海外電力関連 トピックス情報

【世界】 世界的なエネルギー価格高騰が示唆する、エネルギー源多様化の必要性

2022年1月12日

天然ガス価格の高値続く、原油価格も7年ぶり高値
   年明けも天然ガス価格は高値の地合いが続いている。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、アジア地域のスポット液化天然ガス(LNG)価格(JKM)は昨年10月に一時56米ドルまで急騰したのち、11月は30米ドル半ばを推移し、12月中旬以降は欧州のガス高騰に連動して40米ドルを超えて推移した。
   昨年秋口の天然ガス価格の急騰の背景には、世界的にCOVID-19ワクチン接種が一定程度進んだことで経済が急回復し、エネルギー需要が増大したことがある。いったん落ち着きを見せたとはいえ、日本の電力スポット急騰をもたらした年初の32.5米ドル台と比べても、いまだに同水準で推移している。冬季に入り中国、韓国を中心とした北東アジア地域では引き続きLNG需要が高まり続けており、今後さらなる高騰の可能性も排除できない。
   欧州でのガススポット価格も引き続き高めで推移している。昨年秋口の価格高騰を受け、欧州連合(EU)は昨年10月、エネルギー貧困層対策、企業や産業界向け補助などで協調的対応をとることで合意した。電力価格の高騰が続く中、より低コストで安定的に調達可能な石炭火力の利用に踏み切る意思決定を余儀なくされる国もあるという状況にあった。
   天然ガス価格高騰に加え、ここにきて、米WTI原油先物価格が1バレル80米ドル前後を推移する7年ぶりの高値を示している。日本政府は昨年11月、米国と協調して異例の国家石油備蓄の一部売却に踏み切ったが、原油価格安定への効果には疑問の声も上がる。

   地球大の脱炭素に向けた取り組みの意思統一の場であるCOP26では「グラスゴー気候合意」が難産の末に採択されてまだ2か月足らずである。今世紀半ばでのCO2排出実質ゼロ実現に向けて、化石燃料に対する非効率な補助金の段階的な廃止に向けた努力の加速、クリーンな発電方法とエネルギー効率の向上を進めることがCOP26の場で確認された一方で、市場ではLNG、原油価格が高騰し、産油国に対して増産を要請せざるを得ないような状況が起きているのは奇異にも思われる。
   わが国が学ぶべき点はなにか。天然ガス価格高騰に見舞われた昨年秋のEUでの議論を参考に考察する。

欧州天然ガス価格が高騰、対応に追われる

   アジアのみならず、欧州のガススポット価格(オランダTTF)も、アジア地域と同様に高騰局面がいまも続く。これは、2021年冬~春にかけての欧州地域の低気温に起因して、ガス消費量が通常を上回ったために天然ガス在庫が低水準にあること、ウクライナ経由ロシア産パイプラインガス供給が減少傾向にあること、ノルドストリーム2パイプラインの商業運転開始遅延に伴う供給懸念などが背景にあるとJOGMECは分析する。
   EUは、天然ガスの大部分をロシアからの輸入に依存しており、対策は急務となった。
   9月には、欧州議会の一部議員らが、ロシアの天然ガス会社ガスプロムのふるまいに対して調査を求める書簡を欧州委員会(欧州委)に提出し、現在必ずしも関係が良好でないロシアに対する不信感を表明した。しかし、これに対して国際エネルギー機関(IEA)は9月21日に声明書を出し「ロシアは正しく契約を履行している」として冷静な対応を求める一方、ロシアに対しては、「より信頼性の高い供給者としてふるまってもらえぬものか」と供給増を暗に促した。
   天然ガス価格の高騰、欧州域内の排出量取引制度(EU ETS)における排出量価格(EUA)の上昇傾向が続く中、10月13日には欧州委がエネルギー価格高騰に対する協調的対応を取りまとめた文書“Tackling rising energy prices: a toolbox for action and support”を発表した。
   この文書で欧州委は「夏期の天候不順による水力や風力発電の減少で電力価格が上昇することが一部あるものの、基本的には新型コロナウイルス禍からの経済回復に伴う天然ガスの世界的な需要増加やロシアからの天然ガスの供給不足にある」とし、一部から批判のある「再生可能エネルギー推進やEU ETSでの炭素価格の上昇」が直接的な要因ではないと述べた。
   一方で、欧州委は、天然ガスはEUのエネルギーミックスにおいて、依然重要な役割を果たしており、EU全体のエネルギー消費の約1/4がガスによって賄われていること、そしてその約1/4強が発電に使われていることを挙げた上で、これまでガス、再エネ、原子力への電源ミックスの切り替えが進んできたが、ここにきて、EU加盟国の中にはガス高騰を受け、石炭火力への回帰がみられると指摘した。


(出典)IEA, World Energy Balances 2020 Edition

   欧州委はまた、EUはエネルギーの約61%を輸入に依存しており、EUの経済、重要産業セクターが燃料価格の変動に大きく影響を受ける状況にあると述べるとともに、輸入依存度の高い地域ほどその影響を大きく受けるとして、エネルギー自給の重要性についても指摘した。

