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【国際】世界の最終処分場選定に向けた動向

2023年4月3日

世界各地で放射性廃棄物最終処分場計画が進展
   放射性廃棄物の最終処分場(以下、最終処分場とする)の選定は、原子力発電を利用する上で、避けて通れない重要な課題である。我が国では2017年に地層処分の適性を示す全国の「科学的特性マップ」が公開され、現在までに北海道の寿都町と神恵内村で、サイト選定の最初の段階である文献調査が進められている。しかし他に受け入れを表明した自治体はなく、足踏み状態が続いている。最終処分場の選定が進まないことは、原子力政策を進める上での大きな課題となっている。
   2023年2月10日に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」には、「最終処分の実現に向けた国主導での国民理解の促進や自治体等への主体的な働き掛けを抜本強化する」ことが盛り込まれた。また、8年ぶりの改定が進んでいる「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」の改定案には、「政府の責任で、最終処分に向けて取り組んでいく」と明記された。このように、我が国でも政府が前面に立って取り組みが進められることとなった最終処分場計画について、世界における主要な動向をとりまとめる。
   2022年以降の大きな動きとしては、スイスで最終処分場の候補絞り込みが完了し、2022年9月に最終候補地の提案が示され、大きなマイルストーンを迎えたことが挙げられる。その他各国における主要動向・状況は以下のとおりである。
<欧州>
●フィンランド: 2016年からオルキルオトで高レベル放射性廃棄物の最終処分場の建設を開始。2022年12月までに、最初の処分坑道の掘削等が完了した。
●フランス:2023年1月に、最終処分場(ムーズ、オート=マルヌ両県の県境近傍のビュール)の設置許可申請書が政府に提出された。
●ベルギー:高レベル及び長寿命の放射性廃棄物を自国内で地層処分する方針を規定する王令が2022年12月に発効し、処分場概念やサイト選定方法等の具体的な検討、確定の取り組みが緒に就くことになった。
<アジア>
●韓国:2021年12月に「第2次高レベル放射性廃棄物管理基本計画」が確定したことに続いて、「高レベル放射性廃棄物の研究開発ロードマップ(案)」が2022年7月に公表された。
●中国:高レベル放射性廃棄物の最終処分場候補地域の一つである甘粛省北山で、2021年6月から、地下研究所の建設が進行中である。
   一方で、スケジュールの遅延が見込まれる国もある。ドイツでは2031年までに最終処分場サイトを決定することを目標として、2017年からサイト選定を進めている。しかし3段階の選定プロセスの第1段階で遅れが見込まれており、2022年12月に実施主体が、スケジュールの再設定を進める方針を示した。
   このように各国で状況はさまざまであるが、本稿では以下、最終処分場候補地が決定したスイスにおける最終候補地提案について概説するとともに、併せて、スケジュールが遅延しているドイツの動向についても整理する。

「北部レゲレン」がスイスの放射性廃棄物の最終処分場最終候補地に
   スイスでは、2008年から3段階で進めてきた放射性廃棄物の最終処分場サイト選定が、大詰めを迎えている。実施主体の放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、2022年9月10日に3カ所まで絞り込まれていた候補の中から、第3段階のサイト最終決定に向けた最終候補として「北部レゲレン」を提案した。今後、政府が2029年頃に「概要承認」と呼ばれる決定でサイトを確定する予定であり、これをもって、スイスの最終処分場選定手続きの第3段階が完了する。なお、概要承認を不服とする国民投票が提起された場合は、2031年頃にその結果が出る予定である。
   同国のサイト選定は公募方式を採っていない。科学的根拠に基づく地質学的安全性を基準に、実施主体が候補を提案し、早期からの市民参加を組み込みつつ、政府承認を得ながらサイトを絞り込むプロセスを採る(図 1)。

図 1 スイスの最終処分場選定における主要なマイルストーン
出所:各種資料をもとにエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

