電気事業連合会

海外電力関連 解説情報

「欧州における原子力政策の内実を検証する」

2012年7月6日

 福島第一原子力発電所事故(以下「事故」という。)は、我が国の原子力政策に大きな衝撃を与え、原子力発電を基幹電源に据えてきた電力供給体制も根本的な見直しを求められつつある。事故は世界各国にも影響を及ぼし、一部の国は原子力放棄に政策転換、特にドイツが原子力発電利用期間の延長を撤回し、従前の脱原子力路線に回帰したことが日本でも大きく取り上げられている。しかしながら、実際に脱原子力の方向性を打ち出した国は他にスイス、ベルギーなど一部にとどまり、これまで原子力を活用してきた国々の多くは、安全性の再確認の必要性は認めながらも、原子力発電の利用は維持するべきであると考えている。背景には、化石資源・輸入資源依存度の低減、さらには気候変動問題への対応という事故以前からの根源的なエネルギー問題が存在している。ここでは、欧州において脱原子力に向かうドイツ、原子力推進をとる英国などのケースを検証し、世界的な原子力発電への未来図を把握する一助としたい。

 

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□ドイツの脱原子力は既定路線への回帰

 ドイツにおける事故後の原子力政策は、基本的に2000年に決定した政策転換がベースにあり、事故以前に将来的な原子力発電所撤廃は政府・電力事業者も含めた共通のコンセンサスとして確立されていた。2010年には稼働期間延長措置に舵を切ったが、これは安価な電力供給を希望する産業界の要請を受けたもので、国民レベルで受け入れられていたわけではない。無論、事故後の対応は多分に感情的だが、それでも根本からの転向ではなく、原点回帰を改めて選択したというのが内実である。

 1998年に誕生したシェレーダー政権(社会民主党と緑の党の連立)は、2年間の交渉を経て脱原子力政策を事業者との間で合意した。2000年には気候変動問題への対応から電力供給における再生可能エネルギー普及を促進する法律(再生可能エネルギー法)を制定、欧州で最も積極的に再エネ導入を推進する国となった。これがドイツのエネルギー政策の基本的姿勢である。

 その後、2009年に社会民主党との大連立を解消して政権を握ったキリスト教民主同盟(CDU)を中心とするメルケル政権は、選挙前からの公約通りシュレーダー前政権の定めた原子力発電所の運転制限の緩和に踏み切った。平均12年の運転期間延長の法改正は2010年9月に閣議決定、翌年1月に施行されている。ただし、2010年9月に採択されたエネルギー政策の根幹となる「エネルギー構想」は再エネ促進中心の従来の方針を引き継いでおり、原子力発電はあくまでも過渡期をソフトランディングさせるための「つなぎ技術」として位置づけられていた。

  

□事故を受けてのドイツの対応と検証

 事故直後にメルケル政権は施行されたばかりの改正原子力法の3カ月間凍結と、運転中原子炉の安全性検証の実施を決定、さらに延長期間8年とした旧グループ(注:改正原子力法では、運転の延長期間を建設時期によって2グループに分割、運転開始が1980年以前は8年間、1980年以降は14年間としていた)7基に運転停止を命令した。安全性検証作業は原子炉安全委員会(RSK)に指示するとともに、原子力利用の是非を倫理面から検証するエネルギー倫理委員会が招集され、議論が開始された。

 RSKによる安全性検証作業は、欧州ストレステストと同じ狙いで実施されたものだが、人為的破壊活動(テロ攻撃)に重きを置いたものとなっている。報告書では、事故の発生原因となった地震や洪水はドイツ国内での発生の可能性は小さいとし、安全上の明確な問題点は指摘しなかった。一方、航空機落下については十分な耐性がないと結論しているが、これは米国の同時多発テロを受けた評価において既に指摘されていた事実であり、新たなリスクとして取り上げたものではない。実態として、政府の指示から報告書提出まで2カ月半ほどしかなく、RSK自身も技術的な評価を尽くしたとはいえないとしている。

 エネルギー倫理委員会では原子力のリスクを倫理面から許容できるかという点が問われた。委員会は元環境大臣をはじめ学会や産業界、教育者、聖職者の代表で構成されたが、当事者である電力業界の代表は参加していない。委員会は報告書において、再生可能エネルギーへのシフトは原子力を「つなぎ技術」に使わずとも、経済合理性を損なわずに実施可能と結論づけた。脱原子力の時期は2020年頃と規定、旧グループ7基と長期トラブルで停止中のクリュンメル原発の即時閉鎖を勧告、「よりリスクの少ない方法へのシフト」を国民的合意のもとに実施すべきというのが全体の主張であった。事故の影響については、原子力リスクの本質が変わったわけでなく、リスクへの認識(許容できるリスクか否か)が変化したと説明している。

