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【国際】 OECD/NEAのLCOE報告書2020年版の概要について
2021年3月12日
国際エネルギー機関(IEA)と経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)は2020年12月、前回2015年版から5年ぶりとなる発電コスト予測を公表した。1981年以降、IEAとOECD/NEAは共同で、発電コスト予測の報告書を公表しており、今回の2020年版で9回目となる。同予測では、24カ国の243か所のプラントのデータに基づき、3種類の割引率を設定して2025年までに運開する発電所の標準耐用年間均等化発電コスト(LCOE)を算定している。今回の報告書における新たな取組としてIEAとOECD/NEAは、蓄電や燃料電池のコスト、また原子力に関して新設だけでなく長期運転(LTO)のLCOEも試算している。
各電源のLCOE試算
今回の報告書において、割引率7%の設定で試算された各技術のLCOEは以下の図1のとおりである。各技術のLCOEは、後述するとおり、地域差が大きく、LCOEとして示されている線は最大値と最小値の幅を示している。また、この幅の中で、青と緑のボックスで示された部分は、中央値を含む全体の50%を占めるLCOEの範囲を示している[※1]。
図 1 各電源のLCOE(割引率7%の場合)
(出所)IEA、OECD/NEA、「Projected Costs of Generating Electricity 2020」
試算結果から、2025年時点での再エネ電源のうち、陸上風力のLCOEが最低となる見通しとなっている。また、地域によって差はあるものの、メガソーラーは良好な気象条件下であれば、コスト競争力を持つとの結果となっている。さらに洋上風力も他電源と比較するとLCOEは高いものの、前回2015年時点の試算からはLCOEは大きく低下している。
一方で原子力に関しても、原子炉を新設する場合のLCOEは、2015年の前回報告書から低下している。IEAとOECD/NEAはその理由として、世界で初めて建設される原子炉の建設経験が得られたことで、オーバーナイトコストが低下したことを挙げている。これは欧州加圧水型原子炉(EPR)の建設がフィンランドやフランスでの建設工程での知見を踏まえ、中国では2基が大きな遅延なく運開していること、米国製AP1000や韓国製APR1400が運開していることなど、第3世代炉建設の実績が積まれていることが影響していると言える。新設炉のLCOEは、陸上風力やメガソーラーと概ね同程度であるが、既存炉の50~60年間のLTOを行った場合、そのコストはあらゆる電源の中で最低となり、IEAとOECD/NEAは2025年時点における調整可能な低炭素電源としては、原子力がもっともコスト競争力があると結論付けている。
LCOEにおいて考慮されていないコスト
LCOEをめぐる再エネと他電源との比較の議論において注意すべきことは、LCOEは発電所における建設、運転、廃止措置にかかるコストしか含んでいない点である。つまり、LCOEには、発電した電力を需要家に供給するためのネットワークコストや、気象条件による再エネ発電電力量の変動の調整コストは含まれていない。
ネットワークコストに関しては、今後再エネが拡大していく中で、在来型電源に比べて分散的に存在する施設から需要地まで電力を供給するための新たなネットワーク整備も必要であるが、そのコストはこれまでの報告書でも、今回の報告書においても示されていない。また調整コストに関しては、蓄電コストも示されているが、コストを提示した国は一部(オーストラリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、イタリア)であり、再エネと蓄電コストを含めたシステム大での他電源との比較まではなされていない。蓄電コストの試算に加えて、IEAとOECD/NEAは、卸電力市場での販売価格、設備容量、フレキシビリティの観点を盛り込んだ価値調整LCOE(VALCOE)を算出している(図2)。この結果、2025年時点では、例えば開放サイクルガスタービン(OCGT)発電は急な需要増に対応する容量を確保し、高い卸電力価格で販売できるので収益性が高くなること、一方で太陽光は、蓄電池とともに活用しなければ、需要を上回って発電された電力量が活用されないことで収益性が低くなる等の結果が提示している。
図 2 VALCOE算出のイメージ
(出所)IEA、OECD/NEA、「Projected Costs of Generating Electricity 2020」
在来型電源と比肩するレベルまで再エネのLCOEが低下していることは確かであるが、再エネを導入するにあたって考慮する必要があるネットワークコスト、調整コストも含めると需要家の負担が在来型電源よりも大きくなる可能性があり、総合的な検討・判断が必要である。
