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【中東欧】 中東欧における原子力~EUとロシアのはざまで~

2021年7月19日

   世界で原子力新増設のニーズが高い国・地域といえば、真っ先に思い浮かぶのはロシア、中国、インドといった国々である。これらの国々は世界的な低炭素化の潮流への対応もさることながら、何より国土や人口規模も大きく、安定した電源の確保・持続的拡大への志向が強い。
   本稿ではこうした大国から目を転じて、中小国が集まり、欧州東西の大国に挟まれた中東欧地域、旧共産圏にあたる国々に注目したい。我が国での認知度はさほど高くないが、中東欧は旧ソ連時代から伝統的に原子力利用に積極的な地域であり、2021年6月末現在、6カ国で19基の原子力発電所が稼働している。この地域では特筆するような重大事故もなく、政府や国民一般の原子力に対する信頼や、原子力の価値への評価が比較的安定しているという特徴がある。規模こそロシア、中国、インドのように大きくはないものの、原子力の維持拡大への確実なニーズ・関心がある地域であり、ポーランドのように、これから本格的に原子力発電を新規導入しようという国もある。本稿では、同地域における原子力計画の状況を概観したうえで、この地域で原子力が求められる理由や、原子力を巡る国際関係といった背景、ひいては同地域の動きが日本へ与える示唆について整理する。
 
既存炉はVVER主流の中東欧、新増設ではロシア排除の動きも
   上述の通り、中東欧地域では6カ国19基の原子炉が運転中だが、旧共産圏という事情から、米国ウェスティングハウス社のPWRを採用したスロベニア、重水炉であるCANDU炉を採用したルーマニアを除き、ロシア(旧ソ連)型のVVERが主流である。これら既存炉の経年化が進むとともに、経済発展、電化の進展に伴う電力需要増加への対応としてリプレースや新増設が検討されているが、その際の炉型については選択が分かれるところである。
   スロバキアでは過去に建設が中断された2基のVVERの建設計画が再開され、それぞれ2021年、2023年に運開予定である。後続炉の計画もあるがこちらは停滞しており、炉型等も不透明である。ハンガリーはロシアと友好関係にあり、技術・資金両面の支援を受けて2基のVVERを増設し、2026年、2027年に運開予定である。ブルガリアでも、複数次にわたり中止を経験したベレネでVVERを完工させる計画だが、後続のコズロドイ原子力発電所7号機では米国炉採用が取り沙汰されている。チェコはまずドコバニ原子力発電所で1基増設、別サイトでの増設も想定している。注目されるのは、ドコバニ原子力発電所の入札に向けた動きの中で、安全保障上の理由(2014年にチェコで発生した弾薬庫爆破事件へのロシア諜報機関関与疑惑)でロシアが除外されたという点である。つまり新炉は「VVER以外」となる。ルーマニアは、中国の協力の下でCANDU炉を増設する計画であったが、中国との交渉は2020年に中止され、その後米国に接近しつつある。
   これらの原子力既存国に加えて、目下ポーランドが2033年頃の初号機運開を目指して原子力発電の新規導入計画を進めているが、もとより同国ではロシアに対する警戒が強く、米国との関係を強めている。
   ここまで紹介してきたのは中大型炉の計画に関する動きだが、中東欧地域では中大型炉にプラスして、あるいはこれを代替する選択肢として、小型モジュール炉(SMR)の導入を検討する動きも盛んになっている。
   ポーランドでは、まず発電用の中大型炉を導入する計画だが、後続のオプションとして小型炉による熱供給に期待しており、日本が日本原子力研究開発機構(JAEA)を中心に高温ガス炉導入に向けた取り組みを共同で進めてきた。ただし、同国では近年、SMRも視野に米国への接近がみられる。このほか、チェコは米国と英国、ルーマニアも米国、さらには現在原子力を保有しないバルト三国のエストニアでも米国とSMRのフィージビリティ検討等に関する覚書が締結されるなど、SMRを巡る動向が目立つ。
   中東欧でSMRへの関心が高いのは、中大型炉と比べてプラントの初期投資費用が抑えられることへの期待もあるが、開発・実証段階にある新技術の早期取り込みに加え、開発を急ぎたい先進国からの資金面での持ち出しへの期待も大きいだろう。

