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【ドイツ】 2022年に脱原子力完了~ドイツエネルギー政策のこれまでとこれから

2021年6月2日

   脱原子力政策をとるドイツでは2021年5月現在、6基の原子力発電所が運転を続けている。しかしこれらも2021年末までに3基、2022年末までには残る3基も原子力法上の閉鎖期限を迎え、脱原子力が完了する予定である。脱原子力完了を翌年に控え、本稿では改めてドイツの脱原子力のこれまでを振り返るとともに、脱原子力の次のステップとして「脱石炭」に踏み出した同国における、電力需給の現状と展望を整理する。

【ドイツにおける脱原子力】

   ドイツでは1998年に、二大政党のひとつである中道左派の「社会民主党(SPD)」と、初の連邦政権入りを果たした環境政党「緑の党」による連立政権が発足し、脱原子力政策が開始された。以来、「脱原子力」と「再生可能エネルギー(再エネ)拡大」がドイツにおけるエネルギー政策の基本方針となった。

   政府と電気事業者の交渉を経て2002年の原子力法改正で脱原子力が法制化され、原子炉の新規建設禁止に加え、既存炉については閉鎖の期日を指定するのではなく、各炉の生涯発電電力量(閉鎖までに発電できる電力量)の上限を定め、この枠を使い切った炉から閉鎖し、段階的に原子力から撤退する方式が採られた。2010年までにこの規定に基づき、2基の原子炉が閉鎖されている。
   この間、再エネについては急拡大の一方で、その歪みも明らかになってきた。固定価格買取(FIT)制度にともなう再エネ賦課金の増大、また再エネの拡大に系統拡張が追いつかない中での系統運用コスト増大等により、ドイツでは電気料金が上昇し、2000年のFIT開始から10年で家庭向け電気料金が約1.7倍となり、その後も上昇を続けた(図 1)。また気象条件に左右される再エネを、国内での安定調達が可能で安価な石炭火力が支える構図から抜け出せず(図 2)、温室効果ガス(GHG)削減ペースが鈍化した(図 3)。GHG削減という目的のための手段であるはずの再エネだが、手段が目的化した結果、本来の目的が半ば置き去りとなった形である。


図 1 ドイツ家庭電力料金推移
(出典)ドイツ連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)、電気料金分析2021年1月 より三菱総合研究所作成
https://www.bdew.de/service/daten-und-grafiken/bdew-strompreisanalyse/


図 2 ドイツにおける電源別発電電力量推移
(出典)国際エネルギー機関(IEA)、World Energy Balances 2020 Editionより三菱総合研究所作成


図 3 ドイツにおける温室効果ガス排出削減実績(1990年~2020年)
(出典)ドイツ連邦環境庁データより三菱総合研究所作成
https://www.umweltbundesamt.de/bild/emission-der-von-der-un-klimarahmenkonvention

   こうした中で2010年、メルケル政権は電力の低炭素化と経済性を確保しつつ再エネ拡大を進めるための「つなぎ」として原子力を活用するとして、脱原子力の後ろ倒しを決断した。具体的には、2002年原子力法で定められた生涯発電電力量に上乗せを行い、全炉平均で約12年の運転延長を可能にするというものである。
   ところが、この変更を盛り込んだ原子力法改正が2010年12月に発効した矢先の2011年3月に東京電力福島第一原子力発電所事故が発生し、ドイツの脱原子力は大きく再加速することになった。メルケル政権は2011年8月に再び原子力法を改正、運転延長は撤回され、当時17基あった原子炉それぞれに閉鎖期限が指定され、2022年までに脱原子力を完了することが明示された。この原子力法改正に基づき、2011年8月に8基が一斉に閉鎖された後は2015年以降、2年に1基のペースで閉鎖されてきたが、ラストとなる2021年と2022年で、130万kW、140万kW超の大型炉が3基ずつ閉鎖され、2年の間に800万kW超という大容量が脱落する予定となっている。
   ドイツの脱原子力の流れを、表 1に示す。