 倫理委員会の提言を受けたメルケル政権は2011年6月6日に早期の脱原子力の明確化(遅くとも2022年)と再エネ開発および電力系統拡充を内容とする関連法案を閣議決定した。RSKが明確なリスクをしていないことから、政策決定の過程においては倫理委員会が果たした役割が大きい。あるいは、倫理委員会の最終答申が2011年5月末である点から見て、早期の脱原子力は早い段階から既定路線であったと考えられる。やはり、直接的な要因としては州議会選挙での原子力問題の争点化と与党CDUの敗北といえよう。こうした経緯を振り返ると、倫理委員会が招集された理由は、国のオピニオンリーダーが提言をまとめるという体裁、すなわち「民意の代弁」による原子力否定という事実が必要であったと見ることができる。

□脱原子力政策と電力供給の実情

 ドイツにおける原子力発電の設備容量は2000万kW(うち即時閉鎖8基分は800万kW)で、ドイツ国内の発電電力量の約20%に相当していた。8基停止の影響は停止命令が出た直後に顕在化し、一時的に電力の輸入超過の状態になった。これが原子力比率の高いフランスやチェコからの輸入であったために論理矛盾を批判する声もあがったが、実態としてはドイツの発電設備容量は供給力不足というわけではなく、輸入超過状態は2011年第4四半期には解消している。以下に、脱原子力政策の抱える問題点と必要となる対策を考えるうえでのポイントをまとめておく。

 ・電力需要ピークに対して、原子力発電所8基閉鎖後も供給力は確保されているものの、問題は供給余力というよりも、送電システムの電力輸送能力にあるといえる。特に風力発電を中心とする再エネ電源が確保されている北部と大消費地である南部を結ぶ送電容量が十分でないのが現実である。

 ・ドイツは近隣諸国と電力系統が連系されており、国内で電力不足が生じる場合は、輸入によって賄うことが可能である。また、ドイツ国内で発電される電力は割高なため、輸入シフトが起きやすいといえる。

 ・再エネの設備容量を現状よりもさらに伸ばしていく場合には、バックアップ電源としての在来火力発電設備が不可欠となる。さらに、系統安定化策(蓄電池等)や高圧送電網整備という解決すべき課題が多い。

 こうした点を踏まえると、ドイツの課題は送電系統の輸送能力拡大と安定化にあるといえる。しかし、送電網の拡充(ドイツエネルギー機関の試算では、2020年までに総延長3600kmの送電設備の整備が必要と指摘)には、膨大なコストを要し、景観への影響など反対も根強い。結果的にガス火力発電の建設が選択される可能性があり、気候などの影響を避けられない再エネ発電が抱える電力供給の不安定性(間欠性)を補完するためのバックアップ電源の整備が極めて重要になる。

 

□連邦環境省と電力事業者の対応

 ドイツの連邦環境省(BMU)は原子力発電についての安全規制と放射性廃棄物の分野を担当しているが、従前から再エネ重視・原子力反対の傾向が強い。メルケル政権が原子力利用延長を進めているなかでも、与党CDUから任命されたレットゲン大臣(注:2012年5月に退任、後任にアルトマイヤー氏が5月22日付で新大臣に就任している)は慎重姿勢を崩さなかった。今回の脱原子力回帰は主としてBMUが主導したものである。では、BMUは原子力政策の変更や再エネ導入対策にどのような考え方を持っているのか。ポイントは次の通りだ。

 ・事故を受けて大きく政策を変更したと言われるが、正確な表現ではない。一次エネルギー全般の政策の大部分は引き継いでいる。電力部門の20%程度の原子力利用が変更されただけであり、全体から見た影響は軽微である。

 ・ドイツは2000年以来、将来の原子力利用放棄に向けて備えてきた。素地が整っていたと言える。ただし、延長決定から日が浅かったことで政策転換が容易であったのは事実だ。

 ・観念的な言い方になるが、旧世代のようなエネルギーの使い方(有限の資源、環境破壊)はいずれ限界がくる。化石資源に頼らない持続可能なモデルを構築する義務が先進国にはあると考える。また、化石資源や鉱物資源は経済発展を果たしつつある新興国での需要が高まっている。今後、より過酷な資源争奪競争がおこなわれるだろう。政府は、国民をそうした資源戦争から隔離する役目を負っている。