例えばフランスでは2021年1月以降、送電系統運用株式会社(RTE)が政府による2050年の電源ミックスの判断のために、様々な電源ミックスシナリオに関する分析を行っており、原子炉の新設ゼロで電源ミックスの85~100%を再エネで賄うシナリオも検討している。ただしRTEは、再エネをこの規模まで拡大して活用するためには、電力システムの安定性維持、電力安定供給の確保、調整力を活用した電力需給バランス確保、送配電ネットワーク投資が必要であるとしており、発電コストしか含まれていないLCOEではなく、ネットワーク、負荷調整等まで含めた電力システム全体のコストを各シナリオについて試算する方針である。
国・地域による各技術のLCOEの差異
なお、図1に示したLCOEは、24か国の243プラントから提供されたデータに基づく集計値であるが、以下の図3に示すとおり、国・地域別に見たLCOEは大きく異なることにも注意が必要である。
図 3 地域別に見た各電源のLCOEの中央値(割引率7%の場合)
(出所)IEA、OECD/NEA、「Projected Costs of Generating Electricity 2020」
この図に示されるような、諸外国と比較した際の我が国における再エネ発電コストの高さは政府においても指摘されているところである。例えば太陽光に関しては、国際的に流通している製品の国内外での価格差の存在、発電施設の設置工事の最適化不足、日本特有の災害対策等にかかるコスト増の問題がある。また風力に関しては、競争力の高い国内メーカーの不在、地理的制約、風車メーカーやO&M事業者の不在やメンテナンス効率化の未徹底等の問題が指摘されている。これらの問題を解決し、再エネのLCOEを低減してくことで、我が国でも再エネ発電をさらに普及させていくことは当然に重要である。しかし、上述のとおり、再エネ拡大は、ネットワークコストや調整コストも含めた総合的なコスト評価が必要であろう。
LCOEも含めた総合的なコスト評価に基づく最適な電源ミックスの選択を
我が国も2050年のカーボンニュートラル達成を掲げ、今後あらゆる部門の脱炭素化を実現していく必要がある。発電部門の脱炭素化の重要性はもちろんだが、産業部門や運輸部門の脱炭素化のためにも電化は重要な手段の1つである。ただし、各部門の脱炭素化は、国民が過大な経済的負担を強いられ、いかなるコストを払ってでも実現するものであってはならない。再エネ拡大にも当然に注力する必要はあるが、LCOE以外のコスト負担も考慮すれば、再エネの拡大を最優先とするのではなく、再エネ拡大と並行して、コスト競争力のある調整可能な脱炭素電源である原子力を維持・活用していくことは、合理的な判断ではないだろうか。特に、追加的な調整コストやネットワークコストが不要であり、あらゆる電源の中でもっともLCOEが安くなる既存炉の長期運転のオプションは捨てるべきではない。
追加的なコストだけではなく、様々な電源の発電事業に付随する付加価値の創出に関する議論もあろう。近年では、洋上風力開発地域における産業集積や雇用創出等の可能性も話題になっているが、同様の経済的インパクトは他の電源に関しても考慮したうえで、比較検討するべきである。例えばフランスでは、原子力産業における直接・間接雇用は40万人にのぼるとの試算もある。
いずれにしても、LCOEのみに準拠して、再エネ発電のコスト競争力が上がったと判断して開発を進めるのではなく、様々な電源をエネルギーセキュリティも含めて総合的な観点から評価して、電源ミックスを選択していくことが必要である。
[※1]LCOEの分布を表す箱ひげ図のうち、青と緑のボックスで示された部分は、各国の各プラントのLCOEデータを4等分した際に、中央値を含む50%のデータの散らばり(四分位範囲)を表している。青いボックスの下部が第一分位数、青いボックスと緑のボックスの境界線が第二分位数(中央値)、緑のボックスの上部が第三分位数を表している。
●参考文献
・IEA、OECD/NEA、Projected Costs of Generating Electricity - 2020 Edition、
https://www.oecd-nea.org/jcms/pl_51110/projected-costs-of-generating-electricity-2020-edition?details=true
・第8回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会、資料2「コストダウンの加速化について(目指すべきコスト水準と入札制)」、2018年9月12日
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/008_02_00.pdf
