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【国際】 米シンクタンク、原子力の平和利用に関する国際秩序ならびに気候変動の観点から日本の継続的な原子力利用の重要性を提言

2021年4月15日

   米国シンクタンク大西洋評議会(Atlantic Council)から「日本の原子力発電所の早期閉鎖に対する地政学・気候変動の観点からの示唆」と題するレポートが刊行された。大西洋評議会は、主に政治・経済・安全保障問題等を扱う米国の国際問題シンクタンクであり、米国政府とのつながりも強く、元米国政府高官等も在籍している著名なシンクタンクの一つである。
   今回刊行された同レポートでは、主に日本の原子力事業環境も踏まえたエネルギー安全保障上の課題を起点とし、中国およびロシアが世界の原子力市場を席巻しつつある現状、これまで米国が同盟国とともに築いてきた原子力の平和利用・核不拡散に関する国際的管理体制(IAEAの創設など)およびその影響力の維持といった観点での日本に対する原子力利用への期待と、気候変動対応としての原子力利用・再エネ活用の加速に向けた期待をとりまとめている。
   本稿では、同レポートの概要を以下で紹介し、日本におけるエネルギー政策上の原子力の位置づけについての示唆を得ることとする。

地政学リスクにさらされる日本のエネルギーミックス~オイルショック時よりも輸入依存度の高い現状を懸念
   同レポートでは、まず導入として日本のエネルギー安全保障上の歴史を振り返りつつ、現在の課題を指摘している。3.11以降、日本のエネルギーミックスに占める原子力の比率は低下し(図1参照)、化石燃料への依存度が高まっている。特にレポートの中では、日本の電源構成における輸入化石燃料への依存度は1973年時点で76%であり、2010年にはこれが61%まで低下、しかし、2012年には再度88%まで上昇していたことに言及している。これを踏まえ、1970年代に発生したオイルショック後、準国産エネルギーである原子力利用を拡大し、エネルギー自給率を向上させて、エネルギー安全保障上のリスクの低減を進めてきたこれまでの取組みから一転、今やオイルショック前の状況よりもエネルギー安全保障上不安定な状況にある(図2参照)と指摘した。


図1:日本の電源構成の推移(供給)
(出典:資源エネルギー庁, 2019—日本が抱えているエネルギー問題(前編), https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2019.htmlより引用)


図2:日本のエネルギー自給率の推移
(出典:資源エネルギー庁, 日本のエネルギー2018 「エネルギーの今を知る10の質問」,https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2018/html/001/より引用)

国際的な原子力平和利用において日本の役割は不可欠
    このようにエネルギー安全保障上の課題を客観的に指摘しつつ、日本において原子力利用が必要である理由を、「原子力の平和利用および国際的な秩序の維持・確保」の観点と、昨今の世界的な脱炭素の潮流等を踏まえた「気候変動対応」の観点の2つの側面から論じている。
   まず、「原子力の平和利用および国際的な秩序の維持・確保」の観点である。
   同レポートでは、米国が同盟国との連携の下で世界の原子力発電市場を主導(1969〜1990年の間、米国原子炉メーカーは世界の原子力発電所の41%を建設)してきたこと等、商用炉において技術的優位にあった米国だからこそ原子力技術の利用・輸出を管理する国際的な体制の構築を主導し、また、核不拡散・原子力の平和利用を利用各国に義務づけることができたと振り返っている。
   しかし、米国はもはや突出した原子力発電の建設国でも輸出国でなく、ロシアの主導、中国の追い上げが目覚ましい状況にある。米国の優位性の相対的低下に伴い、日本を含めた同盟国との協力が、原子力の平和利用・核不拡散を維持するとともに、核拡散を押しとどめるために必要不可欠な状況にあるとして次のとおり主張している(図3参照)。
・   日本の原子力利用の低迷は日本国内のエネルギーミックス達成の課題にとどまらず、国際的な原子力の平和利用およびその秩序の維持・確保にも影響する。
・   日本の原子力発電所の早期閉鎖および新増設・リプレースの欠如は、海外への原子力技術の輸出能力にも悪影響を与えることが懸念される。
・   現在、ロシアおよび中国が世界の原子力市場を席巻しようとしている状況に鑑み、米国、日本および同盟国の原子力産業の強化が必要。
すなわち、日本国内のエネルギーミックスの観点を超え、日本における早期閉鎖等の原子力利用の停滞および原子力事業環境の弱体化が、世界の「原子力の平和利用および国際的な秩序の維持・確保」を達成していくうえでの脅威となりうるとの主張である。


図3:世界の原子炉の建設企業 国別内訳(1969-1990および1991-2017)
(出典:Travis Carless, “The US Shouldn’t Abandon the Nuclear Energy Market,” Issues in Science and Technology, XXXVI (2) (Winter 2020), https://issues.org/the-us-shouldnt-abandon-the-nuclear-energy-market/,より翻訳し引用、ただし図中赤枠破線、中央線、キャプションは三菱総合研究所にて加筆)

