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【豪州】 国民の過半数が、CO2排出量削減を目的とする原子力利用を支持

2019年11月25日

   原子力発電が法律によって禁止されているオーストラリアにおいて、このほど市場調査会社ロイ・モーガンが発表した、調査の結果が注目を浴びている。ロイ・モーガン社は2019年10月7日、地球温暖化に関する調査で、回答者の51%が二酸化炭素(CO2)排出量の削減に役立つのであれば原子力を利用することに賛成したと発表した。また、賛成の比率は2011年の調査結果と比較して16ポイント増加している。
 
   オーストラリアは天然ウランの埋蔵量が豊富であり、2018年においてもカザフスタン、カナダに次ぐ約6,500トンのウランを生産している。一方、原子力発電の導入に関しては慎重な姿勢を取っており、法律によって原子力発電が禁止されている。ただし、多目的炉を活用した研究や医療用放射性同位体の製造など、発電以外の原子力・放射線利用には力を入れている。

   オーストラリアのエネルギー政策は、21世紀に入るまでは豊富で安価な国内炭の利用を主としていたが、2000年より再生可能エネルギー(再エネ)導入政策を開始した。石炭火力発電への依存度低減により温室効果ガスの排出量を削減し、低減分を再エネ発電で代替する方策を進めてきた。このため、発電電力量に占める各電源の割合は、2007年から2017年の間で石炭火力は77%から61%に低下した一方で、再エネ発電は9%から15%と上昇した。このように安価な国内炭の利用割合を低減して再エネ発電を拡大したこと、またそれに伴い送電網などの電力システムの整備への投資も拡大したことによって電気料金が高騰し、2007年から2017年までの10年間で電気料金は2倍以上となった。さらに2016年に南オーストラリア州で、強風による高圧送電線倒壊で電圧が低下した結果、風力発電設備が停止し、同州全土にわたって停電が発生するなど、電力供給の不安定さも問題視されている。

   資源国でありながら電気料金の高騰と供給の不安定さにさらされる中、同国では近年、原子力発電利用の是非を議論する動きが見られる。2016年5月には、南オーストラリア州が設置した燃料サイクル委員会が、放射性廃棄物の管理・処分施設の建設や原子力発電利用の是非を検討した結果を取りまとめた報告書を公表した。提案採択には至らなかったものの、原子力発電を禁止する法律の撤廃を求めるべきと同州政府に提案した。
   最近では、原子力発電導入を模索する動きが政府レベルでも見られるようになった。アンガス・テイラー・エネルギー大臣は、2019年8月に、議会下院の環境エネルギー常任委員会に対し、オーストラリアが小型モジュール炉を含めた原子力発電を導入するとした際に政府が考慮すべき事項についての調査を依頼した。同大臣は調査を依頼した背景として、発電量が天候に大きく左右される再エネ発電容量の大幅な増加に言及している。調査結果は2019年末に報告される見込みである。

   このようなエネルギー利用を巡るオーストラリアの認識の変化は、今回の調査における市民の回答にもはっきりと表れている。左側のグラフによれば、「CO2排出量削減への貢献」を前提として示して原子力利用の賛否を質問した場合と、そうした前提を示さずに質問した場合とでは、原子力利用賛成に対し、調査全体として6ポイントの差が生じた。一方、右側のグラフは、2011年の調査と2019年度の調査を比較した結果を示しており、原子力発電の導入に対して賛成する割合は増えているが、やはりCO2排出量削減への貢献についての言及の有無によって賛成比率に差が生じている。このことから、ロイ・モーガン社は、原子力利用の実現のためには、原子力技術の利点を国民が理解できるよう関係者が努力する必要があると主張している。

   オーストラリアには豊富な石炭、天然ガス、ウラン資源があるが、パリ協定をはじめとしたCO2排出量削減に向けた世界的な動きに応じて、石炭火力への依存度低減と再エネの導入拡大による電力低炭素化への取組が政府主導で進んでいる。たしかに同国には、風力や太陽光といった再エネのポテンシャルがある。しかしそれでも、大規模な停電や電気料金の高騰が示すように、もっぱら再エネメインでの低炭素化には限界がある。こうした現実に直面し、オーストラリアでは安定供給が見込める低炭素電源として原子力発電を評価する見方が強まり、州や連邦レベルで議論が提起されるようになってきた。その背景には、このほどのロイ・モーガン社の調査結果が示したように、原子力に対する国民のポジティブな評価が徐々に増えていることがあるといえる。

   市民レベルでの原子力再評価の動きは他の地域でも見られる。例えば台湾では、2017年の電気事業法の改正で、2025年までに原子力発電所を恒久停止することがいったん法律で規定されたが、2018年11月には住民投票でこの条項の廃止が決定した。台湾では、原子力発電所の稼働数が低下する中で、夏場に広域停電が発生するなど、供給力不足に対する懸念が高まった結果、住民が原子力を再評価し、脱原子力の流れを押しとどめる動きにつながった。

   オーストラリア政府は2030年のCO2排出削減目標(2005年比26%減)の達成は可能との見通しを示しているが、市民生活を圧迫しながらの低炭素化では先行きの不透明さも否めない。また2030年以降も見据えると、同国が自国のウラン資源による原子力発電を通じて更なる低炭素化を図ることは合理的であり、原子力発電も排除せず、多様な技術オプションを検討しておくことは重要であると考えられる。

以上

【作成:株式会社三菱総合研究所

 

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