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【アメリカ】 「米国バイデン政権の原子力政策」

2021年2月22日

   かつてない激戦の米国大統領選は民主党バイデン氏の勝利で決着し、2021年1月20日には第46代大統領が誕生した。連邦議会についても1月のジョージア州で行われた決選投票の結果から、民主党が主導権を握る議会運営が確実である。
   民主党と共和党とで打ち出すスタンスが異なる環境政策については、今後の政策転換は必至だ。それでは、原子力政策はどうだろう。選挙公約等に基づき、バイデン政権による今後の原子力政策を占いたい。

   バイデン氏は気候変動問題を重視し、選挙期間中を通じてその対策の重要性を強く訴求してきた。2035年までに電力部門の脱炭素化、2050年までに米国内での温室効果ガス排出量ゼロを達成することが目標である。さらに、コロナ禍で傷付いた米国経済に対し、再生可能エネルギー(再エネ)拡大を中心に据えたグリーンリカバリープランの実行により、雇用創出を促し、産業基盤の回復を目論む。大統領就任初日にパリ協定に復帰するための文書に署名したことからも、国際枠組みの中で環境分野に注力していく方向性は明らかだ。米国は、エネルギー環境分野での世界的リーダーシップの復権を目指している。

   一方、原子力に関する公約内容は以下であり、これ以外に目立った言及は特にない。
・   既設原子炉の長期利用
・   イノベーション(蓄電池、ネガティブ・エミッション技術、グリーン水素、先進炉等のクリーンエネルギー技術の大幅コスト削減と迅速な商用化による国産技術の確立)
   近年、超党派のイシューである原子力利用に対しては、トランプ前政権からの大きな路線変更は考えにくい。既存炉の長期運転を行いつつ、小型モジュール炉(SMR)を始めとする先進炉の開発支援も継続する見込みである。ただし、前政権は国家安全保障重視の観点から、新政権は環境重視、イノベーション推進の観点から原子力を後押ししており、アプローチが異なることには注意したい。新政権では、先進炉をクリーンエネルギーのコスト削減の手段として位置付けている。
   なお、党全体としては原子力を従来に比べ受容してきているものの、その利用を慎重に考える議員が一定割合を占める民主党が、2020年の政策綱領(2020 Democratic Party Platform)で明示的に原子力利用に賛同する方針を表明したことは注目に値する。

   原子力について、バイデン大統領自身が発する直接的な発言はまだ確認できない一方、原子力分野に関わる主要な役職人事が進んでいる。例えば、米エネルギー省(DOE)長官へのジェニファー・グランホルム氏の指名や、原子力規制委員長へのクリストファー・ハンソン氏の就任、さらには、DOE原子力(NE)局次官補の交代である。今後はこれら高官の発言に注目したい。
   最近のトピックとしては、DOE のNE局が、「クリーンエネルギーと経済的機会の提供」をビジョンに掲げる「戦略ビジョン(Strategic Vision)」を“政権交代前”の1月8日に公表したことが挙げられる。同ビジョンは、米国のエネルギーや環境、経済のニーズを満たすために原子力技術を推進するというNE局の使命を達成するための青写真として位置づけられている。原子力については、既存炉は足元の脱炭素化に貢献していること、エネルギー集約型製造業には先進炉導入を通じて脱炭素化を促進することができると評価する。さらに、技術開発を通じて新興市場への影響を強めることで、雇用創出や、より強い経済の実現をリードできるものと有望視する。なお、この戦略ビジョンは、政権交代前に公開したものであり、新政権下のDOEを拘束するものではない。それゆえ、新政権下での同ビジョンの取り扱いを注視することで、今後の政策スタンスが把握できるだろう。
   一方で、前政権が熱心だった多目的試験炉(VTR)プロジェクトに対して、議会で多数派を握る民主党はコスト超過の可能性を懸念して消極的である。ウラン備蓄に対しても、その必要性に対する議会への説明が不十分として前向きな姿勢を示していない。使用済燃料の最終処分場計画であるユッカマウンテンプロジェクトについてもDOE長官候補のグランホルム氏は反対を表明している。
   バイデン政権の原子力に対する姿勢を見極める上では、新たなDOE長官の下で進められる2022年予算要求にも注目すべきだ。政権の予算要求は、通常毎年2月に議会に提出される。

   米中関係にも目配りしたい。世界に対する中国の影響力が相対的に強まってきているのは間違いなく、米国自身も自国の世界に対する影響力が弱まってきていると自覚する。新政権は国際協調の中で、重視する気候変動対策などでは、中国と協力する可能性がある。一方で、自国のリーダーシップの維持、復権も目指しており、新興国等を中心とした世界の商用炉新設市場での中国の進出に対抗すべく、新興国での新設を後押しすることは考えられる。それら複合的な文脈の中で、新政権の今後の原子力政策を見定める必要があろう。

表1 米国の新旧政権の原子力政策

出所:三菱総合研究所作成


   米国の一挙手一投足は世界が注目する。また、米国の原子力に対するスタンスはわが国含め、世界に一定の影響を与える。環境や気候変動対策に熱心な新政権が今後、再エネ拡大と原子力とのミックス戦略をどのようなロジックで推進していくかは興味深い。
   日本は米国とともに原子力利用の国際的な枠組みを主導し、新型炉開発でも協力関係を構築、世界をリードしてきた。一方で、バイデン新政権の方針はまだ明らかではないが、日本の核燃料サイクル政策に深く関わるプルトニウム利用方針など、日米原子力協力協定により米国の影響を強く受ける政策分野もある。新政権の原子力に対するスタンスが、原子力を温室効果ガス削減の「あらゆる選択肢」の中に位置付ける日本のエネルギー政策に及ぼす影響は小さくない。

●   参考文献
・JOEBIDEN.com, THE BIDEN PLAN TO BUILD A MODERN, SUSTAINABLE INFRASTRUCTURE AND AN EQUITABLE CLEAN ENERGY FUTURE、2021年2月2日閲覧、https://joebiden.com/clean-energy/
・Democratic National Convention、2020 Democratic Party Platform、2021年2月2日閲覧、https://www.demconvention.com/wp-content/uploads/2020/08/2020-07-31-Democratic-Party-Platform-For-Distribution.pdf
・Office of Nuclear Energy Strategic Vision、DOE原子力局、2021年2月2日閲覧
https://www.energy.gov/sites/prod/files/2021/01/f82/DOE-NE%20Strategic%20Vision%20-Web%20-%2001.08.2021.pdf
・Consolidated Appropriations Act, 2021、米国連邦議会、2021年2月2日閲覧
https://www.congress.gov/116/bills/hr133/BILLS-116hr133enr.pdf
・U.S. Senate Committee on Energy and Natural Resources、The Nomination of the Honorable Jennifer M. Granholm to be Secretary of Energy Responses to Questions for the Record submitted to the Honorable Jennifer M. Granholm、2021年2月3日閲覧
https://www.energy.senate.gov/services/files/126F0A25-8274-4980-AD74-8011CAA0E5EB

 以上

【作成:株式会社三菱総合研究所

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