 ・再エネ導入政策については、設備容量の増強よりも系統運用の限界に問題点が移行しつつある。製造業への瞬間停電や電圧変動による悪影響が出ていることが確認されており、系統整備促進法を整備し対応に乗り出している。

 ・需給問題では設備容量は確保されており、課題は送電システムにある。総延長目標だけでなく、実際の電源の配置や消費地との関係に細かく考慮し、大規模電源に合わせて作られたシステムを再エネ・分散型電源に適したものに再構築する必要がある。

 これに対して、電気事業者はどのような見方をしているのであろうか。ドイツの4大事業者の1社であるRWEを訪問し、考え方を聞いた。同社も他の大手事業者と同じく、今回の政策変更により事業環境に大きな打撃を受け、収益構造を悪化させている。また、政府のエネルギー政策の実現性には懐疑的な見方をしている部分があるのが実情だ。以下に考え方のポイントをまとめる。

 ・欧州全体で見れば、原子力発電の設備容量は増加する方向にある。ドイツの突出した原子力放棄は合理的な判断とは言えない。安定電源を捨て、不安定な再エネが類を見ないレベルで増加する。ドイツ自体が実験場のようになっているように感じる。

 ・政府の決定は覆すことはできないが、ドイツ以外の国で原子力発電は維持していく方針だ。全体のポートフォリオ目標は、再エネ1/3、ガス1/3、原子力その他1/3である。

 ・再エネ導入量の増加で調整用電力への需要が高まる。しかし、現状では調整用電源に適したガス火力発電への投資インセンティブがない。輸入電力が伸長する。ドイツの市場は、再エネと輸入電力に挟撃される形になる。

 ドイツの原子力政策の動向や対応、今後の課題などを総括的に探ってきた。事故後のドイツの動きは「原子力政策を180度転向した」という論調で語られるケースが多いが、BMUが言うとおり、これは必ずしも正確ではないであろう。たしかに、事故直後はイデオロギー論争の様相を呈し、原子力発電の是非を問う大きな動きが起こったが、実態として2000年以降、脱原子力を前提としたエネルギー政策を実践してきており、準備はある程度整っていたと見る方が正しい。原子力への依存度を相当程度強めていた日本が政策転換する場合とはハードルの高さが大きく異なる点には留意が必要である。

 一方で、再エネの間欠性は系統運用に実際的な支障を及ぼし始めており、大規模電源である原子力発電の閉鎖と同時並行で起きることで、相乗効果を持って問題を大きくしている。政策上の課題は代替電源ではなく送電インフラの拡充だが、結局は立地問題がネックとなっている。

□新規原子力発電推進を掲げる英国の実情

 英国政府が掲げるエネルギー政策の根幹にあるポリシーは「脱CO2」と「エネルギー供給保障」の両立であり、電源整備政策もこの基本理念に基づく。すなわち、脱在来型火力(石炭、石油、ガスの縮小)であり、原子力発電は再エネと並んで政策実現の有力手段に位置づけられている。

 英国は元来、北海油田・ガス田からの潤沢な資源供給で高いエネルギー自給率を誇ってきた。しかし、2000年代に入って産出量が減少し始め、資源輸入国に転換したことをはじめ、電力自由化以降滞った設備投資の影響から設備の老朽化が進み、電力の供給力は脆弱化した。需給逼迫の直接の原因は、NOx・SOx規制による老朽火力設備や経済性を考慮したガス冷却型原子炉の閉鎖であり、需給逼迫が2015年頃に顕在化するとして、新たな電源整備が計画された。しかし、1990年以降の設備投資はガス火力に集中していたため、計画の具体化においては低CO2排出型電源を重点的に整備する施策が必要であった。こうした事情がエネルギー国家政策声明(NPS)や電力市場改革(EMR)の背景にある。

 電源開発の基軸の一つに据えられた原子力について、2008年の原子力白書で投資判断のネックとされた建設リードタイムの短縮策を提示し、電力取引市場での優遇策も検討されるなど、投資環境が整備されつつあった。これが、事故直前の状況である。

 事故を受けて、エネルギー・気候変動省(DECC)のヒューン大臣(当時)は、目前だったエネルギーNPSの採択を約6カ月延期し、規制当局(NII:原子力施設検査局)に事故の影響評価を実施する指示を出した。この評価は規制組織を改編して2011年4月に発足した原子力規制局(ONR)のウェイトマン局長が中心となって実施した。5月の中間報告では、英国の原子力発電所および規制体系に「基本的な脆弱性」はなく、既存炉の運転制限や原子力発電開発を停滞させる要素はないと結論、これを受けてDECCはエネルギーNPSを前倒しして上程し、7月には議会で採択された。

