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[豪州] 首相交代、エネルギー政策の不透明性がもたらす悪影響

2018年9月21日

   オーストラリアでは2018年8月24日、与党自由党の内紛からターンブル前首相が辞職に追い込まれ、新党首となったモリソンが首相に就任した。前首相は、小売電気事業者に対し、排出量条件と信頼性条件の両方を満たす電力調達を求める「国家エネルギー保証制度(NEG)」を打ちだしたが、党内の反発にあい、8月に入って排出量条件の法制化を撤回、その後まもなく政権の座を降りることとなった。モリソン新首相は早速、9月10日の閣議でNEGの廃案を決定した。同首相は米国のようなパリ協定からの離脱は行わない方針であり、インタビューに対し、特に追加的対策を講じなくとも削減目標(2030年までに2005年比26%減)達成は可能で、電力料金にも影響はないと述べているが、先行きの不透明さは否めない。

   オーストラリアは、石炭、液化天然ガス(LNG)、ウランなど複数のエネルギー資源を輸出する世界有数の資源国である。安い国内炭を背景に、かつては電源構成の8割超が石炭火力であった。世界で気候保全への関心が高まる中、こうした国で、温室効果ガス排出の抑制がエネルギー政策上の課題となることは、容易に想像できる。しかしオーストラリアではそれだけでなく、広域停電や電力価格の高騰といった、より足下の生活と経済に差し迫った問題が発生している。

   オーストラリアでは、2000年に再生可能エネルギー(再エネ)法が制定され、再エネ証書取引のスキームを通じた再エネ拡大推進が開始された。その後2000年から2015年までに、発電電力量に占める再エネの割合は国全体で8%から14%に上昇する一方、石炭は83%から63%に低下した。その影で進んだのが、電力料金の高騰である。再エネ拡大には、電源設備そのものへの投資促進・補助に加え、送電網など電力システムの整備が必要になる。しかしとりわけ国土が広大な同国では、整備に時間とコストがかかる。一方、火力では天然ガスが8%から21%へと増加したが、こちらは世界の需要増大でLNG価格が上昇、天然ガスは輸出にまわり、国内需給が逼迫する状況となった。

   以下に示す図のうち、左側のグラフは2007年3月を100として、消費者物価指数(総合)、電力料金、賃金の変動を示したものだが、これによると、2017年3月までの10年間に、電力料金は2倍以上となっている。賃金と消費者物価指数(総合)が歩調を合わせてゆるやかに上昇しているのと比べ、電力料金が明らかに高騰していることが見て取れる。一方、右側のグラフは、世帯可処分所得に占める電力料金の割合を、州別、所得階層別で比較したものである。よく知られているように、電力料金は逆進性が強い。このグラフでも、低所得層では減免措置を受けてもなお、高所得層とくらべて家計に占める電力料金負担が大きく、全国の中で平均所得が低いタスマニア州、南オーストラリア州ではとりわけその傾向が強い。なお、南オーストラリア州では再エネ(風力が主力)と天然ガスがほぼ半々(石炭火力は廃止)という電力供給体制も、同州の電力料金を世界トップクラスの高さに押し上げる要因となっている。

   加えて南オーストラリア州では、供給の不安定さも大きな問題である。2016年には嵐による高圧送電線倒壊で電圧が低下、風力設備は運転を停止し、全州が停電した。翌年にも猛暑による需要増加時に、風力から十分な電力が得られず供給力不足となり、広域で停電が発生した。気象条件に左右される再エネには、需給の変動を吸収しシステムの安定を担保するための調整力の確保が必須だが、再エネ割合が半分ともなると、ガス火力だけでは支えきれない。同州は、テスラ社と組んで大規模な蓄電池導入を進めているが、蓄電池コストは必ずしも競争的レベルには到達しておらず、高いガス価格とあいまって、当面電力料金にも影響してくるであろう。

   オーストラリアには資源があり、風力や太陽光といった再エネのポテンシャルもある。しかし長期にわたりそれらを合理的に活用できず、問題の拡大と対応の遅れを招いた。その背景には、政局に絡んで、同国のエネルギー・環境政策が変転を繰り返してきた経緯がある。基本的には、革新系の労働党が再エネ・環境重視、保守系の自由党は産業重視の傾向だが、それぞれの党内でも意見や急進度に違いがあり、ひとたび内紛が起こると、そうした違いが顕在化する。自由党では前述の通り、最近NEGをめぐる変転があったばかりだが、過去には労働党政権下でも、同じ党内での政権交代で排出量取引制度(ETS)導入が宙に浮いたり、炭素税が約1年で廃止されたりと、エネルギー政策の予見性は低いと言わざるをえない。ガス価格上昇を受け、LNG輸出制限も取り沙汰されるが、重要な輸出産品の制限には関連業界の反発が当然予測される。同国でもし輸出制限がかかれば、世界のLNG価格は上昇し、特に目下、オーストラリアを最大のLNG供給元とする我が国は、影響をまぬかれないであろう。

   自由化された電力市場のもと、政策が揺れ動く中では事業者も長期を見据えた投資をしづらく、再エネのバックアップとなる火力設備を適切な規模と立地に新設・増設していくことは難しくなる。また新規容量の追加が進まないことは古い石炭火力発電所の稼働継続につながり、そうなると効率の面でも温室効果ガス排出の面でも疑問符がつく。たとえ自国に豊富なエネルギー資源があったとしても、他国との連繋に頼れない国ではとりわけ、自然条件や資源を巡る世界の市場状況の変動に耐えうる、レジリエントなシステムの構築が重要である。今後さらに再エネのアクセルを踏むにしても緩めるにしても、社会に適切な投資を促すには、信頼できるエネルギー政策が不可欠である。

以上

 

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