海外電力関連 トピックス情報

【台湾】住民投票により脱原子力条文失効へ

2018年11月29日

   台湾で11月24日、「原子力発電施設は2025年までに全て運転を停止するものとする」との法規定の廃止に賛成するか否かの住民投票が実施され、法規定の廃止への賛成が反対を上回り、この規定は廃止されることが決定した。本件に関する有効投票数約991万票中、上記法規定の廃止への賛成が約590万票(約60%)、反対が約401万票(約40%)であった。

   この住民投票を主導した団体は、原子力はクリーンエネルギーであり、原子力を活用しつつ未成熟なクリーンエネルギーの将来の発展の基礎を築くべきであることや、再生可能エネルギー開発のための大規模開発による生態環境の破壊を防ぐべきであると主張していた。また、約70%の住民が脱原子力の目標達成のための電力供給制限を望んでいない等の世論調査結果を示し、支持を呼び掛けていた。

   台湾では、輸出品目の約45%を電気機器及び部品が、約13%を化学品が占めており、電力料金の値上がりは外需主導型の台湾経済に大きな影響を及ぼす。現政権は、2025年には電力供給の20%を再生可能エネルギーで賄うとの目標を掲げているが、2016年時点で風力と太陽光による発電量は全発電電力量の2%強を占めるに過ぎない。台湾で原子力は石炭に次いで安価な発電源であり、電力料金値上がりへの懸念が今回の投票結果の一因になったと考えられる。

   また、電力の供給安定性に対する懸念も、今回の結果の一因であろう。台湾では昨年夏期に、「電力供給制限警戒」を示す赤信号(ピーク時電力供給余力が90万kW以下)が点灯した日が数日あった。今年も5月29日にはピーク時電力供給余力が105万kW、供給予備率が2.89%まで低下するなど、夏期を中心に厳しい電力供給が続いている。電力供給制限の赤信号は電力の供給制限への警戒を促すものであり、さらに供給余力が50万kW以下となると供給制限の準備が開始される。

   電力供給制限となれば半導体、液晶パネルや石油化学、金属など24時間連続稼働が必要な業界に大きな打撃となる可能性もあり、産業界は、運転停止中の原子炉の再稼働で電力の安定供給を図るべきであると訴えていた。例えば、経済団体である中華民国工商協進会の理事長は昨年8月に蔡総統と会見しているが、その際にトラブルで長期間運転停止していた第一原子力発電所1号機と第二原子力発電所2号機の再稼働や、完工間近ながら一時閉鎖状態にある第四原子力発電所の運転開始を要求した。しかし、安価な電力の安定供給を最重要課題と考える産業界と、脱原子力政策を固守しようとする蔡総統の見解の相違は埋まらなかった。

   今回の住民投票により、台湾においては、性急な脱原子力よりも、安価で安定した電力供給を求める民意が示されたと言える。東アジアを見渡すと、福島第一原子力発電所事故に影響を受け原子力発電が足踏みしている日本を尻目に、中国では積極的な原子力開発が進められており、国際的にも注目される第3世代炉のAP1000が計3基、EPRが1基既に運転を開始している。また、2017年に漸進的脱原発を掲げる文政権が成立した韓国でも、建設が中断された新古里原子力発電所5、6号機の建設が世論調査の結果を踏まえて再開されたほか、原子炉の輸出に向けた取り組みは積極的に進められている。

   今回の原子力を巡る台湾での住民投票結果は、産業界からの電力料金値上りの懸念や、夏季の電力需給のひっ迫を目の当たりにした住民の側からの意思表示であり、今後の同国のエネルギー・原子力政策が注目される。

出典:台湾・中央選挙委員会ウェブサイト他

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