海外電力関連 トピックス情報

【韓国】 LNG火力依存のリスクが韓国でも議論に

2021年2月18日

   今冬、日本では寒波襲来に伴って電力需要が急増する中、LNG火力の燃料在庫が大きく減少し、これにより電力の安定供給不安から卸電力市場ではスポット価格が一時250円/kWhまで高騰するといった局面に見舞われた。日本と同様に国内に天然資源を持たず、LNG火力への依存度を高めつつある韓国では、同様の事態は起こらなかったのだろうか。
   結論から言えば、韓国では日本ほどの混乱はなかった。これは後述するとおり、電力市場の構造などに起因するところもある。ただし今後、LNG燃料の価格高騰が電気料金に跳ね返ってくることが懸念されている。本稿では、日本ともエネルギー環境で類似する韓国のエネルギー政策、カーボンニュートラル政策の方向性と、足元の電力ミックスの状況を確認した上で、同国が日本と同様の状況に至らなかった理由を考察している。なお、今回こそ電力需給のひっ迫や卸市場の混乱を経験することはなかったものの、隣国日本の状況やLNGスポット価格インデックスを睨み、韓国国内でもLNG火力への依存に警鐘を鳴らす声が高まっており、直近の報道ぶりを本稿の最後に紹介する。

【韓国のエネルギー、カーボンニュートラル政策と原子力業界の反応】
   文在寅(ムンジェイン)政権下で、脱石炭火力と脱原子力を同時に進めている韓国政府は、2020年12月28日に、今後15年間の電源開発計画を示す第9次電力需給基本計画(以下、第9次電力計画)を決定・発表した。同計画には、従来の方針どおり、再生可能エネルギーを拡大し、LNG火力をそのバックアップと位置付けて、両者を当面の電力供給の主体としていく方向性が改めて明示された。老朽化した石炭火力発電所の退役を加速するとともに、この退役分はLNG火力発電所の新設によって大部分を代替する方針が確認された。

   気候変動へ取り組みの加速は、昨秋以来世界的な潮流となった。日本では菅政権が2020年10月、2050年のカーボンニュートラル達成を宣言しているが、韓国もまた日本と同様にカーボンニュートラルの実現時期を2050年と定めて動き出した。文政権は第9次電力計画の決定に数週間先だって、2050年のカーボンニュートラル達成を目標とする「カーボンニュートラルビジョン2050」を閣議決定し、ここでも化石燃料が中心となっている電力供給システムを再生可能エネルギーとグリーン水素中心に転換する方針が示され、石炭火力の縮減の加速と、当面の橋渡しとしてLNG火力比率の引き上げが謳われた。

   将来のエネルギー利用に関する政府の重要な方針が相次いで示されたことに対し、韓国原子力学会は、第9次電力計画発表直後の12月29日に「2050年カーボンニュートラル、いかに達成すべきか」と題するウェブシンポジウムを開催した。このシンポジウムに登壇したエネルギー・原子力研究者らは一様に、第9次計画は脱原子力政策に固執するあまり、カーボンフリーという国際的約束からかけ離れた計画になっていると批判した。
   石炭火力に比べてCO2排出量は少ないとはいえLNG火力もCO2排出源である。さらには価格変動リスクを内包するだけでなく、安定的な調達にも脆弱性をはらむLNG火力で石炭火力を順次代替させることでベースロード電源としての役割を期待する計画は、現実を直視しておらず、資源のない韓国の社会経済に将来的に大きな影響を与えかねないと警告した。

【寒波の影響が深刻でなかった理由】
   日本で寒波による電力需給のひっ迫が明らかになった1月初旬は、韓国も同様の寒波に見舞われた。1月11日には設備予備率が9.5%まで低下したことで、政府はPM2.5対策のための石炭火力の出力制限を一時解除して対応したが、それ以外の日はおおむね一貫して安定的に推移した。石炭火力の縮減をエネルギー政策の中心に掲げ、LNG火力への依存度を徐々に増やすという似通った政策をとる日本と韓国での、この違いは何に起因するのか。
   特に、寒波が襲った1月初旬の状況に限るならば、やはり、安定的に電力を供給できるいわゆるベースロード電源による発電量が十分に確保できていたか否か、だったといえよう。韓国は脱石炭火力・脱原子力に向かうとはいえ、目下主要なベースロード電源であるこの2つの電源が全体の発電電力量(GWh)に占める比率は65%を超える。一方日本は38%にすぎない。中でも原子力の比率は韓国が25%程度であるのに対し、日本は6%台にとどまっている。これらはいずれも2019年の値であるが、傾向としては2020年も大きくは変わっていない。
   一方、LNG火力の比率は日本が33.9%、韓国が26.0%と、一見大差はない。ただし、LNG火力を、再エネ自立までの間のバックアップ電源に据えるという政策の方向性に照らして、仮にLNGをベースロード電源の一部とみなして比較してみると、日本はベースロード電源の約47%をLNG火力に依存することになるのに対し韓国は約28%と、大きな差になって現れる。



