海外電力関連 トピックス情報

【韓国】 韓国における新エネルギー政策の策定 ~エネルギー安全保障強化に向け原子力の比率拡大へ~

2022年8月8日

   韓国では、今年3月に実施された大統領選挙で尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が当選、5月に尹新政権が発足し、保守派が5年ぶりに政権に返り咲いた。7月には新政権のエネルギー政策の方向性を示す文書が閣議決定され、前政権の脱原子力政策を転換し、電源ポートフォリオに占める原子力発電の割合を2030年には30%以上とするなどの目標が掲げられた。
   韓国は、エネルギー資源の海外依存度が高く、電力輸入が不可能であること、原子力利用をめぐって国民的な議論が行われていることなど、我が国との類似点が多く、政策やその背景にある考え方は我が国にとっても参考になると思われる。
   本論では、尹政権のエネルギー政策について原子力を中心に整理した上で、その背景にある韓国のエネルギー需給を取り巻く状況を概観する。その上で、我が国が得られる示唆について検討する。

【文前政権と尹新政権のエネルギー政策の概要】
   表 1に、文在寅(ムン・ジェイン)前政権と尹新政権のエネルギー政策の概要について主要項目を対比する形で整理した。文前大統領は2020年10月に、2050年カーボンニュートラル実現に取り組むとの方針を示した。発電分野では、石炭火力発電の縮小や再生可能エネルギー(再エネ)の拡大などを打ち出していた。図 1にまとめたように、現状、韓国の全発電量で石炭火力が45%を占める一方で、再エネはまだ5%に留まっていることを考えると、野心的な政策といえる。一方で、原子力は3割程度を占める主力電源であるが、文政権は脱原子力政策を掲げていた。
   一方、新政権の政策の基盤には、エネルギーミックスの実現可能性やエネルギー安全保障が置かれているととらえることができる。尹氏は、選挙公約では再生可能エネルギーと原子力の調和によるカーボンニュートラルの推進を打ち出していた。このたび策定されたエネルギー政策文書では、カーボンニュートラル実現のための方策は主題とはなっていないものの、今後再エネ普及に関して合理的な目標を設定していくことや、水素やアンモニアの活用による化石燃料依存度の低減などが打ち出されている。また原子力については、前政権の脱原子力政策を反転させ、主力電源として維持することや前政権下で中断していた新ハンウル3・4号機の建設計画の再開、既設炉の運転延長、輸出推進や産業界の活性化などを盛り込んだ。このうち新ハンウル3・4号機の建設については、電力需給基本計画に反映するほか必要な法的手続きを遵守しつつ速やかに進め、現在建設中のプラントについては、予定通りに完工できるよう管理していくとしている。また、既設炉の運転延長[※1] については、安全性の確保を前提としつつ、経済性やエネルギー安全保障、電力需給などを総合的に勘案して推進することとしている。さらに、運転延長に関する制度を改善し、運転認可満了後の運転の中断期間を最小化することや、運転延長の審査のために提出する書類の提出時期を早められるようにする方針を示している。

表 1 文前政権と尹新政権のエネルギー政策の概要

(出典)「新政府 エネルギー政策の方向(案)」(2022年7月5日)などに基づき、エム・アール・アイ リサーチアソシエイツにて作成
http://www.motie.go.kr/common/download.do?fid=bbs&bbs_cd_n=81&bbs_seq_n=165751&file_seq_n=3

【韓国の電力需給の現状】
   次に、新政権のエネルギー政策の背景ともなっている、韓国の電力需給の状況について整理する。図 1に韓国の2000年以降の電源別発電量の推移を示しているが、化石燃料がいまだ電源の主力であり、温室効果ガス排出削減やエネルギー安全保障の観点から、エネルギーミックスの改善が求められるだろう。また、参考として挙げた日本の推移を踏まえると、我が国にも同じ課題が指摘できるのではないだろうか。


図 1 韓国(上)と日本(下)の電源別発電量の推移(単位:TWh、パーセンテージは2019年のデータ)
(出典)国際エネルギー機関(IEA)”World Energy Balances 2021 Edition”

   こうした中、新政権が脱原子力政策からの転換を具体化したことは、資源輸入に伴う国民負担の軽減につながるという観点からも歓迎されるかもしれない。図 2は、韓国の発電における燃料価格の推移を示しているが、特に2021年後半から、液化天然ガス(LNG)の価格上昇が顕著である。韓国の電気料金は政策的に抑制されている面もあるため、輸入資源価格の高騰が国民負担に直結しない可能性もあるが、いずれにしても最終的には国民が負担することとなるので、原子力を主力電源とすることで国民負担を抑制できれば原子力に対する民意も改善していく可能性があるだろう。


