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[国際] IEAの最新WEO、「ネットゼロのペース遅い」と警告

2021年10月19日

英国グラスゴーで今月末から、第26回・国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP)が開催されるのに先立ち、国際エネルギー機関(IEA)は10月13日、世界のエネルギー部門の長期的動向を予測・分析した年次報告書「世界エネルギー見通し2021年版(WEO-2021)」を、COP26向けのハンドブックとして公表した。
その中でIEAは、CO2排出量の増加や自然災害、エネルギー市場における価格の変動といった多くの問題が発生するなか、各国政府はクリーンエネルギー社会への移行を加速する意気込みやアクションを、COP26の場で明確に示す必要があると指摘。
世界では近年、太陽光や風力、電気自動車といった低炭素エネルギー技術の開発がますます加速しているが、「それでもなお、2050年までのCO2排出量の実質ゼロ化に向けて、世界が排出量を長期にわたり持続的に削減していくには、移行ペースが余りにも遅い」と警告している。
IEAは今年5月、2050年までにCO2排出量を実質ゼロとする際の、世界のエネルギー部門におけるロードマップを特別報告書として公表したが、今回のWEO-2021はそのロードマップから、3つのシナリオを主に分析している。
まず、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比較して1.5度℃以下に抑えるという「2050年までの排出量実質ゼロ化シナリオ(NZE)」を活用。
また、各国政府が実際に実施中、あるいは発表した政策のみを考慮し、2100年までに平均気温が約2.6℃上昇することを想定した「公表政策シナリオ(STEPS)」、および各国政府の発表した誓約が期限内に完全に達成され、世界のCO2排出量を2050年までに40%削減、2100年までの平均気温の上昇を約2.1℃に抑えるという「発表誓約シナリオ(APS)」も使用している。
WEO-2021によると、世界では今年になって石炭の消費量が大きく拡大しており、CO2の年間の増加量は過去2番目の大きさとなる見通しである。
IEAのF.ビロル事務局長は、「各国政府がそのために取っているクリーンエネルギーによる対策は、我々のエネルギー・システムに化石燃料が及ぼす不可避な影響という困難に直面している」と指摘。
同事務局長によると、この問題を解決するべく各国政府は、COP26でクリーンかつ強靭な発電技術の迅速な拡大を将来に向けて約束しなければならない。
また、「クリーンエネルギーへの移行を加速することは、社会経済に多大な恩恵をもたらすが、何もせずにいた場合の代償も計り知れない」と訴えている。

不確定要素が多い原子力開発の見通し

原子力に関してWEO-2021は、平均気温の上昇を1.5℃以下に抑えていくための主要な4方策の中で言及した。
太陽光と風力の設備をこれまでの2倍の規模に拡大した上で、原子力はその他の低炭素電源の一つとして、受け入れ可能な場所で使うべきだとしている。
今後の原子力発電開発については、「既存炉および新規に建設する原子炉のいずれについても、これから決定される政策にかかっている」と指摘した。
今後10年間に増加する原子力設備の大部分は、今年の初頭時点で19か国が建設中の約6,000万kW。
中国とロシア、および韓国が近年、国内外で数多くの原子炉を5~7年で建設したことから、2025年までに追加で新たに着工した場合は2030年までに完成する可能性があるとした。
2030年以降については1億kWを超える計画があるものの、これには過去に何回か個別に提案された案件や事業の開始に至っていないものが含まれるとしている。
既存炉の閉鎖ペースについては、不確定要素がさらに多いとIEAは指摘しており、米国や欧州、日本で経年化が進んだ多くの原子炉は、運転期間の延長に際して追加の投資、場合によっては規制上の新たな承認が必要である。
運転期間の延長を決めるにはまた、電力市場の状況に応じて厳しい安全審査や社会的受容が条件になるという課題にも直面している。
WEO-2021によるとSTEPSシナリオでは、2030年までに6,500万kW(23%)を超える既存炉が先進経済諸国で閉鎖される一方、APSシナリオでは5,000万kWに留まっている。
運転期間の延長により、次の10年間は低炭素な電力を比較的低コストで供給できるが、先進経済諸国においては閉鎖ペースが一層早まるリスクもあり、その場合は原子力で低炭素な電力を供給する基盤が損なわれるとしている。
また、2040年までに先進経済諸国では、既存炉の約4分の3で運転期間が50年を超えることになるが、いずれのシナリオにおいても、これらの多くは閉鎖される可能性が極めて高い。
小型モジュール炉(SMR)など革新的技術を用いた原子炉で、新たな設備の建設や許認可手続きに要する期間を短縮したり、熱電併給や水素製造といった用途に原子力発電所を利用する機会も今後は増えていく。
しかし、それには技術革新の努力を一層加速して、実現の見通しを改善する必要があるとIEAは強調している。

(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

 

【情報提供:原子力産業新聞

 

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