表 1 ドイツ脱原子力政策の流れ

(出典)ドイツ原子力法、原子力安全条約国別報告書、World Nuclear Association情報等より三菱総合研究所作成

【ドイツの電力需給とGHG削減】
   脱原子力の完了が見えてきたドイツだが、電力需給の状況はどうなのだろうか。そしてGHG削減の進捗は結局、どうなっているのだろうか。
   脱原子力を進めても、再エネの拡大等により、なおドイツは電力輸出国であると言われる。実際、年間トータルの収支でみれば輸出超過である。しかし電力について安定供給を語る際には、常に需要と供給の「同時同量」が原則である。ただし、欧州大陸の中程に立地するドイツは、かならずしも需給のバランスを自国で完結させる必要はなく、供給の過不足を電力輸出入で吸収できる点に留意が必要である。以下の図 4は、3月から5月にかけてのドイツにおける電力需給状況を2019年と2020年で比較したものである。2020年のこの期間は、新型コロナウイルス流行によるロックダウンのさなかにあった。この間、経済活動は停滞し、電力需要が低調であったにもかかわらず、電力需要(図中赤線)が供給を上回る時間が2019年同時期より長く発生した。2019年と比べて、石炭火力の稼働が減っているが、ドイツでは現状やはり、GHG排出が多い石炭がなければ再エネ出力低下のタイミングでは電力輸入が必要という状況が見て取れる。
   GHG削減に関して、ドイツは再エネ大国のイメージがあり、実際先に示した図 2のとおり、発電電力量も確実に増加しているのだが、上述通り石炭が減らない中で2015年ころから2020年目標(1990年比40%減)の達成は絶望的との声が上がり、2030年目標はなんとしても達成せねばという危機感から、ドイツ政府は昨年7月、脱石炭への着手を決断した。2020年はまだ脱石炭が本格化する前の状態であったが、コロナ禍のロックダウンによる経済活動低下の影響で、辛うじて2020年目標達成という思わぬ結果となった(図 3)。この点については政府も、コロナがなければ達成していなかったであろうと認めている。
   ドイツ政府は5月5日に、GHG削減目標をさらに引き上げ、カーボンニュートラルを前倒しする方針を明らかにした。現行の2030年目標は1990年比55%減だが、これを65%減に引き上げ、2040年に88%減とし、カーボンニュートラルの達成時期を現在の2050年から2045年に早めるという。2020年目標の達成背景を踏まえると、コロナ復興とこの目標を両立するというのは、実に野心的である。


図 4 3月中旬~5月末までのドイツにおける電力需給(2019年と2020年の比較)
(出典)ドイツ連邦ネットワーク規制庁、電力市場データ(SMARD)より三菱総合研究所作成
https://www.smard.de/en/5790

【まとめ ~自国が置かれた状況と「S+3E」を踏まえ、それぞれにとって最適な脱炭素化の道筋を~】
   ドイツが上に述べたような野心的な目標に踏み出せるのは、西のフランス、東のチェコといった原子力国を含む欧州地域内での連系があり、必ずしも自国単独で電力需給バランスを完結させる必要がないからである。ドイツ政府は再エネ拡大をさらに加速するとしているが、系統の拡大が順調とは言えない中、少なくとも再エネの調整として期待される蓄電や、再エネによる「グリーン」水素に関するイノベーションが軌道に乗るまで、国外との輸出入は不可欠だ。
   また特に原子力比率が高く再エネに乏しいドイツ南部では当面、ガス火力の増強が必要とされている。しかし天然ガスにも問題がある。そもそも天然ガス自体が化石燃料であり、石炭ほどではないにせよGHGの排出源だという点に批判がある。加えてドイツを含め、欧州大陸の多くの国にとって、天然ガスの主たる供給国はロシアとなっている。EUや米国が国家安全保障の根幹たるエネルギーにおいてロシアへの依存を強めることを懸念する動きがあるうえ、ドイツ自身も対ロシア外交で強く出られなくなってしまうことを指摘する声もある。
  島国である日本で2050年カーボンニュートラルに向け脱炭素化を加速させるにあたっては、欧州では国境を越えて実現可能な電源の供給余力や多様性、バランスを自国内のみで成立させつつ、イノベーションを進めていかなければならない。またエネルギー資源を他国から入手する際にはコストの問題に加え、その時々の国際関係にも十分に気を配らなければならない。
   カーボンニュートラルは、国際連合の「持続可能な開発目標」における気候変動対策のための重要施策でもあり、今や世界大で共有する目標となりつつあるが、そのために採るべき道はみな同じではない。また持続可能な開発目標が「誰も取り残さない」ことを大前提としている点を考慮すると、  カーボンニュートラルへの移行においては、エネルギー供給構造、社会構造の変革が、特定の国や社会集団に大きな不利益や格差を引き起こすことがないよう、公正性への配慮も強く求められるのではないだろうか。各国、地域が現状と将来を見据えて、「S+3E(Safety, Energy security, Economical efficiency, Environment)」に加え、公正性の観点からも、利用可能で最適な手段を柔軟に組み合わせて対処していく必要がある。


●参考文献
・ドイツ原子力法
https://www.gesetze-im-internet.de/atg/BJNR/008140959.html
・連邦環境・自然保護・原子炉安全省(BMU)プレスリリース、2021年3月16日
https://www.bmu.de/pressemitteilung/treibhausgasemissionen-sinken-2020-um-87-prozent/
・ドイツ連邦ネットワーク規制庁、電力市場データ(SMARD)、2021年5月25日アクセス、
https://www.smard.de/en/5790
・ドイツ連邦環境庁、Emission der von der UN-Klimarahmenkonvention abgedeckten Treibhausgase、2021年5月25日アクセス
https://www.umweltbundesamt.de/bild/emission-der-von-der-un-klimarahmenkonvention
・ドイツ連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)、電気料金分析2021年1月
https://www.bdew.de/service/daten-und-grafiken/bdew-strompreisanalyse/

 以上

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