・仏RTE、Bilan previsionnel long terme ≪ Futurs energetiques 2050 ≫、
https://assets.rte-france.com/prod/public/2021-01/Bilan%20Previsionnel%202050-consultation-synthese.pdf
、2021年1月
各電源のLCOE試算
今回の報告書において、割引率7%の設定で試算された各技術のLCOEは以下の図1のとおりである。各技術のLCOEは、後述するとおり、地域差が大きく、LCOEとして示されている線は最大値と最小値の幅を示している。また、この幅の中で、青と緑のボックスで示された部分は、中央値を含む全体の50%を占めるLCOEの範囲を示している[※1]。
図 1 各電源のLCOE(割引率7%の場合)
(出所)IEA、OECD/NEA、「Projected Costs of Generating Electricity 2020」
試算結果から、2025年時点での再エネ電源のうち、陸上風力のLCOEが最低となる見通しとなっている。また、地域によって差はあるものの、メガソーラーは良好な気象条件下であれば、コスト競争力を持つとの結果となっている。さらに洋上風力も他電源と比較するとLCOEは高いものの、前回2015年時点の試算からはLCOEは大きく低下している。
一方で原子力に関しても、原子炉を新設する場合のLCOEは、2015年の前回報告書から低下している。IEAとOECD/NEAはその理由として、世界で初めて建設される原子炉の建設経験が得られたことで、オーバーナイトコストが低下したことを挙げている。これは欧州加圧水型原子炉(EPR)の建設がフィンランドやフランスでの建設工程での知見を踏まえ、中国では2基が大きな遅延なく運開していること、米国製AP1000や韓国製APR1400が運開していることなど、第3世代炉建設の実績が積まれていることが影響していると言える。新設炉のLCOEは、陸上風力やメガソーラーと概ね同程度であるが、既存炉の50~60年間のLTOを行った場合、そのコストはあらゆる電源の中で最低となり、IEAとOECD/NEAは2025年時点における調整可能な低炭素電源としては、原子力がもっともコスト競争力があると結論付けている。
LCOEにおいて考慮されていないコスト
LCOEをめぐる再エネと他電源との比較の議論において注意すべきことは、LCOEは発電所における建設、運転、廃止措置にかかるコストしか含んでいない点である。つまり、LCOEには、発電した電力を需要家に供給するためのネットワークコストや、気象条件による再エネ発電電力量の変動の調整コストは含まれていない。
ネットワークコストに関しては、今後再エネが拡大していく中で、在来型電源に比べて分散的に存在する施設から需要地まで電力を供給するための新たなネットワーク整備も必要であるが、そのコストはこれまでの報告書でも、今回の報告書においても示されていない。また調整コストに関しては、蓄電コストも示されているが、コストを提示した国は一部(オーストラリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、イタリア)であり、再エネと蓄電コストを含めたシステム大での他電源との比較まではなされていない。蓄電コストの試算に加えて、IEAとOECD/NEAは、卸電力市場での販売価格、設備容量、フレキシビリティの観点を盛り込んだ価値調整LCOE(VALCOE)を算出している(図2)。この結果、2025年時点では、例えば開放サイクルガスタービン(OCGT)発電は急な需要増に対応する容量を確保し、高い卸電力価格で販売できるので収益性が高くなること、一方で太陽光は、蓄電池とともに活用しなければ、需要を上回って発電された電力量が活用されないことで収益性が低くなる等の結果が提示している。
図 2 VALCOE算出のイメージ
(出所)IEA、OECD/NEA、「Projected Costs of Generating Electricity 2020」
在来型電源と比肩するレベルまで再エネのLCOEが低下していることは確かであるが、再エネを導入するにあたって考慮する必要があるネットワークコスト、調整コストも含めると需要家の負担が在来型電源よりも大きくなる可能性があり、総合的な検討・判断が必要である。
例えばフランスでは2021年1月以降、送電系統運用株式会社(RTE)が政府による2050年の電源ミックスの判断のために、様々な電源ミックスシナリオに関する分析を行っており、原子炉の新設ゼロで電源ミックスの85~100%を再エネで賄うシナリオも検討している。ただしRTEは、再エネをこの規模まで拡大して活用するためには、電力システムの安定性維持、電力安定供給の確保、調整力を活用した電力需給バランス確保、送配電ネットワーク投資が必要であるとしており、発電コストしか含まれていないLCOEではなく、ネットワーク、負荷調整等まで含めた電力システム全体のコストを各シナリオについて試算する方針である。