   中東欧におけるこうした原子力計画動向の概要を、以下の図 1に示す。



図 1:中東欧地域の原子力計画~「ロシア炉以外」「SMR」も視野~
(出所)世界原子力協会(WNA)、Country Profiles等より三菱総合研究所作成

中東欧における原子力志向の背景~ロシアとEU西側両方からのエネルギー自立確保をめざして
   中東欧における原子力への手堅いニーズの背景には、もちろん「脱炭素」がある。これらの国々はいずれも欧州連合(EU)加盟国であり、2050年までのカーボンニュートラルに向けた取り組みが求められる。しかし、中東欧にはポーランドのように電源に占める石炭比率が8割と高い地域や、内陸国をはじめ風況、日照などの再エネ資源に恵まれない地域、分散型再エネに対応できるエネルギーインフラの整備が不十分な地域もある。こうした地域も含めて、エネルギー安定供給を確保しつつ、同時に短期間で電力・熱供給の両面で脱炭素を進めなければならない。原子力はこうした国々にとって、外すことができない重要な安定・低炭素電源である。
   ただし、それ以上に重要なのが、エネルギー安全保障の観点である。大陸欧州の送電網は国際連系しており、電力の相互融通が可能だ。天然ガスのパイプライン網も張り巡らされており(図 2)、他国の供給に頼ることも確かに可能である。しかし、中東欧地域はEUとロシアのはざまにあり、そのいずれとも微妙な立ち位置にある。対ロシアでは、ハンガリーのように一部親密な国もあるが、多くは安全保障上の警戒感が強い。特にエネルギー安全保障に関しては、東欧含めEU全体が輸入ガスのおよそ半分をロシアに依存しているのが現状だが(図 3)、2005年から2014年にかけて複数次にわたり、ロシアがウクライナとの外交関係の緊張を背景に欧州方面へのパイプラインの主要経由地である同国方面へのガス供給を止めるなど、過去の経験からもリスクは高い。その一方で中東欧諸国としては、ドイツやフランスといった西側のEU「主流」への対抗意識もあり、特にこの地域の中でも国土や人口規模が大きいチェコやポーランドといった国々ではその傾向が顕著である。このような事情から、中東欧地域では東側からも西側からも、一定程度のエネルギー自立を保っておきたい思惑が強い。


図 2:ロシア等天然ガス産出地と欧州大陸をつなぐ天然ガスパイプライン網(2015年)
(出所)日本原子力文化財団、「原子力・エネルギー図面集」、2021年7月1日閲覧
https://www.ene100.jp/zumen/1-1-12


図 3:対EUの天然ガス・LNG輸出、約半分を占めるロシア
(出所)欧州委員会エネルギー総局、天然ガス市場四半期報告書(2020年第4四半期)
https://ec.europa.eu/energy/sites/default/files/quarterly_report_on_european_gas_markets_q4_2020_final.pdf

国産炉を持たない中東欧、原子力拡大では「パートナー国の選択」「資金確保」が課題
   上述のように、脱炭素やエネルギー安全保障の観点から、原子力を維持拡大する志向が強い中東欧地域だが、自前の国産炉や原子力サプライチェーンを持たない国がほとんどである。つまり、原子力拡大には炉を供給できる他国の協力が欠かせない。そうなると、問題となるのは「誰と組むのか」である。この場合、EU西側とロシア、双方から距離をとるにはそのどちらでもない選択肢が鍵となってくる。
   少し前までは、中国がそうした選択肢の一つとして中東欧地域との接近を強めていたが、中国側からの投資による道路や鉄道等のインフラ案件などでのコスト増大や、投資条件への不満、最近の香港問題、外交姿勢などから、このところ中東欧の側から距離を置くようになってきた。前述のルーマニアにおけるCANDU炉増設での中国との交渉中止もそうした典型例の一つである。
   この機に大きく浮上してきたのが米国である。トランプ政権時代に引き続きバイデン政権下でも、米国産業の振興に加えロシアへの牽制といった外交面の観点から、原子力の海外進出を後押しする方向は変わらず、原子力計画を持つ中東欧諸国へのアプローチを強めている。図 1にも示したように、米国は発電用の中大型炉の新増設で自国炉の導入を働きかけているだけでなく、既存のVVER炉燃料や機器についても、ウェスティングハウス社が供給能力を持ち、ロシアに代わるオプションを提供している。さらに、中東欧地域の原子力計画では、拡大意欲はあれど資金調達が大きなネックとなっているケースが多いが、米国は融資などを直接約束はしないまでも、協力事項として資金調達枠組みの検討を含めており、こうした資金問題に踏み込んでいる点も、存在感を増す要因になっていると考えられる。

