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【国際】 「確立された技術」を有効活用、原子力発電の長期運転~2050年カーボンニュートラルへ向けて~

2021年2月5日

   2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロ、すなわち「カーボンニュートラル」の実現をめざす取組が、世界各地で具体化しつつある。日本でも、2020年10月に菅内閣総理大臣が所信表明演説で2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。これを受けて、12月には政府が「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(以下、グリーン成長戦略)」を公表して重要分野におけるロードマップを提示したところである。
    グリーン成長戦略では、電力部門の低炭素化を大前提とし、再生可能エネルギーを最大限導入する方針を示すとともに、原子力については、確立した脱炭素技術であるとして、可能な限り依存度を低減しつつも、安全性向上を図り、引き続き最大限活用するとしている。
   日本だけでなく、我が国に先立って2050年のカーボンニュートラルを打ち出した英国やフランスでも、経済的な低炭素電源として原子力の活用を戦略に組み込み、原子炉の新規建設も視野に取組を進めて行く方針である。

   原子力が「確立した脱炭素技術」であるとはどういうことか。下掲のグラフは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書の第3作業部会報告書(2014年)をもとに、各電源がライフサイクルを通じて排出する温室効果ガス(GHG)の量を、発電電力量あたりで示したもの(平均値)である(図1)。


図 1 電源別の平均的なライフサイクルGHG排出量
出所:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書の第3作業部会報告書(2014年)より、三菱総合研究所作成

   原子力が発電時に二酸化炭素を排出しないことは知られているが、建設から発電、プラント廃止までのライフサイクル全体を通じてみても、原子力は風力と遜色なく、太陽光等と比べるとむしろ電力量あたりの排出量が少ない低炭素電源であることがわかる。加えて原子力には、エネルギー源が天候・気候の変動に左右されず、まとまった量の電力を安定して提供できるという利点がある。
   こうしたクリーンエネルギーとしての原子力については、国際エネルギー機関(IEA)や経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)などの国際機関も近年、複数の報告書を公表している。これらの文書では、原子力を供給力・価格が安定した低炭素電源として評価するとともに、コストパフォーマンスの観点から、「既存炉の長期運転」が原子力利用における当面の鍵として挙げられている。ではその長期運転だが、世界では実際にどれほど行われているものなのか。

   国の方針や炉型により年数等に違いはあるものの、長期運転という場合、原子炉の運転開始から40年を超えた運転継続を指すことが多い。世界では2021年1月現在、合計443基の原子炉が運転中だが、このうち104基が、「長期運転炉」である(表1)。

表1 世界の運転中原子炉の年数分布(2021年1月現在)

出所:IAEA PRISより、三菱総合研究所作成

   世界各国では、安全性を維持向上、監視する取組を続けながら原子炉の長期運転を実施している。世界最大の原子力大国である米国では、初回の運転認可の期限が40年とされており、以後20年毎に認可を更新する。更新回数に上限はない。すでに1回目の認可更新(60年運転認可)を経て48基が長期運転入りしており、さらにこれから40年に達する42基についても認可更新済みである。なお、長期運転入りしている48基のうち4基は、すでに2回目の認可更新(80年運転認可)も取得済みである。
   世界第2位の原子力大国のフランスでは、現時点で長期運転を実施しているのは9基だが、原子力発電所の建設時期が集中していることから、同国では今後数年で多くの炉が40年に到達する。フランス国内の全原子力発電所を運転するフランス電力(EDF)は、これらの炉の大部分を長期運転していくことを想定して、これまで数年にわたって、「グラン・カレナージュ」と銘打った大改修・投資プログラムを継続中である。なお、フランス政府は「減原子力政策」を打ち出しているが、再生可能エネルギー等の拡大を通じて、電力全体に占める原子力比率を2035年までに現在の約7割から5割まで下げるとしつつ、原子力の設備容量そのものは維持する方針である。すでに閉鎖した2基を含めて14基の原子炉を閉鎖していく一方で、「それ以外の原子炉」は運転継続、つまり長期運転を想定しており、新規建設も視野に入れている。
   さらにはスイスのように、2011年の福島第一原子力発電所事故後に原子炉の新規建設を禁止し、いわゆる脱原子力政策をとっていても、既存炉については閉鎖の年限を定めず、長期運転を実施している国もある。特に2021年7月で運転開始から52年を迎えるベツナウ1号機は、現役として世界で最も運転期間が長い炉となっている。
   原子炉の恒久停止年限を法的に定めている国は日本(60年)の他、ドイツ(地域の電力事情を踏まえつつ、各原子炉の閉鎖年を指定)等、ごく一部である。
   長期運転について「何年まで」と上限を区切っている例は少なく、その背景には、運転開始からの経過年数は持続的な安全確保のための重要なマイルストンとして、保全活動、規制活動で当然に考慮され相応の評価や対策が実施されるものの、年数それ自体を恒久停止の基準とはせず、安全である限り、既存の炉を運用していくという考え方がある。
   このように長期運転は世界で多くの実績があり、原子力発電所の運用として確立されている。つまり世界を見渡してみると、長期運転はなんら特別なことではない。

   一方、日本では2021年1月現在、活用可能な原子炉が33基(建設中のものを除く)あるものの、福島第一原子力発電所事故後、全炉が停止し、そこから再稼働したのは9基に過ぎない。長期運転に関していえば、原子力発電所の認可は40年、1回限り20年の延長が可能とされている。すなわち運転期間は一律、最大60年となる。また、2021年1月時点でこの延長認可を取得しているのは、高浜発電所1、2号機、美浜発電所3号機及び東海第二発電所の4基のみである。
   我が国の2019年の温室効果ガス排出量は約12.1億トンであった(速報値:環境省)。これを国民の生活・経済を守りながら、2050年までのあと30年弱でカーボンニュートラルまで持って行くためには、冒頭で挙げたグリーン成長戦略でも強調されているとおり、利用可能なあらゆる手段を活用し尽くす対処が必須である。原子力はそうした、あらゆる手段の中の重要な方策のひとつである。
   原子力においては、低炭素で低廉な電力を安定供給し、将来に向けた社会の底力を維持するために、まず安全が確認された既存炉を再稼働することが前提となるが、さらにその先の40年超運転、すなわち長期運転も含めて「確立された利用可能な技術」として最大限に活用していくことが重要である。

● 参考文献
菅内閣総理大臣所信表明演説、2020年10月26日
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html
2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略、 2020年12月25日
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-2.pdf
IPCC Working Group III – Mitigation of Climate Change, Annex III: Technology - specific cost and performance parameters、2014年
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/02/ipcc_wg3_ar5_annex-iii.pdf
国際原子力機関(IAEA) 原子炉情報システム(PRIS) Operational Reactors by Age、2021年1月25日閲覧
https://pris.iaea.org/PRIS/WorldStatistics/OperationalByAge.aspx
米国原子力委員会(NRC)、Status of Initial License Renewal Applications and Industry Initiatives、2021年1月25日閲覧
https://www.nrc.gov/reactors/operating/licensing/renewal/applications.html
米国原子力委員会(NRC)、Status of Subsequent License Renewal Applications、2021年1月25日閲覧
https://www.nrc.gov/reactors/operating/licensing/renewal/subsequent-license-renewal.html
環境省 2019年度(令和元年度)温室効果ガス排出量(速報値)、2020年12月
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/material/sokuhou_all_2019.pdf

以上

 【作成:株式会社三菱総合研究所

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