(出典)IEA、Energy Balance、Japan 2019およびKorea 2019より作成

   脱原子力を志向しながらも、現状において原子力の発電電力量が全体の約25%を占める韓国と、原子力は技術が確立したベースロード電源であると位置付けながら、再稼働の遅れによって現実にはその価値を生かすことができなかった日本との対照ぶりは明らかであり、また、日本のLNG火力への依存度が突出していることが見て取れる。

   冬の電力需給のひっ迫を顧みれば、日本では、LNG火力への過度の期待と楽観が、足元の電力供給安定への目配りを欠かせてしまったことは否定できないだろう。北東アジアのLNGスポット価格インデックスであるJKMも2020年春頃までは極めて安価に推移してきたため、廉価で安定的な電源としての将来期待が高まったことも無理はない。

   実際、日本ではLNG火力を、石油火力よりも低コストのミドル電源と位置付けることがあるのに対し、韓国ではLNG火力は石油火力より高コストのピーク電源の扱いである。1月の寒波の影響で韓国では石炭火力の焚き増しを余儀なくされたことがわかっているが、高コストの石油火力、LNG火力にまで頼らざるを得ない事態であったかのような情報は確認されていない。


図:韓国の電源メリットオーダーイメージ図
(出典)韓国卸電力市場(KPX)

   LNGの7~8割以上が長期契約で調達されており、本来は調達コストが安定的であることは日本も韓国も同様である。今般の日本の状況は特殊事情が重なった側面もあり、LNG火力を電源ミックスに組み込むこと自体がハイリスクであるかのような解釈は実態を見誤る可能性はある。
   しかし、韓国の有識者が指摘するように、当面の間LNG価格は原油価格と連動して変動しやすい状況にある上、大消費国のポテンシャルを有する中国もLNG調達に力を入れることはすでに広く知られており、今後の、再度の需給のひっ迫可能性はリスクとして織り込む必要がある。さらに、日本も韓国も天然ガスの調達ルートとしてパイプラインを有しておらず、もっぱら海上輸送のLNG船による調達に依存していることも調達難に見舞われるリスクを高める要因である。
   エネルギー安全保障上、LNGは、必ずしも石炭・原子力に替わるベースロード電源として安心して依存できるエネルギー源とは言い難いことは認識しておく必要がある。やはりあくまでピーク電源に近い位置づけで電源ミックスに組み込むのが妥当であろう。

【韓国でのLNG火力依存の直近の議論】
   韓国では年初のLNGスポット価格インデックスの急騰が電力需給に影響を与えたかのような兆候はみられなかった。日本とは電力卸市場の制度上の違いもあり、卸市場のシステムプライスは約2か月前の燃料価格に連動する。そのため1月中の電力価格は低め安定のまま推移した。
   LNGスポット価格は1月中には落ち着きを取り戻したことから、2月の卸電力価格にもこれまでのところ、大きな変動はみられない。
   しかし、今般のLNG価格の高騰は今後の電気料金に反映され、やがて国民に負担を強いることになると指摘し、「脱原子力下でLNGパラドックスが拡大した」といった論調の報道も見られるようになってきた。現地有力紙の中央日報は、1月のLNGスポット価格の高騰にもかかわらず、韓国の1月のLNG輸入量は前月の2倍に上ったと報じ、長期契約による調達分を超えて需要が伸びれば、高いスポット価格での調達は今後も避けられない、とした韓国ガス公社側のコメントも引用している。
   その上で、これまで韓国のベースロード電源の役割を担ってきた原子力の縮減をLNG火力拡大という手段によって代替させようとすれば、LNGの全量を輸入に依存している状況下では、今回のようにLNG価格が急騰した場合でも高値で調達するしか手段がなく、今後の電気料金に反映されて国民負担を増やす、と指摘した。
   また、日中韓という東アジア3か国がこぞってLNG火力の拡大を志向している中、今般の悪天候による電力のひっ迫とLNG価格の大幅な変動は、主力電源である石炭火力の縮減を拙速に進めることが、いかにエネルギー安全保障上も危険なことであるかを示したとの指摘もみられる。
   長期的に見るならば、石炭火力の一定の縮減は温室効果ガス削減の観点に加え、中国、韓国でも問題となっているPM2.5問題など、環境保全の面からほぼ動かし難い中、有力なベースロード電源として技術的にも確立した電源である原子力の価値の適切な見直し議論は、おそらくは韓国においても、今後高まっていくのではないか。

●参考文献

・韓国原子力学会シンポジウム「2050年カーボンニュートラル、いかに達成すべきか」2020年12月29日
https://www.youtube.com/watch?v=qkxgY5qjivQ
・IEA、Energy Balance、Japan 2019
https://www.iea.org/countries/japan
・IEA、Energy Balance、Korea 2019
https://www.iea.org/countries/korea
・エネ百科 原子力・エネルギー図面集
https://www.ene100.jp/zumen/1-2-11
・中央日報、2021年2月8日
https://news.joins.com/article/23987885
・毎日・経済新聞、2021年1月23日
https://www.mk.co.kr/news/business/view/2021/02/113085/

【作成:株式会社三菱総合研究所

 

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