 報告書は10月に最終版が提出され、中間報告の25分野の提言に対して、さらに12分野の提言が追加されたが、結論の論調は踏襲されている。この流れから見ると、事故後の政策推進に対して、ONRの影響評価報告書が一つの鍵になっていたことが分かる。NPS採択に合わせて認可プロセスの重要事項である包括設計審査(GDA、注:英国の建設認可スキームは立地適正と原子炉の安全性を分離しており、GDAは後者の個別炉型の設計承認にあたる。ウェスチングハウス社のAP1000=最新型加圧水型原子炉とアレバのEPR=欧州加圧水型原子炉が審査の対象となっている)も事故のフィードバックが必要とされ承認が延期されていたが、報告書の勧告内容の反映は建設開始までに実施する条件で暫定認証を出すなど柔軟な運用を行っている。

 

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□電力市場改革と原子力発電の関係

 英国における現状の市場環境下では、短期に投資資本の回収が可能で、初期コストも低いガス火力に投資が集中する傾向が強い。実際、英国の電源構成ではガス火力が47%を占めており、結果として原油価格と連動するガス価格に市場が直接的に影響される状況であった。このガス火力に偏りがちな投資傾向を原子力や再エネに誘導する仕組みを市場に組み込む施策がEMRである。再エネに対する補助制度は固定価格買取制度(FIT)などで実例があるが、特に初期投資が大きく発電開始までのリードタイムが長い原子力発電への優遇策の制度設計は先例のないチャレンジである。市場改革は4つの施策のセットで検討されており、2011年7月にEMR白書を公開、2013年の法制化を目指している。

 これら制度のなかで、特に原子力にとって重要な施策は「差額支払い契約(CfD)を応用した固定価格買取制度(FIT-CfD)」である。投資回収に時間がかかる原子力にとって、長期収益の見通しを得ることは非常に重要な判断材料になる。無論、これらは電力料金を押し上げる影響があり、需要家の理解を得ることは難しいが、改革を主導するDECCは「現状を放置すれば将来的に化石燃料に依存した供給体制となり、消費者はより多くのコストを払うことになる」と、EMRの実施意義を強調している。

 注:政府試算では、一般家庭向けの年間電気料金(約500ポンド=約62000円)において、EMRを実施しない場合は輸入資源の価格変動やCO2排出コストにより2030年時点では約200ポンド(約25000円)上昇する一方、EMRを実施し脱CO2化が進めば上昇幅は約160ポンド(約20000円)に抑えられるとしている。

 ただし、現状の英国の電力市場は十分な競争原理が働いていない。6大グループが垂直統合を進め、卸市場での取引量が非常に少なくなっているため、ガス・電力市場局(OFGEM)は市場流動性の改善策として発電事業者に一定量の電力(発電電力量の25%程度)を市場に出すよう義務付ける制度をEMRと並行して導入する方向である。

 現在、英国で原子力発電所の新規建設プロジェクトを表明している事業者は3社あるが、この中で最も建設着手に近いと見られるのはEDFエナジー社である。同社はヒンクリーポイントCにおける建設計画の許可申請を2011年10月末にインフラ計画委員会(IPC)に提出、翌月に受理されている。審査期間は1年だが、認可発給時点で最終的な投資判断を行うと表明しており、一連の市場改革の実効性を見極めるスタンスである。特にFITにおける価格設定が鍵を握ると見込まれている。

□英国における規制と事業者の取り組み

 英国の原子力規制局(ONR)は2011年4月に独立組織として発足したが、その理由は政府組織内の一部門では各省の影響を回避できず、十分な規制活動ができないという判断からである。ONRでは、機関の独立性や役割などについて次のように見解を示している。

 ・従前の体制はDECCと健康保険執行局(HSE)にまたがって、規制や権限も分断されていたため、非常に非効率的な規制体系になっていた。

 ・政府組織の傘下にあるという事実は人事や予算面で制約を受ける。規制者としてフリーハンドを得るには、組織権限と予算での独立性が必須である。

 ・ウェイトマン報告は英国の原子力規制および運用状態に大きな問題はないことを明らかにした。ただし、これは何もしなくて良いという意味ではなく、改善を継続することに重きを置いている。

