電気事業連合会

海外電力関連 トピックス情報

脱原子力政策の韓国、直近の世論調査で原子力利用賛成が多数

2018年9月10日

   韓国原子力学会は8月16日、成人(満19歳以上)1000人を対象とした「原子力発電に対する認識調査」の結果、回答者の約7割が原子力利用に賛成したことを明らかにした。
   
   韓国では文在寅政権発足から1年が経過し、政権の国政運営ぶりを問う複数の世論調査が実施されてきた。これらの調査では、経済、外交政策などと並んで、エネルギー政策についても問われているが、政府が打ち出したエネルギー転換政策全般については賛成が多数を占める傾向を見せる一方、脱原子力政策については調査ごとに結果が異なる状況となっていた。

   原子力学会は、こうした状況を踏まえ、民間調査機関である韓国リサーチに委託して、現政権の脱原子力政策に特に焦点を当てた世論調査を実施した。2018年8月6~7日の2日間で行われた、この世論調査の結果、回答した成人1000人のうち、原子力利用について拡大すべきとした回答者が37.7%、維持すべきとした回答者が31.6%を占め、両者の合計は約70%に達した。一方、縮小すべきとの回答は28.9%にとどまった。このほか、原子力の安全性についても、安全だと思うとの回答が55.5%を占め、安全でないと考えるとの回答40.7%を上回った。「原子力発電利用は電気料金の抑制に役立つ」ことについては73.2%、「PM2.5、温室効果ガスを排出しない電源である」ことについては60.7%がそれぞれ「同意する」と回答した。

   韓国政府は「エネルギー転換政策」と称し、脱原子力、脱石炭発電と、再生可能エネルギーの拡大を方針として掲げるが、この世論調査の結果を見る限りでは、その政策がここにきて早くも行き詰まりの様相を呈し、国民もその政策の矛盾に敏感に反応したように思われる。

   行き詰まりの証左のひとつは、韓国電力公社の2018年上半期決算の赤字転落である。国内で唯一原子力発電所を有し、電力小売を独占する韓国電力公社は、赤字決算について、原子力発電施設の定期保守作業の長期化に起因する設備利用率の低迷と、原子炉停止に伴う供給力を補うための石炭およびLNG発電施設の焚き増しと外部からの電力調達による売上原価増などを原因に挙げた。韓国電力公社の決算資料によれば、平均燃料単価は昨年同期比で約32%増、燃料費だけで2兆ウォン(約2000億円)も増えた。

   2018年上半期の原子力発電施設の設備利用率低迷は脱原子力政策に起因するものではなく、政策と韓国電力公社の赤字の間には直接的な関係はないが、原子力の利用率低下が電力会社の収益悪化に直結することを目の当たりにした国民は、「脱原子力は経済的ではない」ことを実感したはずである。

   韓国は日本と同様に天然資源に恵まれず、エネルギー自給率は原子力を除けば3.1%(2017年OECD/IEA, World Energy Balances)と、OECD加盟国中でも最下位に属する。欧州のように国際送電連系を有するわけでもない。原子力発電施設が稼働しなければ、他の電源を稼働させるために海外から燃料を調達する以外の手段はない。政府のエネルギー転換政策では、再生可能エネルギーの拡大普及までの過渡期として原子力の減少分をLNG発電で賄う方針であるが、LNGスポット価格は中国の需要増大などを背景に現在も上昇を続けており、エネルギー安全保障上の懸念も拭い難いものがある。

   一方で、今夏の猛暑による電力需給のひっ迫に対する政府の説明もまた、韓国は当面は原子力発電に一定程度は依存し続ける必要があることを露呈した。日本と同様に猛暑に見舞われた韓国では、7月末には、需要ピークカットのための需要家への電力利用抑制要請の発動も検討されるなど、2011年9月15日の大規模停電を想起させる綱渡りの様相を呈した。韓国電力公社および同社子会社で原子力発電事業を担う韓国水力原子力は、原子炉の保守点検時期を調整して需要増に対応したが、政府はこのときも原子炉が追加的に稼働するため需給に懸念はないなどと発言し、原子力なしにはピーク時の電力需要への対応に不安を抱えることを自ら認めることになった。

   今夏の猛暑でエアコンをフル稼働させた一般家庭の電力使用量が増大したことに対して政府は夏季電力料金の特別緩和策を打ち出して民心に応えようとしたが、電力料金の抑制は翻って韓国電力公社の経営を圧迫し、これを補てんするには結局は血税が投入されることを国民は理解している。

   文大統領は8月末の内閣改造人事で、産業通商資源部長官の交代を発表した。同長官は再エネ推進派の研究者出身で、政府の脱原子力政策の青写真を描いた人物とも評され、鳴り物入りで長官に就任した人物であったが、今夏の電力需給ひっ迫に際しての対応のまずさが交代の背景にあったとも評される。しかし、再エネ派長官の首をすげかえたところで、行き詰まったエネルギー転換政策の矛盾が解消されるわけではない。

出典:韓国ギャラップ調査研究所世論調査結果(2018年6月28日発表)、韓国リサーチ世論調査結果(2018年8月14日発表)、韓国原子力学会プレスリリース(2018年8月16日)、韓国電力公社2018年上期決算資料等

以上

 

公式Twitterアカウントのご案内

海外電力関連 トピックス情報は、以下の電気事業連合会オフィシャルTwitterアカウントにて更新情報をお知らせしております。ぜひ、ご覧いただくとともにフォローをお願いいたします。

ページの先頭へ