欧州委員会、ガス依存・輸入依存を反省、原子力の役割の再確認進むか
   続く10月21、22日のEU首脳会議では、加盟各国は改めてエネルギー安定供給に向けた中長期対応策を検討することで合意した。フォンデアライエン欧州委員長は20日のスピーチで「EUは天然ガスに過度に依存し、過度に輸入に依存してきた。このことがEUを脆弱にしてきた」と強調した。
   さらに、22日の会議後の記者会見でフォンデアライエン委員長は、EUがクリーンエネルギーへの移行を加速する必要性を改めて強調したが、将来の低炭素かつ自立したエネルギーミックス実現に向けて、再生可能エネルギーに加え、安定した供給源である原子力が必要であると明言した。
   EUはタクソノミーの準備を進めているが、欧州委がいったんは結論付けた、原子力をEUタクソノミーに組み込む方針は、まだ欧州議会での正式可決に至ってはいない。そうした中、欧州委は昨年末、原子力と天然ガスを含むEUタクソノミー保管委任法令案を加盟各国に回付したことが大きく報じられた。同法令案は1月12日まで、持続可能な金融に関する加盟各国の専門家グループ等に諮問され、1月中に欧州委が採択すれば、欧州議会と欧州理事会による異議申立期間が4か月設けられた後、正式に成立することとなるが、原子力利用に強く反発し続けているドイツ、オーストリアの動静が注目される。

各国の実態に即したエネルギー転換方針が重要
   COP26は再生可能エネルギーへの転換を加速させる必要性を改めて確認した一方で、石炭火力については、「廃止」を謳うことにまで踏み込まず、「排出削減対策を講じていない石炭火力発電の段階的削減(Phasedown)」と整理された。
   再エネの急速な拡大を天然ガスへの依存拡大によって下支えする形で脱炭素化を順調にリードしてきたかに見えた欧州だが、現在のエネルギー危機は、ロシアのエネルギーウィーク国際フォーラムでのプーチン露大統領の演説の言葉を借りるなら、「欧州市場では、この10年間で制度上の欠陥が徐々に蓄積し、大規模な市場の危機が発生している」のである。この指摘はすなわち、発電が天候に左右されるという性質を持つ再エネと、季節性要因が需給に大きく作用する天然ガスという、互いに性質の異なる不安定さをはらむ発電源の組み合わせによって電力を賄おうとすることを「制度上の欠陥」と呼んでいる。その上で、昨秋の欧州のガス価格高騰と電力価格の高騰という市場の危機は、再エネ発電の不振と、天然ガス在庫の確保不足すなわち欧州の備えの不足によって引き起こされたのであって、契約どおりのガス量を供給しているロシアの責めに帰するものではない、と厳しく指摘したものだ。
   欧州の危機は、再エネ主力電源化を掲げる日本にとっても多くの示唆を含む。天然ガスは発電においては安定的な発電源として機能する一方、燃料として安価で安定的に調達できるかといえば、必ずしもそうではないことは、2021年初のLNG供給逼迫ですでに実感されたところである。
   このときの電力スポット価格急騰と電力供給への懸念が再度繰り返されないよう、国内の各電力会社は冬場に向けて十分な備えをしてきたとされるが、LNGの長期備蓄は技術的にも難しく、ガスパイプラインによる供給網を持たないわが国は、EU以上に供給の不確定要素にさらされている。これに加え、原油価格の高止まりが、資源を持たないわが国のガソリン価格の高騰を呼び、米国等との協調による国家石油備蓄の売却という異例の対応を招いた。その驚きも冷めないうちに、今度は新たなコロナウイルス変異株であるオミクロン株の世界での拡大を受けて原油先物が急落、産油国は、この先の需要拡大を見込んでいったん決定した小幅増産の方針を現時点では変えていないが、変異株の拡大を様子見する構えと見られ、市場が再び翻弄されている状況にある。
   わが国では、10月に第6次エネルギー基本計画が閣議決定されたところである。COP26で再び厳しい視線にさらされた石炭火力利用については、2030年に向けて今後さらなる比率低減ペースの加速は避けられないにせよ、欧州のあわただしい対応ぶりや、資源を有さないわが国の状況にも照らせば、エネルギー転換のペースはその国固有の事情を考慮して慎重に決定されるべきであろう。
   また、エネルギー転換期における天然ガスの安定的な利用確保の重要性に並んで、発電においても、燃料調達においても相対的には安定的といえる原子力を、重要なベースロード電源として位置付けることは、より積極的に検討されてよいのではないか。エネルギー基本計画でも示されたとおり「安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用する」とした原子力の、安全で安定的な利用の早期の実現も欠かせない。

【参考文献】
●JOGMEC 、2021年9月~12月、天然ガス・LNG価格動向
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/nglng/1007905/index.htmlhttps://oilgas-info.jogmec.go.jp/nglng/1007905/1009134.html
●首相官邸 国家備蓄石油の売却についての会見、令和3年11月24日
http://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2021/1124kaiken.html
●英国政府、Net Zero Strategy:Build Back Greener、2021年10月
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1033990/net-zero-strategy-beis.pdf
●IEA、Statement on recent developments in natural gas and electricity markets、2021年9月21日
https://www.iea.org/news/statement-on-recent-developments-in-natural-gas-and-electricity-markets
●欧州委員会、Tackling rising energy prices: a toolbox for action and support、2021年10月13日
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=COM%3A2021%3A660%3AFIN&qid=1634215984101
●ロイター、European gas price surge prompts switch to coal、2021年10月12日
https://www.reuters.com/business/energy/european-gas-price-surge-prompts-switch-coal-2021-10-12/
●欧州委員会、Speech by President von der Leyen at the European Parliament Plenary on the preparation of the European Council meeting of 21-22 October 、2021年10月20日
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/speech_21_5381
●ロシアエネルギー週間、プーチン大統領の基調演説、Russian Energy Week International Forum plenary session、2021年10月13日
http://en.kremlin.ru/events/president/news/66916

以上

【作成:株式会社三菱総合研究所

 

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