   市民の関わりについては、「地域会議」と呼ばれる枠組みがスイスにおける大きな特色の一つである。地域会議には、サイト候補地域の地元・周辺自治体の代表者のほか、一般市民も参加している。なお、スイス国内の自治体だけでなく、隣接するドイツ自治体も対象である。地域会議の活動は、サイト選定手続きを監督する連邦エネルギー庁(BFE)やNAGRAからの情報提供、対話といった透明性の側面に留まらない。たとえば選定の第2段階では、最終処分場施設の中でも市民の生活圏から近い地上施設について、候補各地域の地域会議がNAGRAと協働して、施設をどこに設置するのか、また施設のレイアウトをどうするのかといった提案を検討した。
   今般の最終候補地「北部レゲレン」提案における地上施設設置計画にも、地域会議との協議成果が反映されている。NAGRAは当初、全ての地上施設を候補地域内に建設することを想定していた。しかし地域会議との協議を踏まえて、放射性廃棄物をキャニスタに封入する施設は、既存の原子力施設であるヴュレンリンゲン放射性廃棄物集中中間貯蔵施設(ZZL)のサイト内に設置・増設する計画となった(図 2)。ZZLは北部レゲレンの地域外に位置しているが、既存のインフラを活用でき、放射性廃棄物の取り扱いに熟練した作業員の活用が可能である。
   上述の既存原子力施設の活用に加え、処分場事業運用の効率という面では、中低レベルと高レベルの放射性廃棄物の両方を同じサイトで処分する「複合処分場」という考え方も注目される。スイスでは、全種類の放射性廃棄物を地層処分する方針である。中低レベルと高レベルを別個のサイトで処分するオプションとの両方を検討した結果として、NAGRAは今回、北部レゲレンを複合処分場とする最終提案を提示した。複合処分場では、中低レベルと高レベルで地上施設その他のインフラを共有することができるなど、運用の効率化とコストの圧縮が見込まれる。複合処分場のイメージを図 3に示す。

図 2 最終候補地北部レゲレン及び地上施設の位置関係
出所:放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)報告書「地層処分場サイト NAGRAの提案」を基にエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社作成


図 3 複合処分場のイメージ
出所:放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)報告書「地層処分場サイト NAGRAの提案」を基にエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社作成
   効率性の高い複合処分場オプションをとりつつも、NAGRAは最終処分場としての地質学的安全性が最重要と説明している。最終の第3段階には北部レゲレンを含めて3つのエリアが残っていたが、北部レゲレンはその中で地層バリアの閉じ込め性能が最も高く(処分の安全性が高い)、処分エリアが最も深く(人の生活圏から離れている・長期安定性に優れている)、また断層が少なく最も広い処分エリアを確保できるとされている。実はNAGRAは選定プロセス第2段階で、北部レゲレンを、処分エリアが深いこと、他2地域より既存の地質学的データが少ないことを理由に優先候補から外そうとした。しかし安全規制当局の指摘において、データが不十分な状況では、北部レゲレンが最も安全なサイトではないとする証明も不十分であるという理由から、同エリアは第3段階の検討に残った。結局、第3段階でボーリング調査等を実施した結果、同エリアが最終候補に決定している。最終候補地提案に際して行われた記者会見では、「北部レゲレンは処分エリアが深いため他候補地域より建設コストがかかるのでは」との質問に対し、NAGRAは「判断基準は地質学的安全性であり、コストではない」と回答している。

