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【EU】 EUにおける原子力の役割への評価に変化の兆し---気候変動対策の緊急性を意識

2020年3月4日

   気候変動については近年、世界大でますますその重要性、緊急性の認識が高まっているが、中でも欧州連合(EU)は、とりわけ積極的な旗振り役であり、野心的な温室効果ガス(GHG)削減目標を掲げるとともに、その目標達成に向けた取組を加盟国に求めている。EUは、2030年までにGHG排出量を1990年比40%減とする目標を掲げているが、目下、2030年の削減目標を50%、さらには55%減まで引き上げ、2050年までには排出量正味ゼロの「気候中立(Climate Neutral)[※1] 」を目指す方向で議論が進められている。

   GHGの排出量削減を図る上で、決して切り離すことができないのがエネルギー問題だが、EUにおいて、自国でどのようなエネルギー政策を策定し実施するかは、加盟各国の裁量に委ねられている。なお、再生可能エネルギー(再エネ)については、EU再生可能エネルギー指令(2018年)を通じて、2030年までに域内全体の最終消費エネルギーの32%以上を再エネで賄うことを目標として、これに基づく国別目標を各国に課すなど、拘束力のある施策をとっている。これは再エネについて、加盟国間に拡大推進する方針で一定程度のコンセンサスがあるためであって、いわば例外である。その他の電源、たとえば原子力については、脱原子力国もあれば、原子力を積極的に活用しようという国までさまざまで、原子力という電源の位置づけや今後の利用の是非等について、EUとして何らかの統一的な方向性や見解を示すことはなかった。

   こうした中、欧州議会が2019年11月28日、12月にスペインのマドリードで開かれた第25回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP25)に先立ち、気候対策に関する2件の決議文を採択した。ひとつは「気候非常事態を宣言する決議文」、もうひとつは「COP25に向けた決議文」である。
   いずれの文書も、欧州および世界大で早急に、実効性ある気候対策に取り組むよう求める内容となっている。
   気候非常事態宣言は、欧州委員会および加盟国に対し、手遅れになる前に気候変動の脅威と戦い、封じ込めるために必要な具体的な行動を早急に取るよう呼びかけるもので、折しも欧州における若者による抗議活動が活発化していたこととあいまって、一般に広く報じられた。
   一方で、COPに向けた決議文は過去の回でも発出されており、今さら目を引く新しさはないかのように思われる。しかし、今回のCOP25に向けた決議文には、注目すべきパラグラフが含まれている。内容は以下のとおりである。

第59パラグラフ:「原子力発電は温室効果ガスを排出しないことから、気候目標達成において役割を果たすことができ、また欧州における発電電力量のかなりの割合を確保することができると確信する。しかし発生する廃棄物の問題に鑑み、原子力発電にはセクタ全体の持続可能性向上を目的とした技術革新(レーザ、核融合など)を考慮に入れた中長期戦略が必要であると考える」


   わずか1パラグラフだが、EUの公式文書で「気候変動対策における原子力の役割」について評価が示されたことは特筆に値する。これまで原子力利用に対する態度を保留してきたEUにおいて、原子力に対して肯定的な評価が表に出るようになってきたのは、やはり気候対策について「重要」という認識から、「重要かつ緊急」という認識へと、危機感のステージが変わってきたからであろうと考えられる。
   電力部門のGHG削減を急ぐならば、老朽化した火力プラントの閉鎖を進め、低炭素電源に置き換えていくことが必要である。火力に取って代わる電源として拡大が進められてきた再エネだが、電力システム全体の成熟が追いつかずポテンシャルを十全に活かせない地域、さらにはそもそもポテンシャルに恵まれない地域も多くある。結果として、2020年の現在に至っても、多くの老朽化した火力プラントを抱えたままの地域がEU域内のあちこちに残ってしまった。この状態から今後EUがさらに野心的なGHG削減目標を達成しようというのであれば、電力の確保と気候対策を地域大でとらえ、そろそろ「別の方法」もあるということ、すなわち原子力について、EU全体で向きあわねばならない。

さらにEUにおける原子力発電に対する姿勢の変化は、「EUタクソノミー」を巡る議論にも見て取れる。EUでは、2015年のパリ協定(気候変動枠組条約)に基づく、低炭素で気候変動に強靱な開発に向けたファイナンスの枠組みを構築する取組に向け、2018年に「持続可能な成長に向けた金融アクションプラン」を採択した。EUタクソノミーの策定はこのアクションプランの第1に位置づけられているもので、各業種の経済活動について、どのような活動が「サステナブルな経済活動」に相当するのかを定義・分類するものである。ESG投資が広がりを見せる中、タクソノミーによってEUにおけるサステナブルな活動の定義を明確にしておくことで、投資におけるグリーンウォッシュ(みせかけだけの環境配慮)を回避し、サステナブルな事業への投資を促す狙いがある。2019年12月には欧州議会と欧州理事会(加盟国閣僚で構成)がこのタクソノミーに関して、原子力への投資について、サステナブルな経済活動からの除外対象に含まない内容で合意した。ただし、2019年12月に欧州委員会が公表した2050年までの気候中立に向けた行動計画「欧州グリーン・ディール」に原子力に関する言及はなく、上掲のタクソノミーでの取り扱いも含め、EUとして原子力分野の活動への投資をサステナブルな投資と明確に定義するまでには至っていないのが現状である。
それでも、ポーランドやチェコをはじめ、近年原子力発電の新規導入や増設を計画しているものの資金調達が大きな関門になっている国々にとって、気候変動対策としての原子力オプションを保持しておこうという一定の意思の力がファイナンスの面にも及んできたことは、一筋の光明といえる。
   合意内容がEU法令として発効するのは2021年、ちょうどこれらの国々で、ベンダーを決める入札等、具体的なプロセスが動き出す頃合いである。EUにおける原子力評価の萌芽が今後、欧州及び世界の投資家の行動にどのような、そしてどの程度の影響を及ぼすのか、注目される。


[※1]「気候中立(Climate Neutral)」と類似する概念として、二酸化炭素の排出量と、対策措置による削減量が差し引きゼロ(正味ゼロ)となる状態を指す「炭素中立(Carbon Neutral)」がある。気候中立は、亜酸化窒素やフロンなど炭素系以外も含めた温室効果ガス全体で排出量が正味ゼロとなる状態を指す。


参考文献
●欧州議会、European Parliament resolution of 28 November 2019 on the 2019 UN Climate Change Conference in Madrid, Spain (COP 25) (2019/2712(RSP))、2019年11月
●欧州議会、MOTION FOR A RESOLUTION on the 2019 UN Climate Change Conference in Madrid, Spain (COP 25) (2019/2712(RSP))、2019年11月

以上

 【作成:株式会社三菱総合研究所

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