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【国際】 IAEAが「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」2021年版を公表~2050年の原子力の設備容量見通しを上方修正~

2021年12月6日

   国際原子力機関(IAEA)は9月、「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」の2021年版(以下、「2021年版予測」)を公表した。
   IAEAの予測は、ファクトやシナリオに基づき数字を導出したものであり、IAEAとしての勧告や提言を示すものではない。こうした位置づけに留意する必要はあるが、「2021年版予測」では、福島第一原子力発電所事故後はじめて高位ケース(各国の気候変動対策も考慮した野心的なシナリオに基づくケース)における2050年の原子力発電設備容量見通しが、前年版と比較して上昇に転じるという変化が見られたことは、注目に値する。このトレンドの変化の主因は、IAEAが北・西・南欧諸国における原子炉の閉鎖時期が従来の予測よりも後倒しになると想定したことであるが、そうした認識の背景には、CO2排出削減対策の強化やEUタクソノミーにおける原子力の位置付けの検討など  により、同地域で既存炉の長期運転が進められるようになるとのIAEAの認識があると思われる。
   「2021年版予測」公表の1カ月後に公表された国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギー見通し」でも、カーボンニュートラルを実現するシナリオでは、2050年には原子力発電の設備容量が現在の倍以上になると想定されている。こうした国際機関の検討結果からも、国際社会も、また我が国も、カーボンニュートラルの実現に向け、原子力をどのように位置付けていくのか、活用していくのかを真剣に検討していく必要性に迫られているといえるのではないだろうか。

   「2021年版予測」の概要
   IAEAは1981年以降毎年、エネルギー、電力、原子力発電の予測を公表してきており、「2021年版予測」は41回目となる。IAEAによれば、予測は国毎のプラントの運転状況、運転認可の更新、閉鎖の計画、新設プロジェクトなどのデータに基づき、「ボトムアップ」アプローチで作成されている。従って予測は、原子力発電の利用に関するIAEAの勧告や提言を示すものではなく、ファクトを積み上げて客観的に導出されるものである。
   予測は、現状の市場、技術、政策や規制に大きな変化はないとの想定に基づく、保守的だが蓋然性の高い「低位ケース」と、各国の気候変動対策も考慮し、蓋然性が高く技術的にも実現可能ではあるものの、より野心的な「高位ケース」の2パターンのシナリオで作成されている。
   「2021年版予測」の高位ケースでは、2050年の原子力発電設備容量の見通しは792GWとなっており、これが実現すれば原子力発電設備容量は2050年には2020年(392.6GW)からほぼ倍増することとなる。
   IAEAの予測は毎年公表されており、数年程度の期間で予測が大きく変動することはない。しかしながら、表 1に示すように、「2021年版予測」では、2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故後はじめて高位ケースにおける2050年の原子力発電設備容量見通しが上昇に転じるというトレンドの変化が見られた。

表 1 IAEAによる2030年および2050年の原子力発電設容量見通しの推移
(2011年版~2021年版、単位:GW)

出所)「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」2011年版~2021年版に基づき
三菱総合研究所作成

   2020年の原子力発電の状況 ~目立つ中国の発電量増、日本は後退~
   「2021年版予測」では、2020年の世界における原子力発電の状況が回顧されている。2020年に注目すべき点として、発電量で中国がフランスを抜き、米国に次ぐ世界第2位の原子力国に浮上したことが挙げられる。
   一方日本は、運転中プラントの設備容量では米仏中に次ぐ4位であるが、発電量は12位となった。2020年版では9位であり、スペイン、スウェーデンおよび英国に抜かれての転落である。なお発電量で日本は、現政権が脱原子力の方針を打ち出している韓国(5位)や、2022年までの脱原子力を進めつつあるドイツ(8位)の後塵を拝しており、再稼働の遅れにより原子力発電が停滞している状況がこうした順位にも表れている。

   「2021年版予測」における設備容量見通し ~欧州での長期運転の機運が見込まれるか~
   先述の通り、「2021年版予測」では、福島第一原子力発電所事故後の2011年版以降一貫して下落傾向にあった高位ケースにおける2050年の原子力発電設備容量見通しが上昇に転じた。
   このトレンドの変化の要因を明確にするために、「2020年版予測」と「2021年版予測」で、予測で区分されている世界の10地域[※1] のうち設備容量の上位4位に入る北米、北・西・南欧、東欧、および中央・東アジアの高位ケースにおける見通しの変化を表 2に示した。この比較で特に目立つのは、北・西・南欧で2050年設備容量見通しが約70GWから約96GWへと37%上昇していることであり、その主因として、2030年から2050年にかけてのプラント閉鎖による設備容量の減少見通しが、2020年版では70GW近くあったのが、2021年版では50GW弱に小さくなっていることが挙げられる(表 2では黄色で示している)。
   IAEAの予測には、具体的にどの国のどのプラントの閉鎖が後倒しされると想定されているのか示されていない。よってIAEAの見通しの変化の理由は推測するしかないが、世界に先駆けて温室効果ガス排出削減を進める北・西・南欧では、原子力発電の維持による排出削減が図られると考えられたのではないか。具体的には、カーボンニュートラルに向けた脱石炭の加速化や天然ガス供給の不安定性も背景に、電力の供給力維持と低炭素化両立の観点から、既存炉を長期運転して設備容量を維持しようというモーメントがはたらくとIAEAが見込んでいるものと考えられる。また、「EUタクソノミー」(持続可能な経済活動について欧州連合(EU)域内共通の定義および該当活動のリストを定めるもの)に原子力を組み入れる方針でEU内の議論が進んでいることも反映されているかもしれない。

表 2 「2020年版予測」と「2021年版予測」における原子力発電設備容量見通し
(高位ケース、単位:GW)

