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[世界] IEA、原子力の急激な縮小はエネルギー供給保証と温暖化防止目標の達成を危うくすると警告
2019年7月16日
国際エネルギー機関(IEA)は5月28日、過去約20年間で初めて原子力を専門に取り扱った報告書「クリーン・エネルギー・システムにおける原子力発電」を公表し、先進諸国で原子力発電設備が急激に縮小していけば、CO2排出量が数十億トン増加するなどの悪影響が出ると警告した。
追加の原子力発電設備が手当てされない場合、クリーン・エネルギー社会への移行は非常に難しくなり、先進諸国では今後20年間に1兆6,000億ドルの追加投資が必要。
このまま原子力オプションを維持するのであれば、既存の原子力発電所で運転期間を延長したり、原子力を他の低炭素エネルギー源と対等に扱い、原子力がもたらす恩恵に相応の報酬を与えるといったアクションを取るべきだと訴えている。
世界の原子力発電所が抑制したCO2の累積排出量©IEA
報告書によれば、原子力は過去50年以上の間、600億トンものCO2の排出を抑制(=図)。
原子力による発電シェアは世界の総発電量の約10%を占めるなど、低炭素エネルギーでは水力に次いで2番目の規模であるにも拘わらず、数多くの利用国で先行きの見えない状況に置かれている。
米国やカナダ、欧州連合、日本などの先進諸国では、原子力は過去30年以上にわたって最大の低炭素電源であり続けており、いくつかの国では電力供給保証上の重要な役割も担っている。
しかし、これらの国の原子力発電設備は経年化が進み、閉鎖されるものが出始めている。
理由の一部としては、いくつかの国で取られている脱原子力政策など政策上のファクターがあるほか、経済や規制面のファクターも指摘されている。
政策的な変更が行われなかった場合、先進諸国では2025年までに原子力設備の25%が、2040年までには約3分の2が失われる。
このように、新規の原子力発電所建設プロジェクトや既存の原子力発電所における一層の運転期間延長が進展しなければ、2040年までに追加で排出されるCO2の量は40億トンにのぼることになる。
安全性その他の懸念から脱原子力政策を進める国がある一方、多くの国ではエネルギーの移行に原子力が必要と見込んでいるが、その達成に必要なことは十分なされていない。
IEAとしては原子力を扱った今回の最初の報告書で、この重要な問題を世界レベルのエネルギー議論の場に戻したいと考えている。
IEAのF.ビロル事務局長(=右写真)は、エネルギーの移行を世界中で進展させる上で原子力は不可欠だとしており、「再生可能エネルギーやエネルギーの効率化、その他の革新的発電技術と同様、原子力は持続的なエネルギー供給や供給保証の促進といった目標の達成に大きく貢献できる」と指摘。
ただし、これに伴う障害を乗り越えない限り、原子力のそのような役割は世界中、特に米国と欧州および日本では急激に低下していくと述べた。
今回の報告書でIEAは、既存の原子力発電所で運転期間を延長するには多額の資本投資が必要となると指摘した。
しかし、そのためのコストは、新たな太陽光や風力といった他の発電プロジェクトのコストと競合できるレベルであり、エネルギーの移行を一層確実かつ建設的にすることにつながるとしている。
同報告書によると、世界各国の電力市場は現在、原子力発電所の運転期間を延長する上であまり好ましくない状況にある。
多くの経済大国で電力卸売り価格の低迷が長期化しているため、複数の発電技術で利益率が急激に低下、あるいは失われた状態にあり、原子力発電所に至っては運転期間延長どころか、早期閉鎖のリスクにさらされている。
閉鎖により不足する電力を、太陽光や風力などの低炭素エネルギー源で補うとした場合、これらの開発速度をかつてないレベルに加速しなければならない。
過去20年間に先進諸国における太陽光と風力の設備容量は約5億8,000万kW分増加したが、今後の20年間では新たにその5倍近くの設備が必要。
このような急激な拡大は、新たな電源を広範囲のエネルギー・システムにつなげる際、深刻な問題を生じさせるため、この期間に先進諸国では、クリーン・エネルギー社会への移行に約1兆6,000億ドルの追加投資を行わねばならず、最終的に高額の電気代という損害が消費者に及ぶことになるだろう。
これらの結論からビロル事務局長は、「原子力の将来については、政策立案者がカギを握っている」と指摘。
原子力とその他のクリーン・エネルギーによる環境面やエネルギー供給保証面の利点が高く評価されるよう、電力卸売り市場の構造を変える必要性があるとしたほか、各国政府は既存の原子力発電所で運転期間を延長することは、コスト面で競争力があることを認識すべきだと強調した。
また、原子力発電オプションを維持する方針の国に対しては、政府が政策面で以下のアクションを考慮する必要があると勧告している。
●原子力オプション維持のため、安全性が確保されている限り既存の原子力発電所に対しては、運転期間の延長を認める。
●周波数の制御サービスなど、電力供給保証の維持に必要なシステム・サービスが適正に評価されるやり方で電力市場の構造を設計。原子力発電所などこれらのサービスの提供者が、差別されることなく競争力のある方式で補償を受けられることを保証する。
●原子力がもたらす環境面やエネルギー供給保証上の恩恵について、その他の低炭素エネルギー源と対等の条件を設定し、適切な報酬を与える。
●原子力発電所の安全運転を継続的に確保するため、必要に応じて安全規制を改定する。技術的に可能であれば、原子力発電所でアンシラリー(電圧・周波数の調整等)サービスを提供するため、運転に柔軟性を持たせる。
●リスク管理と資金調達に有効な枠組を創出し、新規や既存の原子力発電所のプロジェクトに対して、リスク特性や長期的な展望を考慮に入れた、許容可能なコストによる資本の投資を促進する。
●新規プラントの建設支援として、許認可プロセスがプロジェクトに遅延を生じさせたり、コストの増加に繋がることがないよう保証する。
●新しい原子炉設計の開発で技術革新を支援。これにより、低コストでリードタイムが短かく、運転の柔軟性も改善される技術を原子力発電所にもたらす。
●人的資源を開発・維持し、原子力エンジニアリングにおけるプロジェクト管理能力を醸成する。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
【情報提供:一般社団法人日本原子力産業協会】
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