海外電力関連 トピックス情報

【国際】 脱炭素社会実現に向けた水素利活用動向

2021年1月20日

   脱炭素社会の実現に向けては、欧州では2050年までに温室効果ガス削減目標を掲げているほか、米国の次期バイデン政権も気候変動対策の強化を公約に掲げる。欧米だけでなく、中国も2060年にカーボンニュートラルを目指すことが表明され、脱炭素社会の実現は世界の潮流である。もちろん、日本においても菅総理が所信表明演説において、2050年までに温室効果ガス排出をゼロとする脱炭素社会の実現を目指すことを宣言している。
   脱炭素社会の実現に向けて、水素の利活用が注目されている。水素は燃焼させてもCO2を排出しないといったメリットがあり、日本を含め英国や仏国、独国、米国等は、乗用車やトラック・バス、船・航空機といった運輸部門を中心に需要のポテンシャルがあるとし、世界中で燃料電池車(FCV)等の研究開発が進められている。
   国際エネルギー機関(IEA)は、パリ協定等を遵守する場合のシナリオにおいて世界の水素需要は、発電や運輸、合成燃料製造の需要が伸びるとし、2019年の約7,100万トンから2050年には約2億9,000万トンになり、2050年以降も水素需要は増加し続けると見込んでいる。日本は水素導入目標について、昨年末に公表されたグリーン成長戦略の中で、2030年に最大300万トン(IEAが予測する世界需要量の約3%に相当)、2050年に2,000万トン(IEAが予測する世界需要量の約7%に相当)の導入目標を掲げている。


図 1 IEAが推測する水素需要予測
(出典)IEA、Energy Technology Perspectives 2020、Last updated 9 Sep 2020、https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/global-hydrogen-demand-by-sector-in-the-sustainable-development-scenario-2019-2070、” Global hydrogen demand by sector in the Sustainable Development Scenario, 2019-2070”より三菱総合研究所作成

   このように、水素はCO2を排出しないメリットがあり、需要拡大も見込まれる一方で、現状ではまだ、他のエネルギー源と比較して製造や輸送に係るコストが高いほか、現在使用されている水素の多くは製造段階でCO2を排出しているという課題がある。そのため、資源国と協力した水素製造施設の実証試験や再生可能エネルギー等のCO2フリー電源を用いた水素製造などの研究開発も積極的に行われている。
   水素製造においては、既存の確立された技術である原子力を用いた水素製造にも注目が集まる。それは、カーボンフリーな電力を供給できるだけでなく、水素製造過程において温室効果ガスを排出しないグリーン水素の製造にも一定のポテンシャルを有すると見られているからである。米国では、再生可能エネルギーの導入によって発電量が増加する中で、発送電部門の柔軟性や安全性の確保を目的として、既設炉での水素製造の研究を行うプログラムが近年立ち上げられた。3つの原子力プラントを所有するアリゾナ・パブリック・サービシズ(APS)社は、再生可能エネルギーが主力となりつつある電力市場において、発電と水素製造を柔軟に切り替える方法に関する知見の獲得が行われている。APS社は、原子力発電所で製造した水素を貯蔵し、太陽光発電による電力が得られない時間帯や発電量が不足している時間に、燃料電池のエネルギー源として利用や、水素を用いた輸送手段への活用を検討している。

 
   日本での水素の供給においては、国内では水の電気分解や副生による水素調達を見込んでいるが、再生可能エネルギー導入の自然・社会的制約から需要ポテンシャルを満たすために、多くは輸入に依存することになるとされる。このことから、日本は、水電解装置の高効率化・耐久性向上や国際的な水素サプライチェーンの構築等に注力をしているが、エネルギー安全保障の観点からは、国産水素の製造拡大の可能性にも注力すべきであろう。日本には、水素製造にも適した高温ガス炉と呼ばれる原子炉の研究実績が豊富にあり、2019年には世界で初めて高温ガス炉を用いた水素製造に成功した研究成果も公表されている。水素製造にかかる革新的技術として光触媒や固体酸化物形水電解などが挙げられるが、これらと並行して原子力を活用した水素製造等が日本の脱炭素社会の実現に大きく寄与する可能性が秘められている。


図 2 高温ガス炉を用いた水素製造イメージ

 以上

【作成:株式会社三菱総合研究所

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