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【韓国】韓国原子力学会、脱原子力政策による原子力産業の急速な弱体化に警鐘

2019年7月11日

   韓国原子力学会は6月24日、政府が2017年より推し進める脱原子力政策の影響を受け、原子力産業が急速に弱体化しており、このままでは原子力バリューチェーンが遠からず崩壊すると警告を発した。
       
   韓国では、2017年5月に大統領に就任した文在寅氏が、選挙時の公約をそのまま政策に移す形で、脱原子力政策へと舵を切った。原子力業界の反発は非常に強かったが、政府の立場は、脱原子力といえども、新設を禁止し、設計寿命を満了した原子炉を運転延長せず順次閉鎖していく漸進的なものであって、原子力発電プラントがゼロになる時期は2082年頃となることから、産業界や立地地域に与える影響は限定的なはずだというものであった。
   政府はその上で、この先60年以上にわたって発電プラントの安全な運転を続けていくための人材維持支援策や、原子力産業の構造を国内新設中心から廃炉や原子炉輸出、放射線利用などへと徐々に転換する上での産業界や立地地域に対する支援策を打ち出してきた。
   しかし、原子力学会はこのほどの報告で、こうした政府の楽観的な思惑とは異なり、韓国の原子力産業はすでにあらゆる面で急速に弱体化していると指摘した。原子力学会は2018年10月に学会内に「未来特別委員会」タスクフォースを立ち上げ、人材、研究開発(R&D)、産業の3分野の小委員会を設置して、約半年にわたり脱原子力政策による産業界への影響を調査した。この調査から得られた結果は以下のとおりであった。

●人材:原子力学科に在籍する学生の満足度は依然として高い一方、将来的な就職先の減少を嫌気して転部、転学するケースが増えており、長期的な人材不足が懸念される状況となっている。
●R&D:原子力発電による電力の販売収入を財源とする原子力研究開発基金は脱原子力政策による原子力発電量の減少に伴って2022年以降急減する見通しであり、研究基盤の崩壊が懸念される。
●産業:脱原子力政策の影響により、すでに設計・エンジニアリング企業や中小企業の経営は悪化し、雇用調整が広がっている。また、原子力発電の設備利用率の低下は電力会社の経営基盤悪化に直結することが明らかになっており、韓国電力は赤字に転落している。この影響で、必要な研究開発に十分な資金が回っていない。政府が推進を打ち出している廃炉産業は新設産業の規模に遥かに及ばず、原子力産業維持への貢献は望めない。

   原子力学会はこうした調査結果を踏まえ、このままでは10年以内に原子力バリューチェーンが崩壊すると警告し、産業や立地地域への影響は限定的とする政府の主張は誤りであると結論づけた。
   その上で、国内での新設なしには、今後の安全な運転を続けるための技術と人材の維持も不可能であるとして、建設計画の正式撤回が保留となっている新ハンウル3、4号機の建設再開を検討するよう求めた。原子力学会はまた、新ハンウル3、4号機の建設再開が、輸出相手国に対し韓国が脱原子力政策を適切に見直す意思を示すシグナルとなり、今後の輸出に弾みがつくと主張した。

   さらに、原子力学会は、脱原子力政策は、国のエネルギー安全保障にも悪影響を与えると指摘している。原子力発電を代替するためとして政府が拡大を唱える再生可能エネルギー発電は、韓国においてもまだまだコスト高で、導入の推進には財政支援が欠かせない。原子力を代替するもう一つの電源として期待されているLNG発電は、全量を輸入に依存しており、もとより燃料コストが原子力より高いうえ、価格変動リスクを抱える。実際、2018年の間、安全対策のためとはいえ複数の原子力発電プラントが停止し、代替としてLNG発電を増やした結果、韓国電力は大幅な赤字を記録した。燃料コストの上昇を吸収しようとすれば、電気料金の大幅値上げは本来避けられないところ、料金を低く据え置こうとする国の政策によって、しわ寄せが韓国電力の経営を圧迫する形となって表れている。

   こうした原子力学会の呼びかけに対し、政府がどのような反応を示すかは未知数である。特に、新ハンウル3、4号機の建設再開の議論は、国内での新設を認めないとした政府方針に見直しを迫ることになるため、一筋縄ではいかないであろう。しかし、国内で脱原子力を唱えながら輸出は推進するという都合の良い理屈が通用しないことは、明らかになりつつある。すでに報じられているとおり、韓国にとって初の輸出案件となったアラブ首長国連邦(UAE)のバラカ原子力発電所の案件では、建設者である韓国側が当然に得られる果実と期待していた保守契約を5年という年限で区切られ、これは韓国の脱原子力政策に対するUAEの不信の表れであるとの見方が示されている。
   原子力学会が主張するとおり、今後60年間、原子力を安全に使い続けるには、産業の崩壊を食い止める方策が必要である。国内産業を活気づけるとともに、国外展開を見据えて相手国からの信頼を失わないためにも、自国内での原子炉新設再開を、あらためて真摯に検討するべきであろう。
   韓国は天然資源に恵まれず、国際連系線もないため、エネルギーミックスを自国で完結させなければならないなど、エネルギー事情は日本と共通するところが多い。原子力を安全に使い続け、輸出に活路を見出すには国内での新設が必須であるとする韓国原子力学会の切実な訴えが今後どのように扱われるのか、注目したい。

以上


【作成:株式会社三菱総合研究所】 

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