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【国際】 バックエンド施設の立地が高める地域の魅力
2021年4月8日
原子力施設は、地域に対して経済面や社会環境の整備の面において、様々なメリットを生み出すが、それは使用済燃料の再処理施設や放射性廃棄物の管理・処分のための施設(以下「バックエンド施設」と呼ぶ)についても同様である。
本稿では海外において、バックエンド施設が立地自治体における「知や技術の集積」に重要な役割を果たしているスウェーデンとカナダの事例を紹介する。
なお、両国では、我が国とは異なり、原子力発電所で発生する使用済燃料を再処理せずに処分する、直接処分と呼ばれる方法を採用している。この方法の場合、使用済燃料は原子力発電所で冷却された後、必要に応じて中間貯蔵施設で貯蔵され、最終的に地層処分場で処分される。
バックエンド施設が国の内外から訪問客を呼び込む~スウェーデンの事例
①スウェーデンにおける処分事業の概要
スウェーデンにおける使用済燃料処分場のサイト選定では、最初に公募や申し入れに応じた8カ所の自治体を対象としてフィージビリティ調査が実施された。その後、調査結果と自治体の意向を踏まえ、ともに原子炉が立地しているオスカーシャム自治体とエストハンマル自治体でサイト調査が実施された。2009年6月に処分事業の実施主体であるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)が、処分場の建設予定地としてエストハンマルを選定した。
オスカーシャムは処分場の建設予定地としては選定されなかったが、使用済燃料の集中中間貯蔵施設(CLAB)の操業が1985年から開始されている。CLABは、スウェーデンの全ての原子力発電所で発生した使用済燃料を受け入れている。今後、CLABに隣接して、使用済燃料をキャニスタと呼ばれる処分容器に封入するための施設も建設される。その他オスカーシャムには、放射性物質を閉じ込める人工バリアの研究などを行うエスポ岩盤研究所や、使用済燃料のキャニスタへの封入について研究する施設などの関連施設も立地している。
集中中間貯蔵施設があるオスカーシャムと処分場が建設されるエストハンマルは、300km以上離れている(図1)。
図1 集中中間貯蔵施設等が立地するオスカーシャムと使用済燃料の処分場が建設されるエストハンマルの位置関係
出所)経済産業省資源エネルギー庁、「北欧の「最終処分」の取り組みから、日本が学ぶべきもの②」、2020年5月27日
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/hokuou_saishushobun_02.html、2021年4月1日閲覧
②施設の立地による知の集積
スウェーデンは高レベル放射性廃棄物の地層処分事業への取組が進んでいる国の一つであり、世界最先端の技術開発が進められていると言える。SKBは、エスポ岩盤研究所が、結晶質岩における放射性廃棄物の処分に関する世界レベルの知見を得るために貢献しており、地層処分場の設計や建設を計画している各国のモデルになると自負している。SKBは、同研究所を国内外を問わず開放し、大学との連携に活用している他、一般を対象とした地下の体験施設としても活用している。
このように、オスカーシャムにはCLABやエスポ岩盤研究所を通じて、放射性廃棄物の処分に向けた世界最先端の知が蓄積しつつあるとともに、同施設が訪問者を呼び込む役割も果たしている。オスカーシャムの人口は2万人に満たないが、2019年の同施設への訪問者数は3,000名を超えた。また、エスポ岩盤研究所を訪問した外国からの訪問者数は290名であった。施設の立地には地域住民の理解も得られており、今後予定されている使用済燃料をキャニスタに封入するための施設の建設に対しては、80%の住民が賛意を示したとの世論調査結果も出ている。SKBは、地域の賛成が得られた自治体を対象に施設のサイト選定を進めており、オスカーシャムではもともと施設の立地に対する賛成が多かった。その状況が現在も維持されていると言える。
コミュニケーションや文化の伝承の場としても活用されるバックエンド施設~カナダの事例
①カナダにおける処分事業の概要
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は2010年に処分場のサイト選定を開始した。22の自治体が関心を表明し、スクリーニング等を経て現在は2自治体にまで絞り、現在は9段階で進められるサイト選定のうち第3段階まで行われている。NWMOは2023年までに好ましいサイト1カ所を選定しようとしている。
②専門技術センターの建設構想
NWMOは処分場サイトに、専門技術センターを建設することとしている。同センターは、技術試験や処分場の建設・操業の支援に加えて、コミュニティとの対話の場としても活用される。カナダは先住民の権利の尊重が重視されており、NWMOは先住民の文化や歴史、伝統、知識を継承するための拠点としても活用することとしている。
同センターはカナダにおける処分技術の開発や研究の拠点となり、文系理系問わず様々な分野の科学者や専門家が集うこととなる。NWMOは同センターが、同国の処分事業や施設立地地域に関する知見を共有する国際的なハブになると考えている。また地域の歴史や特色に関する情報提供や、同センターを拠点に環境や水のモニタリング等を実施することで自然環境の維持・向上を行うことも可能であると考えている。同センターの着工は、好ましいサイト1カ所に選定後、2024年を予定している。
多様なアイデアで施設や地域の魅力向上を
