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【フランス】 減原子力目標の達成時期を2025年から2035年に先送り

2018年11月30日

   フランスの環境連帯移行省は11月27日、今後10年間のエネルギー政策の方向性を示す改定版の多年度エネルギー計画(PPE)案の骨子を公表した。この中で政府は、総発電電力量に占める原子力比率を、現行の75%から50%に縮減する目標を2035年までに達成する方針を表明している。

   当初政府は減原子力目標の達成時期を2025年とし、2015年に制定されたエネルギー転換法においても、この目標が規定されている。しかし、政府は2017年11月の時点で、2025年に減原子力目標を達成するためには、閉鎖予定であった石炭火力発電所を維持するだけでなく、新たなガス火力発電所の建設も必要となり、この結果、温室効果ガスの排出量が2016年時点よりも増えてしまうことが明らかになったとして、減原子力目標達成時期を先送りする方針を示していた。

   今回公表されたPPE案の骨子では、目標達成時期が2035年とされており、以下のような計画で、最大で14基の90万kW級原子炉を閉鎖する計画が示されている。ただし、フェッセンハイム以外には、閉鎖する具体的な原子力発電所名は示されていない。なおPPE案骨子では、立地地域への経済的インパクトを考慮し、複数の原子炉が存在する1サイトで、当該サイトの全原子炉を閉鎖することがないよう、フランス電力(EDF)に要請している。

   今回のPPE案骨子では、達成時期を先送りしつつも、減原子力目標を維持する理由として、国内の既存炉が約15年という非常に短期間に建設され、閉鎖タイミングも重なることで、系統システムへの影響や、立地地域への経済的インパクトを考慮するとの説明がなされている。これまでは、原子力比率の縮減、電源の多様化という目的ありきの性格が強かったが、このような視点は現実的であり、実際、EDFも90kW級原子炉が運開から50年を迎え始める2029年以降は、一部の原子炉の閉鎖を検討していた。最終的には、改定版PPEの対象期間となる2028年までに複数の原子炉を閉鎖したい環境移行連帯省の意向も酌んで、2028年までの原子炉の閉鎖も盛り込まれた内容となった。

   これまで政府が具体的な減原子力目標達成のシナリオを描いてこなかったことを考えると、改定版PPE案は、現実的な視点に立った内容であると言える。PPE案骨子の発表と同じタイミングで、マクロン大統領は原子力発電によって、フランス国民が安価な電力価格を享受できている現実を受け入れるべきであり、再エネ拡大のために、減原子力を拙速に進めるべきではないと発言している。

   改定版PPE案が現実的な視点に立っていることは、2035年以降の低炭素電源確保のため、原子炉の新設可能性も残されていることからもうかがえる。政府は、既存炉を閉鎖した分、原子力以外の電源でカバーすることも検討するものの、代替電源の確実な確保が見通せていない現状では、原子力発電所の建設能力を維持するべきであると明言している。既存炉が一気に閉鎖されることによるインパクトを軽減するため、一部の原子炉から計画的に前倒しで閉鎖しつつ、代替電源としては原子力も検討し続けるというのは、原子力技術に強みを持ったフランスとしての現実的且つ戦略的な判断であると言える。

   しかし、政府がこれまでに比べてより具体的な減原子力シナリオを示したことと、実際にこのシナリオが実現できるかどうかは別問題である。政府は、2035年までの減原子力の達成にあたって、新たな化石燃料火力発電所を建設しないことや、温室効果ガスの排出量を増やさないとの方針を改めて確認している。その意味では、政府が改定版PPE案骨子に示した閉鎖計画実現の成否は、再エネ電力の拡大にかかっている。また、2025~2027年に閉鎖が計画されている2基については、隣国の電源ミックスに左右される。特に、ドイツは脱原子力を進める中で、石炭火力発電が増加しており、この状況が転換されない限り、2基の閉鎖計画に影響する可能性が高くなる。

   今回のPPE案骨子で示したシナリオ通りに減原子力が実現するかは予断を許さない。しかし、ドイツやベルギーのように、脱原子力の目的ありきでエネルギー政策決定を行った国で、温室効果ガス排出量の削減が進まない、あるいは代替電源が確保できていない状況が発生していることを考えれば、原子力を減らす目標を掲げつつも、気候変動対策や、安価な電源確保のため、発電コストが安価な低炭素電源として原子力をオプションとして維持している点は非常に現実的でバランスの取れた判断であると言えるのではないだろうか。

   電源計画も含めたエネルギー政策は、気候変動対策だけでなく、国民経済に与える影響も大きい。誰のために、どのような目的で何を決定するのか、イデオロギーにとらわれず、現実的な意思決定が必要である。

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