図 2 韓国の発電燃料価格の推移(2019年6月~2022年6月)
(出典)韓国・電力統計情報システム(2022年7月8日閲覧)
https://epsis.kpx.or.kr/epsisnew/selectEkmaFucUpfChart.do?menuId=040100

   また、韓国と我が国はじめ世界の国々は、目下の電力の安定供給という共通の課題に直面している。韓国でも我が国同様に、猛暑の時期を前にした気温上昇で電力需要が増大しており、9年ぶりの「電力需給非常警報」発令の可能性も指摘されている。韓国電力取引所は、図 3に示すリアルタイム電力需給状況を公表しており、「電力需給非常警報」は予備力が5,500MW未満となると発令される。警報は供給予備力により、「準備」(予備力5,500MW未満)から「深刻」(予備力1,500MW未満)までの5段階に区分されている。
   新政権が掲げた新ハンウル3・4号機の建設計画再開や既設炉の運転延長等の政策は、目下の電力供給に直結するものではない。しかし、国民としては今夏電力需給が厳しいのであれば冬はどうなのか、来年は状況が改善するのかと将来にわたって心配せざるを得ないだろう。そうした中で、大きな出力で安定している原子力の建設計画が再開されることは、こうした不安の緩和に大きく役立つものと思われる。


図 3 韓国電力取引所ウェブサイトが公表しているリアルタイム電力需給状況(2022年7月14日16時閲覧)
https://new.kpx.or.kr/main/#section-2nd

【我が国への示唆】
   以上、韓国の新旧政権の原子力政策を整理するとともに、韓国の電力需給の現状について整理してきた。革新政権から保守政権への転換というイデオロギー面での変化もあるものの、特に昨今のエネルギー資源の供給安定性を脅かす事態も背景として、尹新政権は前政権の脱原子力政策を転換させ、原子力を主力とする実現可能で合理的なエネルギーミックスの確立を打ち出した。また、それにとどまらず新政権は輸出目標や原子力産業界の復興まで政策として掲げている。韓国では、大統領与党の「国民の力」は議会の議席数では第2位に留まっており、新たな原子力政策の実現に向け、国民の幅広い支持を獲得できるか、注目される。
   新政権の原子力に対する姿勢は、2050年カーボンニュートラル実現や電力の安定供給確保といった課題に取り組んでいる我が国にとっても参考になるものであろう。原子力政策をめぐっては我が国も韓国同様に様々な意見があるが、温室効果ガス排出削減やエネルギー安全保障といった課題を重要視するのであれば、原子力の利用は合理的な選択肢の一つと言える。
   また、原子力産業界やサプライチェーンの維持という観点も見逃せない。韓国新政権には、脱原子力政策を掲げた前政権の5年間でサプライチェーンの弱体化が深刻になったという課題認識がある。原子力利用を打ち出してもそれを支える産業基盤がないといった事態にならないよう、我が国においても、国内における研究開発の機会の創出や海外市場への展開などを通じて、サプライチェーン維持を図っていく必要があるのではないだろうか。

 [※1]韓国では原子炉の設計寿命(PHWR:30年、PWR:40年、改良型PWR:60年)により運転認可の期間が決定されている。10年ごとに実施される定期安全レビュー(PSR)によって、当初の設計寿命を超えて10年間ずつの運転継続が可能となる。

【参考文献】

●「新政府 エネルギー政策の方向(案)」(2022年7月5日)
http://www.motie.go.kr/common/download.do?fid=bbs&bbs_cd_n=81&bbs_seq_n=165751&file_seq_n=3
●韓国・電力統計情報システム(2022年7月8日閲覧)
https://epsis.kpx.or.kr/epsisnew/selectEkmaFucUpfChart.do?menuId=040100
●韓国電力取引所ウェブサイト(2022年7月14日閲覧)
https://new.kpx.or.kr/main/#section-2nd
●三菱総合研究所、「エネルギー安全保障がクローズアップされる中での原子力サプライチェーン維持の重要性」(2022年5月27日)
https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_topics/__icsFiles/afieldfile/2022/05/27/20220526.pdf

 以上

【作成:三菱総研グループ エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社

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