

   政府は、特別措置を講じるにあたって、原子炉を運転するエレクトラベル社が、国内の大半の電力供給を賄っている責任を果たしていないと批判しているが、今回の事態について、政府が事業者を一方的に批判するのは妥当ではない。特に、ドール1、2号機が現在運転停止しているのは、10年間の運転延長のための安全強化措置等を講じるためのものである。2009年時点で10年間の運転延長が決定されながら撤回され、2015年になって再度延長が決定された経緯を考えれば、少なくとも両機の今冬の運転停止の原因、さらには、今冬に大半の原子炉が停止することになった原因の一端は政府にもあると言えるだろう。

   今回の事態は、発電事業という息の長い大規模インフラ事業の運営には、ぶれないエネルギー政策が必要であることを示している。2025年に脱原子力を実現すると政策決定したからには、これまでのように場当たり的に政策を調整しながら原子力を維持することはできず、一方で、原子力と同様に低排出の代替電源を確保しなければ、ベルギーは電力安定供給が脅かされるリスクを抱え続けることになる。電力という国民生活や経済・産業活動に不可欠なエネルギーを安定的に確保するためには、壮大な目標を掲げるだけでなく、現実的で地に足の着いた計画や一貫した政策判断が必要である。

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