出所)「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」の2020年版、2021年版データ集に基づき
三菱総合研究所作成

   原子力発電の設備容量に影響を与える要素 ~長期運転に関するIAEAとIEAの見方~
   AEAの予測は、低位ケースから高位ケースまで幅を持ったものであるが、「2021年版予測」では、原子力発電の設備容量の増減に影響を及ぼす要素として、以下のような点が挙げられている。
●気候変動対策
●天然ガス価格や(出力が変動的で系統コストへの影響を考慮した運用が出来ないような)再生可能エネルギーが電力料金に与える影響
●原子炉建設のような資本集約的(設備などに多くの資本投下が必要な)プロジェクトにとって課題となる資金確保における不確実性
●厳格化される安全要件や先進的技術の適用時における課題など、建設工期や新型炉の初号機(FOAK)設計コストに影響を及ぼす要因

   また、「2021年版予測」においてIAEAは、現在運転中の原子炉の2/3が運転開始から30年以上経過していることを理由として、長期的にはプラント閉鎖による設備容量の減少を補完する新設が必要になると指摘する一方で、特に北米と欧州を中心に、2030年以降に閉鎖される予定の原子炉のリプレースには不確実性がつきまとっているとしている。ただし、より多くのプラントで高経年化管理プログラムが進められ、長期運転が実施されていることも指摘している。こうした長期運転に向けた取組の活発化も、上述した高位ケースでの原子炉閉鎖の後倒しによる2050年までの設備容量の維持という見通しを支える一つの根拠になっているだろう。
   なお、このようにIAEAの「2021年版予測」高位ケースでは、既存炉の長期運転により設備容量の維持が図られるとの見通しが示されているが、IEAの「世界エネルギー見通し」ではやや違った見方がなされている。IEAは、既存炉の閉鎖ペース(換言すれば、既存炉の運転延長)については不確実性が大きいとの認識を示しており、不確実性をもたらす要因として、追加投資の必要性、規制上の承認、社会的受容などを挙げている。

カーボンニュートラル実現に向け、日本でも原子力の維持・拡大に向けた真剣な議論が必要
  以上、IAEA「2021年版予測」の概要を整理してきたが、各国が野心的に気候変動対策に取り組む「高位ケース」では原子力発電の設備容量は2050年には現在の2倍になるとの見通しが示されている。
  気候変動対策において原子力が果たす役割を示した別の検討事例としては、この10月にIEAが公表した、前述の「世界エネルギー見通し」2021年版を挙げることができる。図 1は、IAEA「2021年版予測」の低位ケースと高位ケース、およびIEA「世界エネルギー見通し」2021年版の公表政策シナリオ(STEPS[※2] 、発表誓約シナリオ(APS[※3] と2050年までの排出量ネットゼロ化(NZE)シナリオのそれぞれにおける、2030年、2040年、および2050年の原子力発電の設備容量見通しを示したものである。IEA「世界エネルギー見通し」の公表政策、発表誓約シナリオでは2050年カーボンニュートラルは達成できない見通しである。一方、ネットゼロを実現しようとするNZEシナリオでは、図 1に示す通り、2050年にはIAEAの「高位ケース」をも上回る800GW以上の設備容量の原子炉が世界で稼働している見通しとなる。見方を変えると、IEAが設定しているシナリオに従ってカーボンニュートラルを達成するのであれば、IAEAの「高位ケース」をも上回る規模の設備容量の原子炉を稼働させなければならないということになる。これだけの設備容量の実現は容易なものではなく、IEAは5月に公表した「2050年までのネットゼロ 世界のエネルギー部門のためのロードマップ」において、ネットゼロ達成を見据えて、原子力分野で早急な意思決定が必要な点として、運転期間延長・長期運転、原子炉新設のペース、および先進的な原子力技術の開発を挙げている。


図 1 IAEA「2021年版予測」およびIEA「世界エネルギー見通し」の各ケース・シナリオにおける
原子力発電の設備容量見通し(単位:GW)
出所)「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」2021年版データ集およびIEA「世界エネルギー
見通し」2021年版データ集に基づき三菱総合研究所作成

   こうした国際機関における検討事例から、2050年カーボンニュートラルを至上命題と認識するならば、自国のエネルギー事情を鑑み、必要に応じて原子力の維持・拡大を実現する方法を真剣に検討せねばならないという認識が、国際的に広まりつつあるということができるのではないだろうか。我が国においても、カーボンニュートラル実現に向け、原子力の維持・拡大を含めた、現実的な議論がなされる必要があるといえるだろう。


[※1]北米、中南米、北・西・南欧、東欧、アフリカ、西アジア、南アジア、中央・東アジア、東南アジア、およびオセアニアの10地域
[※2]各国政府が実際に実施中、あるいは発表した政策のみを考慮する現状維持シナリオ。結果として2100年までに平均気温が約2.6℃上昇することが予想される。
[※3]各国政府の発表した誓約が期限内に完全に達成されることを想定したシナリオ。結果として世界のCO2排出量は2050年までに40%削減、2100年までの平均気温の上昇は約2.1℃となると想定される


●参考文献
   ・IAEA「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」2021年版(2021年9月)
   https://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/RDS-1-41_web.pdf

   ・IEA「世界エネルギー見通し」2021年版(2021年10月)
   https://iea.blob.core.windows.net/assets/88dec0c7-3a11-4d3b-99dc-8323ebfb388b/WorldEnergyOutlook2021.pdf

   ・IEA「2050年までのネットゼロ 世界のエネルギー部門のためのロードマップ」(2021年5月)
   https://iea.blob.core.windows.net/assets/deebef5d-0c34-4539-9d0c-10b13d840027/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector_CORR.pdf


以上

【作成:株式会社三菱総合研究所

 

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