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【中国】 中国で4年ぶりに国務院が原子炉新設を承認---原子力利用拡大が再開へ

2020年2月4日

   中国では、1985年の商用炉初号機建設開始以降、コンスタントにプラント建設が進められてきた(図 1)。
   中国より前に建設が開始されていた米国等での建設を追い抜く形で、中国において米ウェスティングハウス(WH)社が開発した第3世代炉のAP1000や、欧州加圧水型炉(EPR)の世界初号機(三門1号機および台山1号機)の運開が実現したが、その要因の一つとして、継続的な建設を通じたベンダーや資機材メーカーの技術力向上は無視できないだろう。




図 1 中国における年毎の原子炉の着工および運開の基数
   出所:IAEA PRIS(2020年1月10日アクセス)等を基に三菱総合研究所作成

   しかしながら、図 1で近年着工数が減少していることが示すように、ここ数年、新規プラントの着工ペースには急ブレーキがかかっていた。それは、2015年を最後に、我が国の内閣に相当する国務院による原子炉の新規建設プロジェクトの承認が途絶えたためである。中国政府が掲げている目標によれば、2020年時点で運転中および建設中の原子炉の設備容量は8,800万kWとなり、フランスをしのぎ米国に次ぐ世界第2位の原子力大国となっているはずであった。しかし新設承認の足踏みもあり、この目標の実現は現在ではほぼ不可能となっている。
   新設承認が止まってしまった明確な理由は公表されていない。現地メディアは、世界的にも注目されるAP1000やEPRの世界初号機の順調な運転状況を政府が見極めたかったことや、一部の地域では発電設備が過剰であり、急いで原子炉建設を進める必要がないことが原因ではないかとの見方を示していた。
   政府の4年にわたる沈黙は、2019年7月に破られ、図2に示す3カ所の原子力発電所におけるプラント建設が承認されたことが政府高官より公表された。そのうち漳州1号機は、同年10月に着工している。



図2 2019年に建設が承認された3プロジェクトの概要
   出所:各発電所の事業者が公表している環境影響報告書等に基づき、三菱総合研究所にて作成

   国産第3世代炉の華龍1号に加えて、AP1000の技術をベースに大型化したCAP1400初号機の建設も承認されたことは、中国の原子力産業界にとって久しぶりの大きな朗報であった。
   今回の新設承認の背景には、AP1000の世界初号機として運開した三門1号機、およびEPRの台山1号機が着実に運転実績を積み重ねつつあり、また両機に続いてAP1000、EPRの運開が順調に続いたことも、一つの要因としてあると思われる(中国では、既に三門と海陽で2基ずつのAP1000が、また台山で2基のEPRが運開している)。
   また、温室効果ガスの排出抑制や大気汚染の軽減のために、発電時に温室効果ガスを排出しない原子力発電を活用したいという政府の意向もあるだろう。中国では、2014年に習国家主席が、CO2排出量のピークを2030年頃とし、一次エネルギー消費量における非化石エネルギーのシェアを2030年までに20%前後とする目標を提示している。政府はこれらの目標の達成に向け、風力、太陽光といった再生可能エネルギーに加えて、原子力の活用も重視しているものと思われる。
   大気汚染の軽減に向けた原子力の活用という点で最近の興味深い動きとして、冬季の熱源としての原子力利用を挙げることができる。仙台市とほぼ同じ緯度に位置する山東省・海陽原子力発電所1、2号機(AP1000)では、プラントの熱を利用した熱供給プロジェクトが開始されており、原子力は熱源としても注目されている。
   こうした動きも背景に、漳州に続いて、既に建設が承認されている太平嶺や栄成でも着工が続くようであれば、しばらく元気のなかった中国原子力産業界が再び活気づき、原子力利用の拡大が再始動する可能性は十分にある。中国では、高温ガス実証炉が運開間近で、小型モジュール炉(SMR)や洋上原子力プラントの建設に向けた動きも進んでおり、これらの建設や開発の進捗も世界の注目を集めるだろう。
   温室効果ガス排出削減を目指して、再エネや原子力の拡大に注力する中国の状況は、我が国にとっても示唆深い。中国では、新設承認の足踏み状態に終止符が打たれ、今後は建設経験の蓄積による技術力の底上げ、それによる遅延のない建設の進展といった好循環が再び回り出すであろう。翻って我が国では、建設の経験が途絶えサプライチェーンの弱体化が懸念されている。エネルギー基本計画は「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」として原子力を位置付けているが、計画の実現には、原子力の利用を支えるベンダーや資機材メーカーといった産業を維持する取り組みを実施する必要があると思われる。

   参考文献
   ●IAEA PRIS
   ●国務院、エネルギー発展戦略行動計画(2014-2020年)、2014年11月
   ●ホワイトハウス、FACT SHEET: U.S.-China Joint Announcement on Climate Change and Clean Energy Cooperation、 2014年11月
   ●国家能源局記者会見速報、2019年7月

以上

【作成:株式会社三菱総合研究所】 

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