ドイツでは最終処分場の選定スケジュール見直しへ
   スイスで最終候補が挙がる一方、隣国ドイツでは、最終処分場のサイト選定スケジュールの後ろ倒しが見込まれている。ドイツではゴアレーベンを候補地として最終処分場を設置する計画が1970年代から進められていたが、激しい反対運動により調査が中断するなどした。その後2013年に最終処分場選定に関する新たな法律が制定され、ゴアレーベン計画を白紙化して、公衆参加型の新プロセスで、2031年の候補確定を目指して選定をやり直すことになった。新たな選定手続きは2017年に開始され、最初の取り組みとして、文献調査により、最終処分場として地質学的に好ましい条件を持つ地域をスクリーニングする作業が実施され、2020年9月には90の区域が抽出された。なお、旧候補地のゴアレーベンはここで選外となった。並行して全国レベル、地域レベルで公衆参加の枠組みが設定され、最終処分場選定の取り組みに関する情報共有や議論を行う取り組みが進められている。ここでは公衆参加の進め方そのものを参加者の議論で決めながら進めていくなど、慎重な対応が取られている。
   処分実施主体の連邦放射性廃棄物機関(BGE)は、次の段階として区域を絞り込み、いくつかの候補サイトを提案する予定である。しかし現在抽出されている90区域は、ドイツ国土の54%に及ぶ。BGEは2022年12月、ここからの絞り込みには2027年までかかるとし、2031年という最終処分場選定の目標は、現実的ではないとの考え方を示した。このため、ドイツでは今後、公衆との議論や対話を通じながら、最終処分場計画のスケジュールを見直し、具体化していく予定である。

まとめ:安全最優先を前提に、処分事業の受容と共存に向け、日本に適した処分事業への関与のありかたを
   放射性廃棄物処分においては、将来何世代にも及ぶ超長期の安全性が保証されなければならない。よって技術的な安全の確認が大前提であり、その評価には高度な専門性を要する。同時に、高レベル放射性廃棄物の最終処分場とこれから長く共存していく人々と地域の理解と受容が不可欠である。
  スイスではサイトの候補が決まってからではなく、絞り込む過程で早期から市民も参画すると同時に、放射性廃棄物処分の問題は原子力利用に係る国家レベルの課題であるとの考えから、最終的な計画の是非を州民投票ではなく国民投票に委ねる形になっている。またスイスでは上述のとおり、最終処分場候補地域の地域会議が、各地域の最終処分場の地上施設のレイアウト検討に関わった。地上施設は、市民の生活圏に近く、市民の目に見える最終処分場施設である。候補が1カ所に決まってしまう前の段階から、もし自分の地域に最終処分場が設置されたらどうなるのか、町と処分場との共存イメージを実施主体と一緒に考えていくことで、最終処分場選定プロセスを「自分ごと」化していく有効な取り組みとなったと言えるだろう。
   冒頭に述べたとおり、我が国においても放射性廃棄物処分を国家全体の課題として、取り組みを進めているところである。設置された最終処分場と共に暮らしていくのは、地元の地域と人々である。最終処分場を選ぶプロセスにおいて、押しつけではない絞り込みを可能としていくためには、スイスの例にも見られたように、候補が複数の段階から、それぞれで処分事業の実現イメージをたとえば「まちづくり」の一環として、地域と共に描き、発信し、全国レベルで共有する、息の長い「自分ごと化」の取り組みが必要ではないだろうか。

参考文献
●GX 実現に向けた基本方針、2023年2月
https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210002/20230210002_1.pdf
●特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針(案)、2032年2月
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000248815
●放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)ウェブサイト、2022年9月12日
https://nagra.ch/nagra-schlaegt-noerdlich-laegern-als-standort-fuer-das-schweizer-tiefenlager-vor/
●放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)報告書「地層処分場サイト NAGRAの提案」、2022年9月10日
https://nagra.ch/wp-content/uploads/2022/09/The-site-for-the-deep-geological-repository-Nagras-proposal.pdf
●連邦原子力安全検査局(ENSI)ウェブサイト、2016年12月14日
https://www.ensi.ch/de/2016/12/14/das-ensi-schlagt-nordlich-lagern-zur-weiteren-untersuchung-vor/
●ANDRA、2023年1月17日付プレスリリース
https://international.andra.fr/submission-application-authorization-create-cigeo
●連邦放射性廃棄物機関(BGE)ウェブサイト、2022年12月19日、
https://www.bge.de/de/aktuelles/meldungen-und-pressemitteilungen/meldung/news/2022/12/bge-will-bis-spaetestens-2027-den-bericht-zu-den-standortregionen-uebermitteln/

 以上

【作成:三菱総研グループ エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社

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