なお、「気候変動対応」の観点では、主として次のとおり主張している。
・   日本では2050年カーボンニュートラルの目標が定められたものの、原子力発電所の再稼働遅延ならびに多数の原子力発電所の早期閉鎖が目標達成を阻害している。
・   エネルギー効率の改善や再エネの増加により、2013~2019年にかけて温室効果ガスの排出量は減少したものの、2050年カーボンニュートラルはもちろん、2030年時点での2013年比26%削減も困難な状況にある。
すなわち、昨今の世界的な脱炭素の潮流の中で、日本も掲げるカーボンニュートラルの実現等の環境目標の達成は、原子力発電の利用無くして難しいとの主張である。

日本への5つの提言
   こうした観点から、日本において原子力発電を継続的に利用していく必要性を投げかけたうえで、日本に対する提言を以下の5つに取りまとめている。
・   既存原子力発電所の2050年までの中長期的な利用
2030年、2050年等の気候変動対応目標に向け、温室効果ガス排出削減のためには既設原子力発電の利用が重要であるとともに、エネルギーの輸入依存の影響緩和につながる
・   原子力技術に関する交易への継続的な関与
日本の民生用原子力技術の輸出は、強力な核不拡散・安全基準に基づく国際秩序を維持するために重要である
・   小型モジュール炉(SMR)を含む先進原子力技術の活用方策の整備、早期の展開
先進原子力技術は、日本が世界の民生用原子力技術の輸出において影響力のある地位を取り戻すことに貢献するとともに、再エネの導入や送電網の分散化にも貢献し、低炭素エネルギーの供給源となる
・   原子力人材の確保および原子力への国民の信頼の再構築
原子力の安全性を強調するとともに、再エネの導入や気候変動影響の緩和に原子力が貢献することを広く社会に伝えることで、原子力に関係する人材の確保を図り、原子力を志す学生の急激な減少を食い止めなければならない
・   世界的な気候変動対応における主導的立場の回復
原子力発電が、成長する再エネを補完し、連携することで、化石燃料(特に石炭)利用からの脱却を実現すべき
総じて、日本の原子力利用を促進し、先に述べた「原子力の平和利用および国際的なその秩序の維持・確保」の観点および「気候変動対応」の観点での日本の主導的な立場の回復を狙いとしている。特に原子力技術の交易(輸出入)への継続的な関与については、「原子力の平和利用および国際的な秩序の維持・確保」の観点での日本の役割を意識してのことだろう。

まとめ~原子力の平和利用および国際的な秩序の維持・確保に向けた取り組みは日本が果たすべき国際社会での役割の1つ
   同レポートでは、戦後から現在にかけての日本のエネルギー安全保障上の課題を簡潔に振り返りつつ、原子力利用の最近の動向および世界的な脱炭素の潮流に結び付け、継続的な原子力利用の必要性を論じた。これは、わが国のエネルギー戦略の基盤となる「エネルギー基本計画」の論理構成および議論の流れにも相通じるものといえるだろう。
   現在総合資源エネルギー調査会基本政策分科会にて進められている第5次エネルギー基本計画の見直し検討の中でも、同レポートの指摘する「エネルギー安全保障」、「原子力の平和利用および国際的な秩序の維持・確保」、「気候変動対応」の大きく3つの観点のうち、「エネルギー安全保障」や「気候変動対応」については、S+3Eの大原則とともに、活発な議論が行われているところである。なお、「気候変動対応」等の観点で原子力を継続的に利用すべきといった主張は、例えばIEA(国際エネルギー機関)のレポート「Nuclear Power in a Clean Energy System」(2019年5月)等でも確認されているとおり、特段目新しい主張ではないものの、今回の大西洋評議会のレポートのように海外から日本名指しで原子力利用の継続を訴求するレポートは珍しい。
   一方で、「原子力の平和利用および国際的な秩序の維持・確保」という観点については、現在のエネルギー基本計画の見直し検討の中でも、明示的な議論は展開されていない状況と考えられる。「原子力の平和利用および国際的な秩序の維持・確保」の観点での日本の役割に対して、国際社会からの期待が高いことは、エネルギー基本計画の見直し検討の中に対しても示唆を与えるものであり、S+3Eに加え、日本が国際社会で果たすべき原子力平和利用上の役割の重要性という観点での議論も行われてよいのではないだろうか。

●   参考文献
・   大西洋評議会「Japan’s nuclear reactor fleet: The geopolitical and climate implications of accelerated decommissioning」, https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/report/the-geopolitical-impact-of-accelerated-decommissioning-of-japans-nuclear-plants/
・   IEA「Nuclear Power in a Clean Energy System」, https://www.iea.org/reports/nuclear-power-in-a-clean-energy-system

以上

【作成:株式会社三菱総合研究所

 

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