国・地域による各技術のLCOEの差異
なお、図1に示したLCOEは、24か国の243プラントから提供されたデータに基づく集計値であるが、以下の図3に示すとおり、国・地域別に見たLCOEは大きく異なることにも注意が必要である。
図 3 地域別に見た各電源のLCOEの中央値(割引率7%の場合)
(出所)IEA、OECD/NEA、「Projected Costs of Generating Electricity 2020」
この図に示されるような、諸外国と比較した際の我が国における再エネ発電コストの高さは政府においても指摘されているところである。例えば太陽光に関しては、国際的に流通している製品の国内外での価格差の存在、発電施設の設置工事の最適化不足、日本特有の災害対策等にかかるコスト増の問題がある。また風力に関しては、競争力の高い国内メーカーの不在、地理的制約、風車メーカーやO&M事業者の不在やメンテナンス効率化の未徹底等の問題が指摘されている。これらの問題を解決し、再エネのLCOEを低減してくことで、我が国でも再エネ発電をさらに普及させていくことは当然に重要である。しかし、上述のとおり、再エネ拡大は、ネットワークコストや調整コストも含めた総合的なコスト評価が必要であろう。
LCOEも含めた総合的なコスト評価に基づく最適な電源ミックスの選択を
我が国も2050年のカーボンニュートラル達成を掲げ、今後あらゆる部門の脱炭素化を実現していく必要がある。発電部門の脱炭素化の重要性はもちろんだが、産業部門や運輸部門の脱炭素化のためにも電化は重要な手段の1つである。ただし、各部門の脱炭素化は、国民が過大な経済的負担を強いられ、いかなるコストを払ってでも実現するものであってはならない。再エネ拡大にも当然に注力する必要はあるが、LCOE以外のコスト負担も考慮すれば、再エネの拡大を最優先とするのではなく、再エネ拡大と並行して、コスト競争力のある調整可能な脱炭素電源である原子力を維持・活用していくことは、合理的な判断ではないだろうか。特に、追加的な調整コストやネットワークコストが不要であり、あらゆる電源の中でもっともLCOEが安くなる既存炉の長期運転のオプションは捨てるべきではない。
追加的なコストだけではなく、様々な電源の発電事業に付随する付加価値の創出に関する議論もあろう。近年では、洋上風力開発地域における産業集積や雇用創出等の可能性も話題になっているが、同様の経済的インパクトは他の電源に関しても考慮したうえで、比較検討するべきである。例えばフランスでは、原子力産業における直接・間接雇用は40万人にのぼるとの試算もある。
いずれにしても、LCOEのみに準拠して、再エネ発電のコスト競争力が上がったと判断して開発を進めるのではなく、様々な電源をエネルギーセキュリティも含めて総合的な観点から評価して、電源ミックスを選択していくことが必要である。
[※1]LCOEの分布を表す箱ひげ図のうち、青と緑のボックスで示された部分は、各国の各プラントのLCOEデータを4等分した際に、中央値を含む50%のデータの散らばり(四分位範囲)を表している。青いボックスの下部が第一分位数、青いボックスと緑のボックスの境界線が第二分位数(中央値)、緑のボックスの上部が第三分位数を表している。
●参考文献
・IEA、OECD/NEA、Projected Costs of Generating Electricity - 2020 Edition、
https://www.oecd-nea.org/jcms/pl_51110/projected-costs-of-generating-electricity-2020-edition?details=true
・第8回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会、資料2「コストダウンの加速化について(目指すべきコスト水準と入札制)」、2018年9月12日
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/008_02_00.pdf
・仏RTE、Bilan previsionnel long terme ≪ Futurs energetiques 2050 ≫、
https://assets.rte-france.com/prod/public/2021-01/Bilan%20Previsionnel%202050-consultation-synthese.pdf
、2021年1月
以上
【作成:株式会社三菱総合研究所】
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