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【世界】 IEA、2050年ネットゼロ達成に向けたロードマップを発表

2021年7月6日

   地球温暖化対策の国際的なルール「パリ協定」や持続可能な開発目標(SDGs)等を背景に、世界では、今世紀半ばに向けて、温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボンニュートラルあるいはネットゼロ。ここではネットゼロと表現する。)の達成を宣言した国がすでに120カ国以上にのぼる。これは、世界のCO2排出量、国内総生産(GDP)の70%をカバーする。一方で、ネットゼロ目標を法律で規定した国は英国のほか、我が国でも改正地球温暖化対策推進法(温対法)がこのほど成立したが、その数はいまだ少なく、実現するための具体的な措置や政策まで踏み込んだ国はほとんどないのが現状である。
           
【IEAが提示した「7つの原則」】
   今年11月に開催予定の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)を前に、国際エネルギー機関(IEA)は2021年3月、温室効果ガス排出のネットゼロに向けた「7つの原則」(表1)を公表した。この原則は、ネットゼロ達成への取組のガイドラインで、我が国を含め、米国や中国、インドを含む40カ国以上が参加する「IEA-COP26ネットゼロサミット」にて提示され、参加国の賛同を得た。

表 1 IEAが提示したネットゼロ実現に向けた7つの原則


【2050年ネットゼロへのロードマップ】
   上記7つの原則の提示に際して、IEAは同年5月に、2050年までのネットゼロ達成に向けたロードマップを公表した。
   本ロードマップでは、各国が目標を達成した場合にネットゼロが実現可能か分析した。その結果としてIEAは、仮にネットゼロを約束した国が期限通りに目標を達成してもなお、世界全体としては2050年ネットゼロには届かず、今世紀末までに、2.1℃気温が上昇するとしている。このため、ネットゼロ達成にはより強力な対策が必要として400以上のマイルストーンを提言している。このうち電力部門に関する主要マイルストーンは、以下の通り。(図1)

図 1 ネットゼロ達成に向けた道筋と電力部門における主要マイルストーン
出所)IEA, Net Zero by 2050 A Roadmap for the Global Energy Sector, 18 May 2021,
https://iea.blob.core.windows.net/assets/ad0d4830-bd7e-47b6-838c-40d115733c13/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector.pdf, Key milestones in the pathway to net zeroをもとに三菱総合研究所作成

   IEAはネットゼロ達成に向けて、LEDなどの既存技術の普及とともに、今世紀半ばに向けて、特に重工業や長距離輸送分野で技術のイノベーションが必要と指摘している。エネルギー分野においては、特に2030年までの間においては、エネルギー利用の高効率化や電化の進展、石炭火力発電の代替が、ネットゼロへの中心的な役割を果たし、原子力、水素、バイオマス、そして二酸化炭素回収・有効利用・貯留技術(CCUS)も各国の状況に応じて貢献するとしている。また、2050年における電力の約90%が再生可能エネルギー、残りの大部分が原子力によって供給されると予想している。原子力については、ネットゼロ達成に大きく貢献するとしたうえで、今後も発電容量が増えることを見込んでおり、先進国では今後10年内に閉鎖予定の炉の運転期間延長や新増設、新興国では今後の新設を行う判断が重要と提言された。世界中で開発が進む小型モジュール炉は、発電だけでなく水素製造や熱供給などの用途拡大に向けた研究が進行中であるとし、特に、先進国における新増設において、重要な位置づけになると予想している。一方で、化石燃料に対しては、新たな化石燃料供給プロジェクトへの投資の即時停止を促すなど、撤退に向けた強いメッセージが打ち出された。
   IEAはネットゼロ達成に向けて、化石燃料からの投資撤退が石油や天然ガスを生産・利用する国や企業に大きな影響を与えるとしつつも、クリーンエネルギーに対する投資は全体として、世界の経済成長を押し上げると分析している。一方で、電化の進展等に伴い電力の重要性が高まる中、太陽光発電や風力発電といった特定の再生可能エネルギーのみに頼るべきではないとしている。このほか、電気自動車等に使用されるリチウムやニッケル等のレアメタルに関して、依存度の上昇、価格変動、供給途絶リスクにも留意すべきと指摘している。

   今回のIEAの提言は、上記のように具体的なアクションまで踏み込んだものとなり、COP26を前に、多くの国や産業界等に影響を与えると思われる。一方でIEAの提言は国の政策を拘束するものではなく、各国の状況に応じて取り組んでいくべきとするなど、冷静な姿勢を示す国もある。

【まとめ:日本におけるネットゼロ達成に向けて】
   我が国は東日本大震災以降、原子力発電所の停止などに伴い、電源構成に占める化石燃料の割合が約80%を占めるなど過度に依存している側面があり、仮にIEAの主張する新規投資撤退が国際的なコンセンサスを得た場合には、大きな影響を受けることが想定される。グリーン成長戦略や目下進められているエネルギー基本計画の改定における議論でも取り上げられているような、我が国の置かれた状況や安全保障等の観点を踏まえると、IEAの提言を全てそのまま受け入れることは難しいと考えられる。特に、化石燃料に関しては、即時撤退ではなく二酸化炭素回収・有効利用・貯留技術(CCSやCCUSなど)の技術進展を踏まえ、CO2排出量を抑えた脱炭素化火力として引き続き活用する方法もあろう。
   一方でIEAは、我が国も利用している原子力については、すでに言及したようにネットゼロ達成に向けて大きく貢献すると分析している。米国ではネットゼロ達成に向けた選択肢として原子力の活用を明確に位置づけ、既存炉・新型炉支援に過去最高額の予算を要求するなどの動きも見られる。このほか、カナダや英国、仏国等も、ネットゼロ達成に向けて引き続き原子力を活用していく方針を打ち出している。資源の乏しい我が国においても、「安全確保(Safety)」を大前提に、「エネルギーの安定供給(Energy Security)」、「経済性(Economy)」、「環境適合(Environment)」を同時に達成する「S+3E」の観点から電源のエネルギー・ミックスを検討していくことが重要である。原子力についても、40年超の運転や新増設等について、さらに前向きな議論が必要ではないだろうか。
   ネットゼロ達成に向けて、確かな根拠を持って実現する具体的方法論を議論し、産官が協力して実現させていくことが急務だ。

【参考文献】
●IEA, Net Zero by 2050 A Roadmap for the Global Energy Sector, 18 May 2021, https://iea.blob.core.windows.net/assets/ad0d4830-bd7e-47b6-838c-40d115733c13/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector.pdf

●IEA, Decision makers from more than 40 countries focus on critical need for international collaboration and policy implementation to accelerate clean energy transitions ahead of COP26 in November,  31 March 2021,  https://www.iea.org/news/energy-and-climate-leaders-from-around-the-world-pledge-clean-energy-action-at-the-iea-cop26-net-zero-summit

 

 以上

【作成:株式会社三菱総合研究所

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