 ・物理的な設計で完全な安全を担保して欲しいという要求があるのは理解できるが、経済合理性を無視すれば産業として成立しない。規制と安全のバランスが重要である。

 一方、事業者サイドはどのような考え方で取り組んでいるのか。英国における6大グループの1社であるEDFエナジーを訪問、原子力政策に対する方針を聞いた。同社は旧ブリティッシュ・エナジー社を買収、その資産を引き継いで原子力発電所を運営しているが、同社の最大のテーマは今後の原発の新規建設にあり、既にヒンクリーポイントCでの建設許可申請はIPCに受理されている。以下に、同社のヒアリングから得た方針のポイントをまとめた。

 ・英国は事故に政策面で大きな影響を受けていないのは確かだが、規制当局や我々事業者は事故の教訓を真摯に受け止めている。様々な浸水対策や地震対策を立案し、実行に移している。

 ・ウェイトマン報告の勧告についてすべての検証は終わっていないが、基本的にはフォローしていく立場だ。そのうえで、EDFエナジーとして更なる安全性を追求していく。英国の安全規制は「チェックと改善の継続」としているが、事業者としても同感である。我々は事故を起こしたら事業を継続できなくなるという危機感を共有している。

 ・英国政府が進める諸施策は原子力の事業環境を整えるうえで有効であり、方向性はよいと見ている。EDFエナジーが重視するのは認可のスピードとEMRのFIT-CfDだが、建設認可審査が終わる時点(2012年末)で最終的な投資判断を行う。

 ・現地のサプライチェーンの整備も投資判断の重要な要素である。

 英国全体の原子力政策を総括すると、英国は一貫して原子力開発推進の姿勢をとっており、事故前後で政策にぶれは出ていない。推進の担保となるのは、規制当局ONRの事故影響評価だが、政府および事業者とも内容を妥当と評価しており、政治的プロセスに問題は見当たらない。そもそも英国では原子力利用の是非や事故そのものも国民的な議論になっておらず、世論調査からも英国民の意識に変化が生じていないことがうかがえる。英国民は、自国で顕在化していない原子力リスクよりも、電力の安定供給をより切迫した課題と捉えていると言える。今後の課題は原子力発電への投資誘導だが、その点についても建設リードタイムの短縮、市場での優遇政策と手が打たれつつあるのが実情である。

 

 □原子力発電の是非だけでは、最適解は得られない

 ドイツと英国における事故後の対応と政策決定プロセスを見てきたが、原子力の安全性をめぐる議論だけでは内実の理解は難しい。やはり、各国ごとの個別の背景や要因がある。両国の状況を端的に表現すれば、ドイツにおいては事故以前から脱原子力は既定路線であり、問題が電気料金だけなら早期の脱原子力を選択する国民性がある。背景には、重い電気料金負担に耐えうる強い経済が存在している。一方で、英国ではエネルギーコストの上昇に敏感な国民世論がある。安定、低廉なエネルギー供給を重視しており、顕在化していない原子力リスクへの反感は比較的小さいといえよう。

 両国以外でも、欧州各国における事故後の対応を中心にエネルギー政策を分析したが、欧州レベルでエネルギー政策を見た場合、脱CO2・再エネへのシフトという流れは確実に根付いているといえる。無論、気候変動問題による縛りもあるだろうが、欧州市民の再エネへの支持は非常に高く、コストのかかる政策であっても推進しやすい環境がある。一方で、現実的な電力供給の面ではいまだ在来型火力電源が主体であり、再エネの間欠性を補完する意味でも石炭・ガス火力の存在は重みを増す。こうした二項対立の隙間にあったのが、低CO2、安定電源である原子力発電であったと言えるであろう。

 脱原子力を選択する国は、原子力抜きでこの二項対立を解消する必要がある。また、欧州は経済圏の統合に合わせて単一電力市場の創設に向かっているが、自由化市場への信任とエネルギー・セキュリティーの間にも二項対立があるようにも見える。これら諸課題を解決するには極めて難しい方程式を解き明かす必要があり、一気に解決への道をたどれるとは考えにくい。その面で、原子力の位置づけも規定されるべきであろう。

 こうした実情を踏まえると、ドイツは先端を行く非常に野心的な挑戦をしており、次世代エネルギー供給のモデルとなるのか興味深い。反面、強い経済が必須条件であるとすれば、他国への波及は難しい。いずれにせよ、原子力発電の是非だけを切り出して政策を問う議論は成立しない。日本におけるエネルギー政策議論においても、政策全体のなかで考えられる選択肢と政策実現の時間軸を明確化することが第一に求められている。

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