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【英国】 英国政府が低炭素電源である原子力向けの財政支援を強化
2019年9月6日
英国政府は2008年に、気候変動対策や国内のエネルギー安定供給確保の観点から、原子力を推進していく方針を打ち出した。それから約10年が経過し、政権交代も経験したが、英国政府の原子力推進の姿勢は一貫している。2019年7月に就任したジョンソン首相も、英国における“原子力ルネサンス”を進めるタイミングであるとして、原子力開発に積極的な姿勢を示している。
英国ではこれまでに様々な原子炉新設の支援策が打ち出されてきたが、2019年7月、原子炉新設向け資金調達支援のための規制資産(RAB)モデルの導入に向けたパブリックコンサルテーションが開始された。また、米国やカナダ等で開発が進む小型モジュール炉(SMR)を開発する英国ロールスロイス社に、開発資金援助を行うことも発表された。
英国では2019年8月現在、15基の原子炉が運転中であるが、これらの原子炉は1995年に運開したPWR1基を除き、運転からすでに30年以上が経過し、現在、世界でも英国以外にほとんど運転されていない、改良型ガス炉(AGR)である。これらは全て2020年代後半には閉鎖される見通しである。英国政府は、2006年以降エネルギー政策の見直しを行い、2008年に公表した原子力白書において、気候変動対策やエネルギー安定供給の観点から、重要な低炭素電源である原子力を積極的に推進するために、原子炉の新設投資を促進する方針を示した。新設促進のため、英国政府は、サイト環境に左右されない事前の設計認証プロセスである一般設計評価(GDA)の導入や、国家的に重要なインフラプロジェクトの許認可プロセスを原子力にも適用する等、原子炉新設を加速するための施策を打ち出してきた。さらに英国政府は、大規模な初期投資が必要となる原子炉新設プロジェクトに係る投資回収を保証するため、差額決済制度(CfD)を原子力にも適用することを決定した。CfDは、あらかじめ設定した基準価格(ストライクプライス)に対して市場価格が下回ればその差額を事業者に補てんし、上回れば、その差額を事業者が支払う制度であり、これによって投資の予見性が高まる効果が期待される。英国政府は2016年に、フランス電力(EDF)によるヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC)プロジェクトに関して、92.5ポンド/MWh(1ポンド137円換算で約12,700円/MWh)のストライクプライスを認めた。
しかし、HPCプロジェクトのストライクプライスは、2016年当時の卸電力市場価格の2倍程度、さらにその後も市場価格が低下し、国民負担が大きくなりすぎるとして、英国会計検査院がCfD制度を批判していた。英国政府はCfDに代わる新たな投資回収支援策を検討していたが、その最中の2019年1月、日立製作所が、ウィルヴァサイトにおけるABWR建設プロジェクトの凍結を発表した。この決定の背景には、プロジェクトに英国政府の出資を求めていた日立製作所と英国政府とが折り合わなかったことが背景にあると言われている。投資回収が確実に見込めずに莫大な初期投資にかかるリスクを負担することはできないとの事業者としての判断があったと考えられるが、この発表を受けて英国政府は、新たな資金調達支援策を2019年夏頃までに提案するとしていた。
今般パブリックコンサルテーションに付されたRABモデルは、事業者が多額の初期投資を回収するための新たな仕組みである。パブリックコンサルテーション文書によれば、政府が設置する管理機関が規制資産額として計上することを認めたコストに、事業者の利益(リターンの比率も管理機関が決定)も上乗せした収入を、小売事業者を通じて電力需要家から回収する仕組みが想定されている。また、具体的な規模は今後検討される状況ではあるが、コストの大幅な上振れ時には英国政府による資金調達支援等も想定されている。一方で、想定コストを下回った場合には、その利益を電力需要家と事業者で分割することが想定されているため、事業者にとって、効率的に建設を進めるインセンティブも働くとされている。このような仕組みにより、新設を計画する事業者にとっての投資予見性が高まることが期待されている。
