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【国際】 世界の地層処分場選定に向けた動向

2022年4月5日

   新型コロナウイルス感染症の拡大以降、対面でのコミュニケーションが制限されたことなどもあり、世界における高レベル放射性廃棄物の地層処分に向けた取り組みにおいては、一部で計画策定の遅延などが見られた。その一方で、2021年から2022年にかけて、スウェーデンや英国では、許認可プロセスや地元住民とのコミュニケーションの分野で着実な前進が見られた。
   また、欧州連合(EU)では、「EUタクソノミー」(持続可能な経済活動の定義と分類、基準をEUの法的文書として示すもの)に原子力や天然ガスを取り入れる規則を欧州委員会が採択した。この中で、原子力について個別プロジェクトがタクソノミーに適合するための条件として、2050年までの操業開始に向けた高レベル放射性廃棄物処分場の具体的計画があること等が挙げられている。これは、EU内で原子力再興の機運が高まる中にあっても、高レベル放射性廃棄物処分を現世代で決着させなければならないとの認識が、EU内で共有されていることを示す動きであると言える。
   本稿では、上述したような2021年から2022年にかけての国際的な高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する取り組みにおける動きを、欧州を中心に概観し、我が国への示唆や教訓を導出する。

各国で高レベル放射性廃棄物の地層処分に向けた取り組みが進展
   我が国では、新型コロナウイルス感染症の拡大以降も、高レベル放射性廃棄物の地層処分に向けて着実に取り組みは進められた。北海道の寿都町と神恵内村では、原子力発電環境整備機構(NUMO)によって2020年11月から文献調査が実施されている。NUMOは、2021年3月に「NUMO寿都交流センター」及び「NUMO神恵内交流センター」を開設し、同年4月から神恵内村と寿都町でそれぞれ「対話の場」を開催している。「交流センター」は、両町村やその周辺町村の住民からの地層処分事業に関する質問や問い合わせに対して、きめ細かに対応できるようにするために設置されたものであり、NUMO職員が常駐するコミュニケーション拠点となっている。「対話の場」では、地層処分事業の仕組みや安全確保の考え方、文献調査の進捗状況、地域の将来ビジョン等に関する意見交換などを実施していくこととしており、2022年3月までに、神恵内村で6回、寿都町では8回開催されている。
   一方欧州各国の状況について、図 1に整理した。フィンランド、スウェーデンの両国は、既に高レベル放射性廃棄物処分場サイトが選定済みであり、西欧諸国ではサイト選定が進められている。フランスでは、近年中に設置許可申請が提出されるまで事業は進んでいる。以下、スウェーデンと英国の最近の動きを概観する。


図 1 欧州の主要国における地層処分場のサイト選定や建設に向けた動き
出所:各種資料を下に三菱総合研究所にて作成

スウェーデン:政府が地層処分場の建設許可発給方針を決定
   図 2に、1990年代以降のスウェーデンの地層処分事業における主要なマイルストーンを整理した。スウェーデンでは、全国を対象とした文献調査の開始から15年以上をかけて建設サイトを決定するに至ったが、選定プロセスにおいてはコミュニケーションが重視されている。例えば、自治体が住民に対して行う情報提供活動にかかる費用を、放射性廃棄物処分の資金確保のために設置された基金で賄う制度が構築された。その後、処分場が建設されるエストハンマル自治体の議会は2020年10月に処分場受け入れの意思を決定している。
   実施主体であるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)が2009年にサイトを決定し、2011年に立地・建設許可申請を提出して以降、安全規制機関であるスウェーデン放射線安全庁(SSM)や国土環境裁判所が中心となり、審査が進められてきた。審査の過程では、国土環境裁判所がキャニスタの長期閉じ込め能力について説明が不十分であると指摘したことを受け、SKBが補足説明書を提出するなどのやり取りが行われた。こうした過程を経て、2022年1月には政府が使用済燃料処分場の建設許可発給を認める決定を行った。今後はSSMや国土環境裁判所が建設に際して遵守すべき条件等を決定することとなっている。
   コミュニケーションに関する制度設計や、それらの制度を活用したコミュニケーションの取り組み、また技術的な論点に対するSKBの対応能力などを背景として、スウェーデンの高レベル放射性廃棄物処分事業は今後、処分場の建設段階へと進んでいくこととなる。