以上、スウェーデンおよびカナダの事例から、バックエンド施設の建設地にはそれを研究開発等の面からサポートする施設も建設され、それによって専門家を含め、国内外から多くの訪問者が集まることが見てとれる。このため、スウェーデン・オスカーシャム自治体は既に処分技術に関する先端的な知見が集積しつつある。またカナダ・NWMOが建設を予定する専門技術センターは、原子力施設としてのみならず、先住民や地域に関する情報の提供や、対話の場としての活用も構想されている。
従来原子力施設を立地するメリットは、雇用や税収といった経済的側面に注目されていたが、両国の事例から、人々の交流の場としての施設の活用についてヒントが得られる。例えば、国内外から集まる専門家が、地域の方々に科学や技術をテーマとした「出前授業」などの取組を行うこととしてはどうか。地域からは、文化や歴史を伝える、あるいは地域の名産を楽しんでもらうといったことも可能であろう。こうした取組を通じて、専門家は地域での滞在を楽しみ、また、地域住民は触れ合いを通じて施設に親しみ、立地に誇りを持つようになるという好循環の形成も可能と思われる。
【参考文献】
●Sweden’s sixth national report under the Joint Convention on the safety of spent fuel management and on the safety of radioactive waste management、2017年
https://www.iaea.org/sites/default/files/sweden-nr-6th-rm-jc.pdf
●SKB、Äspö Hard Rock Laboratory Annual Report 2019、2020年12月
https://www.skb.com/publication/2496433/TR-20-10.pdf
●SKB、2020年5月6日プレスリリース
https://www.skb.se/nyheter/starkt-stod-for-skbs-planerade-slutforvar-i-osthammars-kommun/
●カナダ原子力安全委員会(CNSC)、Canadian National Report for the Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management Sixth Report、2017年10月
https://www.iaea.org/sites/default/files/6rm-canada.pdf
●NWMO、Implementing Adaptive Phased Management 2020 to 2024、2020年3月
https://www.nwmo.ca/~/media/Site/Reports/2020/03/06/19/17/NWMO-Implementation-Plan-202024.ashx?la=en
●NWMO、Centre of Expertise
https://www.nwmo.ca/en/A-safe-approach/Facilities/Centre-of-Expertise、2021年4月1日閲覧
本稿では海外において、バックエンド施設が立地自治体における「知や技術の集積」に重要な役割を果たしているスウェーデンとカナダの事例を紹介する。
なお、両国では、我が国とは異なり、原子力発電所で発生する使用済燃料を再処理せずに処分する、直接処分と呼ばれる方法を採用している。この方法の場合、使用済燃料は原子力発電所で冷却された後、必要に応じて中間貯蔵施設で貯蔵され、最終的に地層処分場で処分される。
バックエンド施設が国の内外から訪問客を呼び込む~スウェーデンの事例
①スウェーデンにおける処分事業の概要
スウェーデンにおける使用済燃料処分場のサイト選定では、最初に公募や申し入れに応じた8カ所の自治体を対象としてフィージビリティ調査が実施された。その後、調査結果と自治体の意向を踏まえ、ともに原子炉が立地しているオスカーシャム自治体とエストハンマル自治体でサイト調査が実施された。2009年6月に処分事業の実施主体であるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)が、処分場の建設予定地としてエストハンマルを選定した。
オスカーシャムは処分場の建設予定地としては選定されなかったが、使用済燃料の集中中間貯蔵施設(CLAB)の操業が1985年から開始されている。CLABは、スウェーデンの全ての原子力発電所で発生した使用済燃料を受け入れている。今後、CLABに隣接して、使用済燃料をキャニスタと呼ばれる処分容器に封入するための施設も建設される。その他オスカーシャムには、放射性物質を閉じ込める人工バリアの研究などを行うエスポ岩盤研究所や、使用済燃料のキャニスタへの封入について研究する施設などの関連施設も立地している。
集中中間貯蔵施設があるオスカーシャムと処分場が建設されるエストハンマルは、300km以上離れている(図1)。
図1 集中中間貯蔵施設等が立地するオスカーシャムと使用済燃料の処分場が建設されるエストハンマルの位置関係
出所)経済産業省資源エネルギー庁、「北欧の「最終処分」の取り組みから、日本が学ぶべきもの②」、2020年5月27日
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/hokuou_saishushobun_02.html、2021年4月1日閲覧
②施設の立地による知の集積
スウェーデンは高レベル放射性廃棄物の地層処分事業への取組が進んでいる国の一つであり、世界最先端の技術開発が進められていると言える。SKBは、エスポ岩盤研究所が、結晶質岩における放射性廃棄物の処分に関する世界レベルの知見を得るために貢献しており、地層処分場の設計や建設を計画している各国のモデルになると自負している。SKBは、同研究所を国内外を問わず開放し、大学との連携に活用している他、一般を対象とした地下の体験施設としても活用している。