こうした新設支援策に加え、英国政府は、EPRやABWR等の既存の中大型炉だけでなく、新型炉、特にSMR開発に対する支援にも注力する方針である。英国政府は2017年12月時点で、今後3年間で合計4,400万ポンドの予算を投じSMRや第4世代の先進モジュール炉(AMR)の開発を支援する方針を示している。2段階で構成される支援プログラムでは、第1段階において原子炉ベンダー8社に対し、設計に係るフィージビリティスタディ実施支援のために400万ポンドを拠出し、第2段階に進んだ3、4社には予算4,000万ポンドでさらなる開発支援を行う。
第1段階で選定された8事業者は全てAMRを開発しており、PWR等の既存技術を活用する事業者は支援対象に含まれなかった。しかし英国政府は2019年7月、PWRベースのSMR(UK SMR)を開発するロールスロイス社を中心とするコンソーシアムが提案した、産官マッチングファンド方式で総額5億ポンドを投じてSMR開発を行う計画を採択し、第一段階の資金援助として、2019年秋までに1,800万ポンドをコンソーシアムに提供する方針を発表した。
ロールスロイス社は、英国政府によるフィージビリティスタディ向け資金援助対象からUK SMRが漏れた際に、政府支援なくしては開発を断念せざるをえない可能性があると主張していた模様である。前述のとおり、英国において実際に進んでいる新設プロジェクトは、HPCプロジェクトのみであり、日立製作所等によるその他のプロジェクトが凍結される中、2008年以降踏襲されている、気候変動対策のために原子力発電を活用していくという方針を堅持するためには、AMRにとどまらず、既存技術を活用し、より実現可能性が高いとも言えるSMR開発も支援する方針を採ったとも考えられる。
気候変動対策を最優先課題と位置づけ、そのために原子力を積極的に活用していく姿勢が、10年にわたり揺らがない状況からは、温室効果ガス排出の少ない電源開発には長期的且つ安定的な取組が必須であるという、エネルギー・環境政策に対する英国政府の考え方がうかがえる。
参考文献
英国政府プレスリリース、2019年7月22日付、
https://www.gov.uk/government/consultations/regulated-asset-base-rab-model-for-nuclear
英国政府プレスリリース、2019年7月23日付、
https://www.gov.uk/government/news/innovative-funding-models-and-technologies-to-drive-investment-in-new-wave-of-low-carbon-energy
英国ではこれまでに様々な原子炉新設の支援策が打ち出されてきたが、2019年7月、原子炉新設向け資金調達支援のための規制資産(RAB)モデルの導入に向けたパブリックコンサルテーションが開始された。また、米国やカナダ等で開発が進む小型モジュール炉(SMR)を開発する英国ロールスロイス社に、開発資金援助を行うことも発表された。
英国では2019年8月現在、15基の原子炉が運転中であるが、これらの原子炉は1995年に運開したPWR1基を除き、運転からすでに30年以上が経過し、現在、世界でも英国以外にほとんど運転されていない、改良型ガス炉(AGR)である。これらは全て2020年代後半には閉鎖される見通しである。英国政府は、2006年以降エネルギー政策の見直しを行い、2008年に公表した原子力白書において、気候変動対策やエネルギー安定供給の観点から、重要な低炭素電源である原子力を積極的に推進するために、原子炉の新設投資を促進する方針を示した。新設促進のため、英国政府は、サイト環境に左右されない事前の設計認証プロセスである一般設計評価(GDA)の導入や、国家的に重要なインフラプロジェクトの許認可プロセスを原子力にも適用する等、原子炉新設を加速するための施策を打ち出してきた。さらに英国政府は、大規模な初期投資が必要となる原子炉新設プロジェクトに係る投資回収を保証するため、差額決済制度(CfD)を原子力にも適用することを決定した。CfDは、あらかじめ設定した基準価格(ストライクプライス)に対して市場価格が下回ればその差額を事業者に補てんし、上回れば、その差額を事業者が支払う制度であり、これによって投資の予見性が高まる効果が期待される。英国政府は2016年に、フランス電力(EDF)によるヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC)プロジェクトに関して、92.5ポンド/MWh(1ポンド137円換算で約12,700円/MWh)のストライクプライスを認めた。
