海外電力関連 トピックス情報

【中国】 カーボンニュートラル達成に向け原子力を積極活用

2022年10月14日

   中国は、2030年を温室効果ガス排出量のピークとし、以降排出量を減少に転じさせ(カーボンピークアウト)、2060年にはカーボンニュートラル(CN)を達成するとの国際公約を表明している。しかし、現状では一次エネルギー供給に占める石炭の割合が6割となっており、CN達成のためには温室効果ガスを排出しないエネルギー源の拡大が急務である。
   本稿では、これらの公約の実現に向けた中国の原子力活用方針をまとめる。具体的には、まず中国の電源ポートフォリオと温室効果ガス排出削減に向けた計画を概観する。その上で、近年の政策文書における原子力関連の政策等を整理する。最後に、本稿を振り返りつつ、中国の取り組みから得られる我が国への示唆を検討する。

電源ポートフォリオの現状
   2015年および2020年時点における中国の電源別設備容量は図 1のとおりである。再生可能エネルギー(再エネ)や原子力の拡大が著しいとはいえ、2020年でも火力発電が設備容量の半分以上を占めている。なお原子力は、設備容量ベースで見るとわずか2%程度を占めるに過ぎない。


図 1 2015年(左)と2020年(右)時点における中国の電源別設備容量(単位:GW)
(出典)国家発展改革委員会、国家能源局「「第14次五カ年計画」エネルギー体系計画」(2022年)に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツにて作成

   表 1は、世界の原子力発電利用国について、2022年8月時点の運転中プラントの設備容量、および2021年の発電量に占める原子力の割合のランキングをまとめたものである。設備容量で中国はすでに世界3位となっており、建設中プラントの設備容量を考慮すればフランスを抜くのは時間の問題である。しかしながら、国全体の発電設備容量が巨大であるため、発電量に占める原子力の割合は32カ国中28位にとどまっている。

表 1 運転中プラントの設備容量(2022年8月時点)と発電量に占める原子力の割合(2021年)のランキング

(出典)World Nuclear Association “World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements”(2022年8月)に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツにて作成
[1]日本の運転中プラントの設備容量は、再稼働しているもの、設置変更許可を受けているもの、新規制基準審査中のもの、および未申請のものの合計である。

原子力拡大の現状と今後の政策
   こうした状況を踏まえ、中国では2030年カーボンピークアウト実現に向け、エネルギー源ごとに以下の目標が「五カ年計画」等の政策文書で提示されている。
● 石炭:2020~2025年の期間は増加を厳密・合理的にコントロールし、2026~2030年の期間は徐々に石炭消費量を削減
● 原子力:2025年までに運転中プラントの設備容量を70GWまで拡大
● 風力・太陽光発電:合計設備容量を、2030年時点で1,200GW以上(2020年時点では530GW)に拡大

   原子力発電については、運転中プラントの設備容量を現状の52GWから2025年までに70GWまで拡大することが当面の目標とされている。中国では原子力発電所の新設に先立ち行政の最高機関である国務院の承認が必要で、産業界では1年間にプラント6~8基分、設備容量にして6~8GW程度の承認を獲得していくことを目標にしている。近年の国務院による承認は、2019年6基分、2020年4基分、2021年5基分、そして2022年は10基分となっている。

   また、原子力拡大に向け、近年策定された政策文書では表 2に整理するような政策や目標が提示されている。

表 2 近年の主要な政策文書と原子力に関する政策

(出典)各文書に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツにて作成

   近年の政策文書で目立つのは、革新的な炉型の開発や、原子力の総合利用の推進である。中国では総合利用ということで、主として原子力発電所の余熱を利用した地域暖房や産業基地への熱供給が考えられており、地域暖房プロジェクトはすでに開始されている。
   一方で、注目されているが言及されていないのが内陸部でのプラント建設である。今年、中国では内陸部の四川省を中心に深刻な電力不足が発生したが、その主因は猛暑による電力需要増と少雨である。四川省では設備容量の8割近くを水力発電が占めており、少雨には脆弱なポートフォリオとなっている。四川省を含め内陸部でも原子力発電所の建設計画はあるものの、近年進捗は見られていない。しかしながら今回の電力不足を契機として、今後議論が活発化する可能性はあるだろう。

我が国への示唆
   すでに言及したとおり、中国ではCN達成に向けて再エネや原子力の大幅な拡大による電源の脱炭素化が必要な状況にある。我が国もCN達成に関して状況は類似しており、以下、中国から得られる我が国の今後の取り組みへの示唆を示す。
   中国では、大型軽水炉の建設がさらに加速していくと見込まれるほか、高速炉や高温ガス炉等の次世代炉の建設、革新炉の技術開発が同時並行で進められている。そして、それを支えるための人材、サプライチェーンや資金などが十分に確保されていることがうかがえる。また、人材確保やサプライチェーンの維持・拡大については、コンスタントにプラント建設を進め、今後も業界の拡大が見込まれる。一方、我が国では新設は当面見込めず、次世代に向けた革新的な技術開発も国の補助金等による取り組みに留まっている。よって、産官学の連携などを通じて当事者が知恵を出し合い、人材確保やサプライチェーンの維持・拡大に向けた課題を克服していく必要がある。中国は原子力産業を支える企業の多くが国有であるため、我が国と同列に論じることはできないが、他国の追随を許さないピッチで新設を進められる背景として、国からの政策的なバックアップもある中で原子力発電事業における安定した収入が得られていることが大きい要因といえる。また、近年数多くの建設経験を蓄積してきているため、プラント建設を想定コストどおりに進められることも新設の推進を後押ししていると考えられる。中国でも石炭火力発電事業者など電気事業者間の競争は厳しく、またプラント建設における国からの低利融資などの制度もない。しかしながら、中国は商用発電炉初号機の運転開始が1990年代半ばと遅かったものの、原子力産業は順調に拡大し、安定した発展を継続している。
   中国の原子力産業の強みは、プラント建設と発電事業を中心とした産業基盤の安定性、一貫して原子力利用を推進する政府の政策も含めた事業環境の予見性の高さにあるといえる。我が国においても安全性の確保を大前提に再稼働を進め、運転経験の蓄積や人材の確保、サプライチェーンの維持・充実、将来の投資に向けた資金の蓄積などの好循環が回っていくことが、CN達成の観点から原子力を有効活用していく上で必要と考えられる。

【参考文献】
●World Nuclear Association “World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements”(2022年8月)
https://www.world-nuclear.org/information-library/facts-and-figures/world-nuclear-power-reactors-and-uranium-requireme.aspx





 

以上

【作成:三菱総研グループ エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社

 

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