このように、オスカーシャムにはCLABやエスポ岩盤研究所を通じて、放射性廃棄物の処分に向けた世界最先端の知が蓄積しつつあるとともに、同施設が訪問者を呼び込む役割も果たしている。オスカーシャムの人口は2万人に満たないが、2019年の同施設への訪問者数は3,000名を超えた。また、エスポ岩盤研究所を訪問した外国からの訪問者数は290名であった。施設の立地には地域住民の理解も得られており、今後予定されている使用済燃料をキャニスタに封入するための施設の建設に対しては、80%の住民が賛意を示したとの世論調査結果も出ている。SKBは、地域の賛成が得られた自治体を対象に施設のサイト選定を進めており、オスカーシャムではもともと施設の立地に対する賛成が多かった。その状況が現在も維持されていると言える。
コミュニケーションや文化の伝承の場としても活用されるバックエンド施設~カナダの事例
①カナダにおける処分事業の概要
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は2010年に処分場のサイト選定を開始した。22の自治体が関心を表明し、スクリーニング等を経て現在は2自治体にまで絞り、現在は9段階で進められるサイト選定のうち第3段階まで行われている。NWMOは2023年までに好ましいサイト1カ所を選定しようとしている。
②専門技術センターの建設構想
NWMOは処分場サイトに、専門技術センターを建設することとしている。同センターは、技術試験や処分場の建設・操業の支援に加えて、コミュニティとの対話の場としても活用される。カナダは先住民の権利の尊重が重視されており、NWMOは先住民の文化や歴史、伝統、知識を継承するための拠点としても活用することとしている。
同センターはカナダにおける処分技術の開発や研究の拠点となり、文系理系問わず様々な分野の科学者や専門家が集うこととなる。NWMOは同センターが、同国の処分事業や施設立地地域に関する知見を共有する国際的なハブになると考えている。また地域の歴史や特色に関する情報提供や、同センターを拠点に環境や水のモニタリング等を実施することで自然環境の維持・向上を行うことも可能であると考えている。同センターの着工は、好ましいサイト1カ所に選定後、2024年を予定している。
多様なアイデアで施設や地域の魅力向上を
以上、スウェーデンおよびカナダの事例から、バックエンド施設の建設地にはそれを研究開発等の面からサポートする施設も建設され、それによって専門家を含め、国内外から多くの訪問者が集まることが見てとれる。このため、スウェーデン・オスカーシャム自治体は既に処分技術に関する先端的な知見が集積しつつある。またカナダ・NWMOが建設を予定する専門技術センターは、原子力施設としてのみならず、先住民や地域に関する情報の提供や、対話の場としての活用も構想されている。
従来原子力施設を立地するメリットは、雇用や税収といった経済的側面に注目されていたが、両国の事例から、人々の交流の場としての施設の活用についてヒントが得られる。例えば、国内外から集まる専門家が、地域の方々に科学や技術をテーマとした「出前授業」などの取組を行うこととしてはどうか。地域からは、文化や歴史を伝える、あるいは地域の名産を楽しんでもらうといったことも可能であろう。こうした取組を通じて、専門家は地域での滞在を楽しみ、また、地域住民は触れ合いを通じて施設に親しみ、立地に誇りを持つようになるという好循環の形成も可能と思われる。
【参考文献】
●Sweden’s sixth national report under the Joint Convention on the safety of spent fuel management and on the safety of radioactive waste management、2017年
https://www.iaea.org/sites/default/files/sweden-nr-6th-rm-jc.pdf
●SKB、Äspö Hard Rock Laboratory Annual Report 2019、2020年12月
https://www.skb.com/publication/2496433/TR-20-10.pdf
●SKB、2020年5月6日プレスリリース
https://www.skb.se/nyheter/starkt-stod-for-skbs-planerade-slutforvar-i-osthammars-kommun/
●カナダ原子力安全委員会(CNSC)、Canadian National Report for the Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management Sixth Report、2017年10月
https://www.iaea.org/sites/default/files/6rm-canada.pdf
●NWMO、Implementing Adaptive Phased Management 2020 to 2024、2020年3月
https://www.nwmo.ca/~/media/Site/Reports/2020/03/06/19/17/NWMO-Implementation-Plan-202024.ashx?la=en
●NWMO、Centre of Expertise
https://www.nwmo.ca/en/A-safe-approach/Facilities/Centre-of-Expertise、2021年4月1日閲覧
【作成:株式会社三菱総合研究所】
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