しかし、HPCプロジェクトのストライクプライスは、2016年当時の卸電力市場価格の2倍程度、さらにその後も市場価格が低下し、国民負担が大きくなりすぎるとして、英国会計検査院がCfD制度を批判していた。英国政府はCfDに代わる新たな投資回収支援策を検討していたが、その最中の2019年1月、日立製作所が、ウィルヴァサイトにおけるABWR建設プロジェクトの凍結を発表した。この決定の背景には、プロジェクトに英国政府の出資を求めていた日立製作所と英国政府とが折り合わなかったことが背景にあると言われている。投資回収が確実に見込めずに莫大な初期投資にかかるリスクを負担することはできないとの事業者としての判断があったと考えられるが、この発表を受けて英国政府は、新たな資金調達支援策を2019年夏頃までに提案するとしていた。
今般パブリックコンサルテーションに付されたRABモデルは、事業者が多額の初期投資を回収するための新たな仕組みである。パブリックコンサルテーション文書によれば、政府が設置する管理機関が規制資産額として計上することを認めたコストに、事業者の利益(リターンの比率も管理機関が決定)も上乗せした収入を、小売事業者を通じて電力需要家から回収する仕組みが想定されている。また、具体的な規模は今後検討される状況ではあるが、コストの大幅な上振れ時には英国政府による資金調達支援等も想定されている。一方で、想定コストを下回った場合には、その利益を電力需要家と事業者で分割することが想定されているため、事業者にとって、効率的に建設を進めるインセンティブも働くとされている。このような仕組みにより、新設を計画する事業者にとっての投資予見性が高まることが期待されている。
こうした新設支援策に加え、英国政府は、EPRやABWR等の既存の中大型炉だけでなく、新型炉、特にSMR開発に対する支援にも注力する方針である。英国政府は2017年12月時点で、今後3年間で合計4,400万ポンドの予算を投じSMRや第4世代の先進モジュール炉(AMR)の開発を支援する方針を示している。2段階で構成される支援プログラムでは、第1段階において原子炉ベンダー8社に対し、設計に係るフィージビリティスタディ実施支援のために400万ポンドを拠出し、第2段階に進んだ3、4社には予算4,000万ポンドでさらなる開発支援を行う。
第1段階で選定された8事業者は全てAMRを開発しており、PWR等の既存技術を活用する事業者は支援対象に含まれなかった。しかし英国政府は2019年7月、PWRベースのSMR(UK SMR)を開発するロールスロイス社を中心とするコンソーシアムが提案した、産官マッチングファンド方式で総額5億ポンドを投じてSMR開発を行う計画を採択し、第一段階の資金援助として、2019年秋までに1,800万ポンドをコンソーシアムに提供する方針を発表した。
ロールスロイス社は、英国政府によるフィージビリティスタディ向け資金援助対象からUK SMRが漏れた際に、政府支援なくしては開発を断念せざるをえない可能性があると主張していた模様である。前述のとおり、英国において実際に進んでいる新設プロジェクトは、HPCプロジェクトのみであり、日立製作所等によるその他のプロジェクトが凍結される中、2008年以降踏襲されている、気候変動対策のために原子力発電を活用していくという方針を堅持するためには、AMRにとどまらず、既存技術を活用し、より実現可能性が高いとも言えるSMR開発も支援する方針を採ったとも考えられる。
気候変動対策を最優先課題と位置づけ、そのために原子力を積極的に活用していく姿勢が、10年にわたり揺らがない状況からは、温室効果ガス排出の少ない電源開発には長期的且つ安定的な取組が必須であるという、エネルギー・環境政策に対する英国政府の考え方がうかがえる。
参考文献
英国政府プレスリリース、2019年7月22日付、
https://www.gov.uk/government/consultations/regulated-asset-base-rab-model-for-nuclear
英国政府プレスリリース、2019年7月23日付、
https://www.gov.uk/government/news/innovative-funding-models-and-technologies-to-drive-investment-in-new-wave-of-low-carbon-energy
以上
【作成:株式会社三菱総合研究所】
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