【世界】 世界における「電化」の動向とクリーンエネルギー
2020年3月30日
「電化」とは、電気を動力源とする製品等の導入を進めることを言う。電化は私達の生活をより豊かにする手段の一つである。図 1に示すように、世界の電力消費量は総じて増加してきた。特に、アジア地域における電力消費量が年々増加している。先進国では、アジア地域に見られるほど電力消費量は大きな伸びを示していないが、図 2に示すように、先進国の多い北米や西欧地域においても電化が進んでいることがわかる。日本に目を向けると、電力消費量はここ数年、約9,500億kWhで推移しており、世界の5%弱を占める。電化率では2018年度で26.0%と世界的に見ても高い水準にあるといえる。
図 1 世界の電力消費量推移
(出典)経済産業省 エネルギー白書2019「第2部 エネルギー動向 / 第2章 国際エネルギー動向」、第223-1-1より引用
*日本のみ1980年度と2018年度の比較
図 2 世界の電化率の動向
(出典)経済産業省 エネルギー白書2019、総合エネルギー統計をもとに三菱総合研究所作成
ただし、電化と言っても先進国と発展途上国ではその位置づけも異なるし、電力供給設備の導入についても考え方が異なる。
先進国では、気候変動問題の解決のため、電気自動車の普及を進める動きがある。例えばドイツでは、2030 年までに500万台の電気自動車導入を目指しており、日本でも、単純比較はできないが、2030年の新車販売台数の 20~30%を電気自動車またはプラグイン・ハイブリッド車とする政府目標を掲げている。また、IT導入による生産プロセスの自動化・省人化によって電化が進み、社会活動の持続的な発展に向けた社会の高付加価値化が進んでいる。電化を支える電力供給においても、発電の脱炭素化を進めることについてはコンセンサスが得られている。多くの先進国においては再生可能エネルギーの普及を促進する政策が見られるが、発電時に温室効果ガスを排出しない原子力発電についても、脱炭素化の価値を認め、財政的支援策を打ち出す米国のような例もある。
一方、発展途上国における「電化」が意味するところは、地域によって異なる。すでに電力供給インフラがある程度整備されつつある中国やインド等の地域では、電灯から、洗濯機、エアコン等の電気製品に至るまで徐々に普及が進み、「電化」が進んでいる。電力供給においては、石炭火力発電の利用が盛んであるが、中国やインドなどの人口が多い地域では、今後の経済発展やさらなる電化による電力需要の増加を見込んで電気を大規模かつ安定的に供給できる、100万kW超級の原子力発電も導入している。これに対して、南アジアやサブサハラアフリカを中心とした地域では、10億人近い人々が、いまだ電力供給をまったく受けておらず、電灯のメリットにすら浴することができていない。これらの国・地域では、まずは明かりをともすという次元の「電化」を進めることが大きな課題の一つとなっているが、発電や送配電を含む電力供給インフラの整備に対する大規模投資が必要となっている。
発展途上国における電力供給においては、先進国が経済発展のために長期間にわたって石炭火力発電を利用してきたように、自国の社会・経済発展のために石炭火力発電を利用する権利があると考えている国・地域もある。しかし、石炭火力発電の長期間にわたる利用が気候変動問題を起こしてきた可能性があるとの問題意識はすでに世界で共有されており、発展途上国が、先進国が歩んできたのと同様の道筋を辿ることは極めて困難であろう。発展途上国の電化にあたっては、高効率石炭火力発電の導入も含め、経済発展と気候変動問題の解決に同時にアプローチすることが求められることとなろう。
発展途上国では、風力や太陽光等のカーボンフリーな再エネの導入のための天然資源にも恵まれている地域があり、再エネ導入は極めて有望な選択肢の一つとされているが、間欠性の再エネ発電の効率的な利用のための技術開発はまだ道半ばである。同じカーボンフリー電源である原子力については、既存の大型炉は大規模な送電網の整備が必要であり、また、建設費用負担も重いことから導入は難しい。しかし、近年米国を中心に開発が進む、マイクロリアクターがその問題を解決しようとしている。マイクロリアクターは、最大1万kWの出力の原子炉で、既存の大型炉と比較して、より設計も単純化され安全性も向上したものであるとされている。10年以上もの間燃料供給が不要とされ、災害地における電力供給や送電網が発達していない地域への導入も想定した開発が進められている。
先進国を中心に脱炭素社会の実現に向けた議論は活発であるが、上記のように、発展途上国における電化を進めることや電力供給に係る議論を行う上では先進国におけるコミットメントも重要であり、発展途上国の経済発展と気候変動問題への対処の実現もまた、投資だけでなく技術開発も含めて先進国の役割が大きく期待されている。
以上
【作成:株式会社三菱総合研究所】
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