[世界] IEAのWEO最新版、「パンデミック影響下では適切なエネルギー政策が必要」と指摘
2020年10月28日
国際エネルギー機関(IEA)は10月13日、世界のエネルギー・システムが今後10年間でどのように展開していくか包括的に検証した「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)2020年版」を公表した。
今年は、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大(パンデミック)が世界中のエネルギー部門にかつてないほどの混乱を引き起こし、その傷跡の影響は今後何年にもわたり続いていくと予想される。
これに対し、このような大混乱がクリーン・エネルギー社会への転換加速や地球温暖化の防止という目標の達成に対してどのように働くかは、各国政府による対応の仕方と十分に検討された適切なエネルギー政策にかかっていると報告書は強調している。
IEAは今回、世界のエネルギー供給システムを一層確実かつ持続可能なものにするための努力が新型コロナウイルス危機によって後退させられるのか、あるいは逆にクリーン・エネルギー社会への移行を加速する触媒となるのか、断定するには時期尚早だと説明。
パンデミックは未だに終息しておらず、数多くの不確定要素を残したままエネルギー政策に関する重要判断がこれから下されることになる。
このためIEAは今回のWEOで、2030年までの重要な10年間に新型コロナウイルス危機からの脱却に向けた複数のシナリオを検証。
エネルギー部門や地球温暖化の防止対応にとって極めて重要なこの時期に、人類がこれから進もうとしている立ち位置を形作る様々な選択肢やチャンス、あるいは隠れた危険の特性について、IEAは今回のWEOでその可能性を幅広く想定した。
今回のWEO評価によると、2020年は世界のエネルギー需要が5%低下する見通し。
これにともない、エネルギー関係のCO2排出量は7%、投資は18%減少する。
影響は燃料毎に異なっており、石油の需要量は8%減、石炭の利用量が7%減少するのに対し、再生可能エネルギーへの需要はわずかに上昇。
天然ガスの需要量も約3%減少するが、電力需要の低下は比較的穏やかな2%程度だとした。
エネルギー部門のCO2排出量も24億トン低下し、年間排出量は10年前のレベルに戻るとしたが、強力な温室効果ガスであるメタンの年間排出量が同じように低下しないと警鐘を鳴らしている。
世界のエネルギー部門は4種類のシナリオで展開
エネルギー部門の今後に関しては予測方向が一つに絞られているわけではなく、IEAはパンデミックによる社会や経済への影響、対応政策によって、将来的なエネルギー動向には幅広い可能性があるとした。
このような不明部分を複数の評価方法で考慮するため、IEAは最新のエネルギー市場データやエネルギー技術などとともに以下のシナリオを検証している。
•「すでに公表済みの政策によるシナリオ(STEPS)」:これまでに公表された政策や目標を全面的に反映したシナリオで、2021年に新型コロナウイルス危機が次第に沈静化し、世界経済は同年中に同危機以前のレベルに戻る。
•「危機からの回復が遅れるシナリオ(DRS)」:前提となる政策はSTEPSと同じだが、世界経済に対するパンデミックの影響が長期化することを想定しており、危機以前のレベルに戻るのは2023年になってから。
•「持続可能な開発シナリオ(SDS)」:このシナリオでは、クリーン・エネルギー政策や投資が大規模に展開され、世界のエネルギー供給システムはパリ協定など持続可能な開発目標の達成に向けて順調に進展する。
•「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するケース(NZE2050)」:IEAが今回新たに加えたシナリオで、SDSの分析を拡大展開させたもの。現在、数多くの国や企業が今世紀半ばまでに排出量の実質ゼロ化を目指しており、SDSシナリオでは2070年までにこれらが達成できる見通し。NZE2050シナリオではこれを2050年までに達成するため、今後10年間で何が必要になるか詳細なIEAモデルを示している。
IEAの分析によると、世界のエネルギー需要が危機以前のレベルに戻るのはSTEPSでも2023年初頭のこと。
DRSではパンデミックの影響長期化と深刻な不況により、2025年まで戻らないとした。
また、電気を利用できない人々の状況については過去数年間の進展が覆され、今年はサハラ以南のアフリカ大陸で利用不能の人口が増加する見通しである。
再生可能エネルギーはすべてのシナリオで利用が急速に拡大すると予想されており、太陽光発電は数多くの新しい発電技術の中でも中心的な立場を獲得。
これに加えてSDSとNZE2050では、原子力発電所の建設もクリーン・エネルギー社会への移行に大いに貢献するとしている。
IEAはまた、CO2排出量の削減問題で発電部門は主導権を握っているが、エネルギー部門全体でこの問題に取り組むには幅広い戦略と技術が必要になると指摘。
SDSでは2030年までに太陽光発電による発電量が現在の3倍近くになり、発電部門のCO2排出量は40%以上削減される。
このように再生可能エネルギーと原子力による発電量が増えるにつれて発電部門からのCO2排出量が抑えられるなど、エネルギー消費全体の中で電力の果たす役割はますます大きくなるとしている。
IEAはさらに、NZE2050のシナリオどおり2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するには、次の10年間でさらに意欲的なアクションを取る必要があると表明。
2030年までに排出量の約40%を削減するため、この年までに世界の総発電量の75%近くまでを低炭素エネルギー源から賄い、販売される乗用車の50%以上を電気自動車にしなければならない。
また、電力供給に限らず行動様式の変更や効率性の強化など、これらすべてがそれぞれの役割を果たし、水素発電から小型モジュール炉(SMR)に至るまで幅広い分野の技術革新を加速する必要があるとしている。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
【情報提供:一般社団法人日本原子力産業協会】
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