低炭素、エネルギー自立、経済成長、イノベーション---中東欧の原子力活用姿勢からみる日本への示唆
   ドイツやオーストリアを筆頭に、原子力に批判的な国も複数あるEU域内において、中東欧が地域レベルで引き続き原子力利用を続けていくことは、世界が脱炭素に向かう中での選択肢の多様性確保にとって、意義あることだと言えるだろう。
   また中東欧の原子力計画のパートナーとして「EUでも中国でもロシアでもない選択肢」が鍵となるとしたら、日本もその選択肢の一つであるはずだ。EU域内である中東欧への進出にあたっては、既存技術にせよ新技術にせよ、厳しいといわれるEUの安全基準や公正競争規則等への適合というハードルはある。しかしこれをクリアし実績を刻むことができれば、世界大での展開に向けた大きな一歩となる。
   既に世界では、上述のとおり資金面を含めた協力で存在感を示す米国以外にも、韓国やEUを離脱した英国なども、機器供給やSMR展開に向けて動きを活発化させている。日本もポーランドにおける高温ガス炉検討等、関係を築いてきた部分もあるが、日本単独で進出していく以外にも、米英等との協力の下で地歩を固めていく選択肢もある。
   中大型炉、小型炉両方のニーズがある中東欧地域の原子力開発・導入への協力は、日本にとっても大きな意義がある。中大型炉での協力は、我が国の原子力技術や人材の維持にもつながる。また国際的な協力・競争関係の中でSMRなど原子力の新技術実用化の道筋に早期段階から加わることは、我が国のグリーン成長戦略でも強調されているイノベーション推進にも寄与する。日本としてできる協力を、積極的に模索していく必要があるだろう。
   これまでに述べてきた通り、中東欧では多くの国が、現状発電や産業において石炭等化石燃料に大きく依存している状態からスタートして脱炭素を急がねばならないことや、再エネ拡大に限界があること、天然ガスのロシア依存脱却、エネルギー自立の必要性が高いことなど、原子力が貢献できる可能性が大きい。こうした中東欧の事情は、他国との電力連系が困難であり、エネルギー自給率が低く、再エネのみで電力低炭素化を進めることも難しい日本とも共通するところがある。日本では目下、2050年のカーボンニュートラルと国民生活・経済の向上の両立を視野に、エネルギー基本計画が改訂されようとしている。そうした中、エネルギーミックスにおける原子力の価値を積極的に評価し、その活用を模索する中東欧の国々の姿勢は、日本にとっても意義深い示唆を与えるものである。

●参考文献
・世界原子力協会(WNA)、World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements、2021年7月アクセス
https://world-nuclear.org/information-library/facts-and-figures/world-nuclear-power-reactors-and-uranium-requireme.aspx
・チェコ共和国政府プレスリリース、2021年4月19日
https://www.vlada.cz/cz/media-centrum/tiskove-konference/tiskova-konference-po-jednani-vlady--19--dubna-2021-187818/
・ルーマニア国営ニュークリアエレクトリカ社プレスリリース、2020年10月9日
https://www.nuclearelectrica.ro/2020/10/09/initialization-of-the-agreement-between-the-romanian-government-and-the-government-of-the-unites-states-of-america-regarding-the-cooperation-related-to-the-nuclear-energy-projects-from-cernavoda-and/?lang=en
ブカレスト証券取引所、ルーマニア国営ニュークリアエレクトリカ社報告、2020年5月26日
http://www.bvb.ro/infocont/infocont20/SNN_20200526162139_SNN-26-05-2020--current-report-amendment-request.pdf
米国エネルギー省(DOE)プレスリリース、2020年10月19日
https://www.energy.gov/articles/us-secretary-brouillette-and-poland-s-minister-naimski-sign-strategic-agreement-us-poland
欧州委員会エネルギー総局、天然ガス市場四半期報告書(2020年第4四半期)

以上

【作成:株式会社三菱総合研究所

 

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