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【世界】 世界における原子力発電所の運転期間延長の動向

2019年12月13日

   近年、原子力利用国では、規制当局が運転開始時に認可した原子力発電所の運転期間を延長・更新しての長期運転の動きが活発化している。
    運転期間に関する許認可は国ごとに異なる。例えば米国では最初の運転認可期間は40年と定められているが、その後は規制機関への申請と審査により20年間の運転延長が可能で、運転期間延長の申請には上限がない。米国における運転認可期間は安全性の賞味期限を意味せず、技術的視点というより、許認可業務管理上の区切り単位という意味合いである。一方で仏国や英国などでは運転認可期限は規定されておらず、10年に1度の定期安全レビュー(PSR)を実施し、運転継続について規制当局の審査を受け、承認を得ることで延長が可能である。
   各国の運転期間の状況を見ると、米国をはじめ、仏国、英国、カナダにおいて、40年を超えて運転している原子力発電所がある。特に米国では、半数近いプラントが40年を超えて運転しており、60年運転は自然な流れとなっている。米国デューク・エナジー社は2018年1月に、2度目となる20年間の運転認可更新(SLR)の申請を規制当局に提出したほか、今年9月には、所有する運転中の原子力発電所(全11基)についてSLR申請を行うことを発表するなど、今や80年運転に焦点があたっている。仏国でも、フランス電力(EDF)が60年間の運転継続も見据えた規制機関とのやり取りを2014年から開始している。
   日本では、規制機関の審査を受けることで、1回に限り20年の運転延長が可能である。実際、高浜1、2号機、美浜3号機、東海第二原子力発電所で60年の運転が認可されている。



(出所)各国電気事業者等のホームページ(2019年10月18日時点)情報に基づき三菱総合研究所作成。日本は経済産業省、原子力発電所の現状(2019.11.11)、https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pdf/001_02_001.pdf、に基づき三菱総合研究所作成

   パリ協定を始め、気候変動対策としての脱炭素化に向けた国際的な要請等を背景に、原子力の価値を見直す風潮がある中で、長期の運転が志向されるのは以下のような背景があると考えられる。

●経済性の追求
原子力発電は、初期投資コストは非常に大きいものの、商業運転が開始されれば、運転期間中に発生するコストは低く抑えられる。さらに、2015年の経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)の分析によると、例えば米国において、運転期間延長を行い、減価償却費が抑えられた原子力発電の標準耐用年間均等化発電コスト(LCOE)は他の電源よりも有利であると評価されており、需要家にとっても経済的な負担軽減が期待される。
その一方で、新増設は、大規模な資金調達が必要となり、建設遅延やコスト上振れ等のリスクもあり、電気事業者にとってはハードルが高くなっている。このため、原子力発電を行っていきたい事業者にとっては、安全が確保される限り、既存の発電所を活用していくほうがより魅力的なオプションであると考えられる。
●立地地域への配慮
原子力発電所が立地する地域には、税収入や雇用創出等といった地域経済へのインパクトがある。当該発電所の運転が終了してしまえば、地元における経済的なマイナスインパクトは大きく、電気事業者や場合によっては国による補填措置も検討される必要がある。例えば、原子力縮減目標の達成のため、長期運転を行わずに閉鎖されることが決定した仏国のフェッセンハイム原子力発電所では、閉鎖後の地域経済振興のため、政府が委員会を設置し、具体的な地域振興や雇用維持のための施策を検討している。また仏国政府は、原子力縮減目標達成のため、2035年までに合計で14基の原子炉を閉鎖する方針であるが、1サイトに設置されている複数基の原子炉を一気に閉鎖しないよう電気事業者に指示している。これも立地地域への配慮の一環であると言える。

   英国や仏国では2050年にカーボンニュートラルを達成するとの目標を掲げる等、気候変動対策のための脱炭素化に向けた国際的な流れは不可避であろう。再生可能エネルギー開発と合わせて、低炭素電源として原子力を推進していきたい欧米諸国においては、今後も長期運転の方針が維持されていくのではないだろうか。



図:米国で初めてSLR申請をしたターキーポイント原子力発電所



以上

【作成:株式会社三菱総合研究所

 

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