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【世界】 SDGsにおける原子力が果たす役割

2020年4月16日

   持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)への取り組みは、我が国においても企業、自治体、若い世代を中心に広がりを見せている。SDGsとは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で記載された2030年までの国際目標である。図 1に示すように17のゴールと、その下に169のターゲットが構成されており、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)をテーマとして、世界各国で積極的に取り組まれている。
             

図 1 持続可能な開発目標(SDGs)における17のゴール
(出典)外務省、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割、令和2年1月、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/2001sdgs_gaiyou.pdf

   企業・自治体等においては、このSDGsを経営目標や事業と紐づけて整理する試みが行われており、SDGsの目標と関係性を持たせることで、事業や個々の取り組みがどの社会課題解決に結びついているかが分かりやすくなり、社内の意識改革にも、社外のステークホルダーの企業理解にも資するところは大きい。
   SDGsの達成に向け、原子力が果たしうる役割は、実は意外に幅広い。国際原子力機関(IAEA)は、SDGsの17の目標のうち、飢餓、保健、水・衛生、エネルギー、イノベーション、気候変動、海洋資源、陸上資源、実施手段の9つの分野で原子力科学技術が直接、貢献できると発表している。例えば、IAEAは2015年~2035年にかけて、放射線治療への投資が、発展途上国における患者の合計2690万年もの寿命を救い、2,781億ドルの純利益をもたらす可能性があると試算している。また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、各電源の1GWh当たりの二酸化炭素排出量について、石炭820トン、天然ガス490トン、原子力12トン(いずれも中央値)と試算している。
【SDGsにおける原子力の貢献可能領域】
●飢餓:放射線照射等による土壌の肥沃度改善、作物の品種改良、殺虫、殺菌
●保健:放射線診断、放射線治療
●水・衛生:同位体技術による水資源研究・調査
●エネルギー:低炭素電源としての原子力発電、核融合技術
●イノベーション(産業・革新):放射線滅菌処理(医療機器、文化財保存、産業排水)、材料開発、非破壊検査(飛行機、ガスパイプライン、建造物、橋梁)
●気候変動:温室効果ガス排出源モニタリング、原子力発電による温室効果ガス排出緩和
●海洋資源:同位体技術による海洋酸性化のモニタリング・研究、魚介類品質管理、汚染物質追跡
●陸上資源:同位体測定による土壌品質調査、汚染物質追跡
●実施手段:国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)等とのパートナーシップ

   このように、SDGsにおける原子力の役割は、放射線技術を含め、非常に多種多様であることが伺える。特に、原子力発電のみに着目してSDGsの目標に照らし合わせると、IAEAが言及しているエネルギー、気候変動、保健への貢献に加えて、成長・雇用への貢献も期待される。エネルギー、気候変動分野において、原子力発電自体は発電時に二酸化炭素を排出しないことから、火力発電等に比べて地球温暖化防止の観点で優れている(図 2)ことは広く知られている。保健分野においては、同じベースロード電源として用いられる石炭火力と比較して、原子力発電は大気汚染への懸念が少なく、安全に使い続けることができれば環境への影響も小さい。さらに、成長・雇用分野においては、原子力発電は産業としての裾野も広く、多くの雇用を生み出すことも期待できる。その一方で、生産・消費分野の「つくる責任、つかう責任」の目標に対しては、放射性廃棄物の最終処分という課題は避けて通れない。原子力業界では、廃棄物の処理・処分については「発生者責任」の原則に則り、国際的な協調の下で「つかう責任」を全うすべく検討を進めている。
   このようにSDGsの目標と原子力が果たす役割を考えると、非常に広範な範囲にて貢献が期待できる一方、ひとたび福島第一原子力発電所事故のような大事故が発生すれば、多くの人々の健康や福祉、住居環境を奪ってしまうリスクをはらんでいる。原子力発電利用における安全性向上に向けた不断の努力はなされなければならない。わが国では、安全性向上に向けた努力を引き続き進めているが、新規制基準対応や、2020年4月から本格運用が開始される新検査制度のもと、自主的安全性向上の取り組みが今後は一層加速することが期待される。福島第一原子力発電所事故を教訓とし、安全性の確保を第一としながら、放射線技術等を含めた原子力科学技術のSDGs目標達成への貢献が期待される。



図 2 各種電源別のライフサイクルCO2排出量
(出典)日本原子力文化財団、原子力・エネルギー図面


【参考文献】
・外務省、JAPAN SDGs Action Platform、2020年3月アクセス、
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
・International Atomic Energy Agency、Sustainable Development Goals (SDGs)、2020年3月アクセス、
https://www.iaea.org/about/overview/sustainable-development-goals
・International Atomic Energy Agency、Nuclear technology for the Sustainable Development Goals、IAEA Bulletin、September 2016
・Steffen Schlömer et al、Technology-specific Cost and Performance Parameters、Annex III of Climate Change 2014: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change、2014

 以上

【作成:株式会社三菱総合研究所

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