図 2 スウェーデンの地層処分事業における主要なマイルストーン

出所:各種資料を下に三菱総合研究所にて作成

英国:地層処分場サイト選定の前進に向け、組織体の設置が進展
   図 3に、英国の高レベル放射性廃棄物地層処分場サイト選定における主要なマイルストーンを整理した。英国ではかつて、2008年に政府がサイト選定プロセスを定めた白書を公表し、関心を示す自治体の募集が開始された。本プロセスにおいて、原子力施設が立地しているカンブリア州と州内のコープランド・アラデールの両市が関心を示したものの、のちに州議会がプロセスからの撤退を決めたことにより、州と2市はいずれもプロセスから撤退することとなった。2市の議会はプロセスを先に進める決定をしていたが、プロセスを先に進めるには州と2市の合意が必要であるとの取り決めがなされていたため、州と2つの市がそろってプロセスから撤退することになった。
   こうした経緯を踏まえ英国政府はプロセスを再検討し、2018年12月に新たなサイト選定プロセスが定められた。またそれとあわせて、実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM)により、サイト選定プロセスが開始された。新たなプロセスのもと、2021年から2022年にかけては、上述したカンブリア州のコープランド市、アラデール市に加えて、リンカンシャー州でワーキンググループが設置された。ワーキンググループは、関心を示した個人や自治体などに情報提供を行うなどして、協議を深めていく場である。ワーキンググループの活動によってサイト選定の対象地域が絞られていくと、検討の場はコミュニティパートナーシップに移ることとなる。コミュニティパートナーシップは、中長期的に地層処分場の立地について検討していくものであり、設置後は現地での探査が行われるほか、政府から投資のための資金支援を受けることもできるようになる。コミュニティパートナーシップは、コープランド市で2件、アラデール市で1件設置されている。
   以上の経緯を振り返ると、コープランド・アラデールの両市は、2008年のサイト選定プロセス開始以降一貫して関心を示している。現在進められているプロセスには、両市のほかにリンカンシャー州も加わっており、関心を示す自治体に拡がりが見られている。今後は、これらの自治体における議論の行方やほかに関心を表明する自治体等が現れるかが注目されるところである。



図 3 英国の地層処分事業における主要なマイルストーン
出所:各種資料を下に三菱総合研究所にて作成

EU:「EUタクソノミー」で高レベル放射性廃棄物処分場建設に向けた具体的な計画の策定が条件に
   EUの執行機関である欧州委員会は、2022年2月に「EUタクソノミー」に原子力を取り入れる規則を採択した。欧州委員会の規則では、地層処分が高レベル放射性廃棄物の最も安全な処分オプションとして国際的に認識されていることを踏まえつつ、原子力について個別プロジェクトがタクソノミーに適合し、持続可能な経済活動として取り扱われるためには、2050年までの操業開始に向けた高レベル放射性廃棄物処分場の具体的計画があることを条件のひとつとしている。
   この動きは、原子力を持続可能な経済活動の一つとして位置付けつつも、高レベル放射性廃棄物処分に具体的な対応を進めていくことがそのための条件になるという欧州委員会の見方を示すものと考えられる。この規則が具体的にどのように運用されるかは現状明確ではないが、図 1に整理したとおり、現時点で高レベル放射性廃棄物処分場のサイト選定が完了しているEU加盟国はフィンランドとスウェーデンのみである。現状では2050年までの操業開始のめどが立っている国は限られており、今後原子力発電の維持や拡大を図る加盟国が「持続可能な活動」として原子力事業に内外の投資を引きつけたいと考えるならば、処分の取り組みの強化が待ったなしの課題になっていると言えよう。

まとめ:日本でも国全体で最終処分に関わる議論が進むことを期待
   「EUタクソノミー」に関する動きは、放射性廃棄物処分が原子力利用において重要な課題であることを改めて認識されるものであった。その一方で、本稿で言及した通り、我が国のほかスウェーデンや英国といった国々で、取り組みは着実に進んでいる。
   スウェーデン、英国の動向から、我が国の取り組みにも参考となる多くの教訓を得ることができる。英国のサイト選定における組織体の設置に当たっては、プロセスの進展に応じて設置すべき組織体や構成員を変化させていくこととなっており、プロセスの前進につなげるために、きめ細かい工夫がされている。またスウェーデンでは、許認可プロセスで示された技術的な論点に対して実施主体が適切に対応したことが今回の政府決定につながっており、許認可に関わる組織や広く地元、社会の懸念に対応するためにも、実施主体は十分な技術力を備えていなければならないことが改めて認識されたと言える。
   欧州でも、フィンランド、スウェーデンのように、処分サイトが選定され今後建設や操業が進められていく国もあれば、英国のように選定プロセスが進行中で今後も関心を示す自治体等があらわれる可能性のある国もある。各国の動きを踏まえ、今後日本でも北海道寿都町・神恵内村以外の地域から地層処分の候補地として手があがり、国全体で最終処分に関わる議論が進むことが期待される。

● 主な参考文献
・原子力発電環境整備機構(NUMO):文献調査について
https://www.numo.or.jp/chisoushobun/ichikarashiritai/status.html#sec0
・スウェーデン政府プレスリリース(2022年1月27日)
https://www.regeringen.se/pressmeddelanden/2022/01/regeringen-tillater-slutforvar-av-anvant-karnbransle-i-forsmark/
・英国・放射性廃棄物管理会社(RWM)プレスリリース
https://www.gov.uk/search/news-and-communications?organisations%5B%5D=radioactive-waste-management&parent=radioactive-waste-management
・欧州委員会:「EUタクソノミー」に関するウェブサイト(2022年2月2日)
https://ec.europa.eu/info/publications/220202-sustainable-finance-taxonomy-complementary-climate-delegated-act_en
  

以上

 【作成:株式会社三菱総合研究所

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