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【米国】 米国南部における電力危機

2021年3月9日

   今冬は、米国南部を厳しい寒波が襲って大規模な停電が発生し、テキサス州では電力契約者約1,200万件の1/3に当たる400万以上の契約者が影響を受けた。停電の影響で密閉空間での火気使用による一酸化炭素中毒で死者が出るといった事故も起きている。この電力危機により、新型コロナウイルスのワクチン接種にも遅れが生じている。1月20日に就任したばかりのバイデン大統領はテキサス州、ルイジアナ州およびオクラホマ州を対象として緊急事態を宣言し、連邦政府として支援を実施する事態に至っている。
   この事態は、昨年12月下旬以降、全国的な電力需給のひっ迫を経験した我が国にとっても他人事ではない。以下、被害の大きかったテキサス州を中心として、危機の概要や原因を考察し、我が国への示唆を得る。

   亜熱帯に属するテキサス州にあって、名古屋市とほぼ同じ北緯35度に位置するアマリロでは、2月16日に最低気温が摂氏氷点下18度を記録した。また、緯度では九州本島最南端より南に位置する同州の最大都市、ヒューストンにおいて、例年2月の平均気温は摂氏10度を超えるが、今年は2月1日から20日までの時点で最低気温が氷点下となる日が7日あるなど、厳しい寒さとなっている。こうした寒さにより暖房のための電力需要が急増する一方、供給側では、寒さと風雪のために、いずれの電源も厳しい状況に陥っている。
   具体的には、同州の50%以上の電力を賄う天然ガス火力発電は寒波によるガス生産の停滞やパイプラインの凍結で、また拡大が著しい風力発電はブレードの凍結で、それぞれ発電量が大きく減少した。その他、石炭火力発電所の一部も運転を停止した。なお、原子力発電所も州内で運転している4基のうち1基(サウステキサスプロジェクト1号機)が寒波に起因する蒸気発生器の水位低下のため2月15日に運転を停止したが、17日には運転を再開している。影響はテキサス州内に留まらない。同州は米国でも最大の原油と天然ガスの採掘地帯で米国のエネルギー供給全体にとっても重要なエリアであるが、寒波による石油精製施設の操業停止やガス井の凍結で生産量が低下し、全米に影響が及んでいる。

   亜熱帯を襲った異例の寒波は想定外と思われるかもしれないが、テキサス州は2011年にも寒波に起因する輪番停電に見舞われており、その根本には、以下に挙げるような構造的な問題があると考えられる。

①   電力市場の構造
   米国では1996年の連邦エネルギー規制委員会(FERC)規則等により卸電力市場が自由化され、テキサス州を含む一部の州では小売市場も自由化されている。テキサス州の大部分をカバーする系統運用機関であるテキサス電力信頼度協議会(ERCOT)は、いわゆるエネルギー市場のみで卸市場を運営しており、長期的な供給能力の確保を目的として我が国でも運用が始まっている容量市場が存在しない。リアルタイム市場において供給予備力のひっ迫時に価格を高騰させることで長期的な設備投資を促す仕組みだが、それも十分ではなく、2011年の寒波による輪番停電の発生が回避できなかった。こうした事態に、長期的な容量確保のための制度整備が必要との指摘が示されたが抜本的な解決策が打ち出されないまま、また厳しい寒波などの異常気象に備える設備投資が進まないまま、今回の事態に至った。

②   ポートフォリオの偏り
   ①の結果とも言えるが、ERCOT管内の電気事業者は大規模な発電設備投資に踏み切るにはリスクがあり、それが発電施設の新設の停滞や、建設コストが低廉な天然ガス火力と風力以外に新増設が進まない結果を生んでいる。
   図1はテキサス州における1996年以降の電源別発電量の推移を示しているが、シェール革命と軌を一にして天然ガス火力の発電量が増加しており、2019年には半分以上の電力を賄っている。また、2000年代中ごろまでほぼゼロであった風力発電も、現在は20%近くの電力を賄うに至っている [※1]。その一方で石炭火力は天然ガス火力の伸長と反比例する形で減少し、原子力は新増設や閉鎖がなくこの20年以上発電量に大きな変動はない。サウステキサスプロジェクト原子力発電所3、4号機増設の計画はあったが、自由化市場における採算の問題などから2011年に事業者が断念している。その結果、天然ガス火力と風力が発電電力量の7割を担う状況となっている。



