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【ブルガリア】ベレネ原子力発電所計画の再始動、欧州における「再エネ+原子力」の現実的な選択

2019年6月13日

   ブルガリアでは、中止となっていたベレネ原子力発電所建設計画が2018年に入って再始動の運びとなり、2019年5月22日の欧州連合(EU)官報公示をもって、建設再開に向けた投資家選定のプロセスが公式に開始された。外部投資家は世界から広く募集するが、報道等によればブルガリア政府は、可能であれば同国から電力を購入しているセルビア、モンテネグロ、北マケドニアといったバルカン諸国からの参画を得て、ベレネをいわば汎バルカンの発電所として位置づけることも考えているという。

   ブルガリアでは、1970年代から旧ソ連主導のもとで原子力発電所が建設され、1993年までにコズロドイ原子力発電所でVVER計6基(44万kW級4基、100万kW級2基)が運転を開始した。同国ではさらなる原子力拡大を目指し、1987年にベレネ原子力発電所(100万kW級VVER2基)を着工したが、共産主義体制崩壊に伴い、建設は1990年に中止された。その後、ブルガリアは欧州連合(EU)加盟に際し、条件として旧型VVERの閉鎖を求められ、2006年までにコズロドイにあった44万kW級VVER4基が閉鎖された。これらを代替する目的でベレネ計画が2005年に再開されたものの、同計画は2013年に再び中止となっていた。注意しておきたいのは、中止理由は資金調達の難航であって、原子力発電の利用を維持・拡大するというブルガリアの意向は一貫して変わらないという点である。ブルガリアは伝統的にバルカン地域の電力輸出国であり、同国での発電設備容量減少は地域全体に影響を及ぼす。

   地域の発展と生活の質の向上には電力が不可欠だが、ブルガリアで原子力拡大計画が停頓していた間、2017年冬期には供給力不足を理由に、緊急措置として同国からの電力輸出を一時停止する事態が生じた。これは、ブルガリア一国だけでなく地域全体のエネルギー安全保障の観点からも、発電設備容量の拡大が喫緊の課題であることを改めて印象づける出来事であり、かねてからの資金調達難をおしてでも、今回、ベレネ原子力発電所計画が中止後数年で再浮上する大きな要因となった。

   ブルガリアの現在の主力電源は石炭火力だが、石炭火力は老朽化プラントが閉鎖に向かう上、EU大・世界大でのCO2削減要請や石炭ダイベストメント(投資撤退)の潮流から、今後は縮小の一途となる。今後も輸出分を含めた供給力の確保と低炭素化を両立するには、原子力設備容量の回復・拡大が不可欠というのが同国政府の認識である。なお同国は、再生可能エネルギー(再エネ)拡大にも力を入れている。発電電力量に占める再エネ比率(水力含む)は、2000年頃の約6%から2016年の約16%(国際エネルギー機関(IEA)、World Energy Outlook 2018による)へと増大した。

   メディア等ではドイツの事例を筆頭に、再エネ推進と脱原子力がクローズアップされる機会が多い。その影響もあって、あたかも「再エネ+脱原子力」が不可分のセットのように捉えられ、「再エネ+原子力」という組み合わせについては、ともに現状で利用可能な低炭素の選択肢であるにも関わらず、目を背けがちである。しかし実際には、脱原子力の印象が強い欧州でも、今回とりあげるブルガリア以外にも英国、ハンガリー、ルーマニア、チェコほか複数の国々で、この組み合わせ、つまり「再エネ+原子力」が現実的な選択肢として追求されている。さらに、ポーランドにおいても石炭依存低減のカギとして、原子力の新規導入が進められている。いずれの国も、それぞれの自然・地理条件に応じて、合理的に最大限可能な範囲で再エネ拡大の努力を行いつつも、長期ベースロード電源と低炭素電源としての利点を最大限活かすことを目的に、原子力の活用を模索しているのが実態と言える。

   エネルギーの安定供給、気候保全(低炭素化)、受容可能なコストの両立は、エネルギー政策のゴールとして今や世界大の共通理解となっている。しかし資源や地理的条件、社会経済状況、国民性など、世界が持つ多様性を考えれば、手段の選択や組み合わせが国・地域によって大きく異なるのも、ごく自然であるといえよう。

   再生可能エネルギーも原子力も、電力低炭素化のための手段である。エネルギー政策のゴールを見据えて、どのような組み合わせが最適なのか、利用可能なすべての選択肢を公平に吟味することが重要である。

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