図1 テキサス州における1996年以降の電源別発電量の推移(上)、
および2019年の割合(下)
出所:エネルギー省エネルギー情報局 ”Net Generation by State by Type of Producer by Energy Source”より、三菱総合研究所作成。

③   孤立したグリッド
   米国のグリッドは、ロッキー山脈の東西と、テキサスで3分されており、ERCOTが管理するグリッドは、他州のグリッドからほぼ隔絶されている。このため、今回のような危機を他州からの電力融通で乗り切ることができない。このような体制となっている最大の原因は、連邦レベルで電気事業を規制するFERCの規制対象となるのが州際取引であり、他州のグリッドから隔絶されていることでERCOTは送配電に係るFERCの規制を免れることが可能となるからである。また、州の豊富な天然資源によってもたらされる低廉なエネルギーを他州に流出させたくないとの考えもあるだろう。しかし、今回の深刻な事態を受けグリッドの独立を解消すべきではないかとの指摘も出てきている。

   まとめ~我が国との比較および今回のケースが与える示唆
   以上、テキサス州の電力危機の背景にあると考えられる構造的な問題について検討した。我が国では、容量市場が昨年開設され、広域的な系統の連系に向けた取組も実施されているが、ポートフォリオの偏りという点については示唆が得られるように思われる。テキサス州ではどの発電設備も多かれ少なかれ今回の寒波のダメージを受けたが、天然ガスや風力と比べると原子力は相対的にレジリエンスが高かったとは言える [※2] 。これらに石炭を加えた4種の主要な電源がよりバランスよくポートフォリオを構成していれば、ここまで事態が深刻化しなかった可能性は十分考えられる。上述した電力市場構造、孤立するグリッドの中で、原子力と石炭というベースロード電源の役割の相対的な縮小に対して適切な措置を講じてこなかったことも、危機の深刻化の一因と言えよう。
   また今回の事態は、電力の安定供給と温室効果ガス排出削減の両立をいかに実現していくかという課題も浮き彫りにした。安定供給やレジリエンスの確保という課題についてはトランプ前政権が熱心であった。バイデン政権では温室効果ガス排出削減の方が優先されそうだが、今回の一件で供給の安定にも配慮せざるを得なくなるだろう。我が国でも今後は2050年カーボンニュートラル実現に向け取組が進められるが、そのために電力の安定供給が損なわれることがあってはなるまい。こうした教訓を踏まえると、再生可能エネルギーの拡充にも力を入れつつ、化石燃料を含めバランスの取れたポートフォリオを構築し、また安全最優先という前提の下、温室効果ガス排出削減と安定供給の両方に貢献しうる原子力発電も活用していくことが必要であろう。


[※1]なおテキサス州は、再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準(RPS)の導入により風力発電の導入を推進した。既に風力発電の導入に関する州の目標は達成されている。
[※2]ERCOTのCEOによる2月24日のプレゼンテーションによると、2月15日から16日にかけての供給停止のピークにおいて、天然ガスの設備容量の52%、風力の57%、石炭の44%、原子力の13%が利用できなかったとのことである。なお、2月25日時点の現地の報道によると、停電は概ね解消されているが、水道管の破裂による給水の障害は引き続き深刻とのことである。



【参考文献】
●米国国立気象局、WFO Monthly/Daily Climate Data、
https://w2.weather.gov/climate/index.php?wfo=hgx
●Time and Date ASウェブサイト
https://www.timeanddate.com/weather/usa/amarillo/historic
●NEI、NUCLEAR ENERGY FACT SHEET 2020 TEXAS、
https://www.nei.org/resources/fact-sheets/texas
●NRC、Event Notification Reports、
https://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/event-status/event/index.html
●The Brattle Group、ERCOT Investment Incentives and Resource Adequacy、2012年6月1日、
https://brattlefiles.blob.core.windows.net/files/6245_ercot_investment_incentives_and_resource_adequacy_newell_spees_pfeifenberger_mudge_ercot_june_2_2012.pdf
●S&P Global Platts、ERCOT lost almost half of generation capacity in storm, causing 20-GW load shed、2021年2月24日、
https://www.spglobal.com/platts/en/market-insights/latest-news/electric-power/022421-ercot-lost-almost-half-of-generation-capacity-in-storm-causing-20-gw-load-shed

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