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【国際】 諸外国における小型炉・先進炉の研究開発動向

2022年4月26日

   我が国は2020年10月、「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言した。諸外国においても、石炭火力発電の比率を下げるために原子力発電の新規導入を計画するポーランドや、安定した低炭素電源を確保するために大型炉の新設を進める英国のように、カーボンニュートラルに向けて原子力発電を推進する動きが見られる。また、特に欧州では、2021年の世界的なガス価格高騰の影響や昨今のウクライナ情勢の緊迫化から、エネルギー安全保障の観点から原子力を再評価する動きも見られる。
   このような大型炉の建設を推進する動きとともに、固有の安全性を有するとされる小型モジュール炉(SMR)や、多目的利用が期待される先進炉の研究開発も活況を呈している。我が国のエネルギー基本計画においても、原子力分野における新技術の研究開発等を進めるとしている。
   本稿では、エネルギー基本計画で言及されている米国、カナダ、英国に加え、フランス、ロシア、中国におけるSMR・先進炉について、各国が研究開発を進める背景、及び最近の動向について整理する。

【米国】
   米バイデン政権は、先進炉開発を温室効果ガス排出削減、新規雇用創出、原子力部門における米国の主導的地位確保の機会と捉え、先進炉実証プログラム(ARDP)を開始した。2020年に計10機関が進める研究開発プロジェクトを採択しSMRをはじめとする先進炉の研究・開発・実証を支援している。
   実用化に近いとされるニュースケール・パワー社が開発するSMR、VOYGRは、アイダホ国立研究所敷地内で建設予定のほか、テラパワー社によるナトリウム冷却高速炉もワイオミング州で建設に向けて計画を推進中だ。さらに、SMRより出力規模の小さいマイクロリアクターについても米国防総省管轄の施設下において、2027年末までの導入目標を設定している。

【カナダ】
   カナダもSMR開発を積極的に推進しており、2018年11月には、SMRによる低炭素社会の実現や国際的な開発競争における主導権の確保に向けて「SMRロードマップ」を策定した。ロードマップでは、カナダがSMR市場を先行して開拓することで、国内外の研究開発の集積や、グローバル市場におけるサプライチェーンの地域の確保が可能となる点などを強調している。
   2020年12月にはロードマップを踏まえ、SMRの開発・実用化に向けた「SMRアクションプラン」を発表した。アクションプランでは3つのストリームが示されており、そのうちのストリーム1ではベンダー選定が進んでいる。2021年12月には米国GE日立社製のBWRX-300を建設することが公表されたところだ。この他にも、カナダ原子力公社(AECL)のサイト運営を受託しているカナダ原子力研究所(CNL)が、AECLサイトにおけるSMR実証施設の設置に向けて2018年4月から建設事業者選定を進めている。CNLは2026年までに施設を完成させる計画である。

表 1 SMRアクションプランにおける3つのストリーム

(出典)smr action planウェブサイトに基づき三菱総合研究所作成

【英国】
   英国はカーボンニュートラルの達成に向けて大型炉新設を進めるとともに、先行者利益による国際競争力の獲得、ニーズに合わせて導入規模を変えられる柔軟性、再生可能エネルギーの補完、多目的利用などの観点から、SMRと先進モジュール炉[※1] (AMR)の開発を推進している。2020年11月には、原子力を含む10種類の脱炭素技術への投資計画を示す「グリーンリカバリー計画(10 Point Plan)」が発表され、SMR・AMR開発を推進するための先進原子力基金の設立が示された。
   SMRについては、ロールス・ロイスSMR社が国産SMR(UK-SMR)の開発を進めている。2030年代初期に初号機の完成を、2035年までに10基の建設を目標としている。AMRについては、先進原子力基金を活用した「AMR研究開発・実証プログラム」が実施されており、2030年代初期までに高温ガス炉初号機の建設を目指している。同プログラムでは、実現可能時期と高温熱生産に着目して高温ガス炉を選定した。

表 2 AMR研究開発・実証プログラムの概要

 (出典)英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省 ”Advanced Modular Reactor Research, Development & Demonstration Programme”(2022)に基づき三菱総合研究所作成

【フランス】
   フランスは2021年10月に、技術革新の促進やエコロジー転換等への対応を目的とした破壊的イノベーションへの大規模投資計画として「France 2030」を公表し、2030年までにSMR開発へ10億ユーロを投資する方針を示した。同計画では、2035年までにSMRを普及させることを目標に掲げている。また、低炭素水素製造の観点からも、原子力発電の役割を評価している。さらに、2022年2月の大統領演説では、国産SMR(NUWARD)の原型炉を2030年までに建設する方針が示された。NUWARDについては、原子力・代替エネルギー庁(CEA)が中心となって官民協働で開発を推進している。さらに、マイクロ炉(溶融塩炉)についても、2030年までに初号機生産を目指すnaarea社が2021年11月に設立されたところだ。

【ロシア】
   ロシアは、小型原子炉2基を搭載した浮揚式原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」を建造し、燃料装荷を完了。すでに2020年5月に極東地域で商業運転を開始している。また、極東連邦管区のサハ自治共和国に陸上設置式SMRの導入を進めている。サイト許可取得後の2024~2027年に建設を始め、2028年に営業運転の予定だ。同型炉を国内他地域に展開する計画も発表している。
   さらに、ロシアは積極的に国外展開を進めている。しかし、2022年のウクライナ侵攻により、特に欧米諸国でのロシア離れは必至。今後、SMR含めた原子力の国外輸出も足踏みすることが予想される。

【中国】
   中国では、2021年~2025年を対象とした国家戦略である「第14次五カ年計画」(2021年3月承認)において、高温ガス炉実証炉の建設、及びSMR、60万kW級商用高温ガス炉、浮揚式原子力発電プラント等の先進的な炉型の実証を進めるとしている。
   2021年7月には国産SMR(PWR型)である玲瓏1号の建設が開始された。同年12月には2基のモジュールで構成される高温ガス炉実証炉が1基のモジュールで発電を開始し、2022年には2基のモジュールで商業運転を開始する予定となっている。

自国の状況に応じて役割を見出す各国 ~熱供給や水素製造、廃棄物削減なども~
   このように、欧米ではカーボンニュートラルに向けて大型炉をベースロード電源として活用しつつも、多目的利用や国際競争力の確保等の観点から、SMRの実用化や先進炉の実証を目指している。中露においてもSMRの実証・実用が進んでいる。カーボンニュートラルに向けたSMR・先進炉開発は原子力導入国にとって国際的な潮流だといえる。
   特にカーボンニュートラルに向けて野心的な目標を掲げる英国では、負荷追従性による再エネとの調和や、電化による脱炭素化が難しい熱利用分野への熱供給、低炭素水素製造の観点から原子力を重視し、SMR・AMRの開発を進めている。英国は暖房による二酸化炭素排出量が多いことから、小型でニーズに合わせた柔軟な導入が可能である点にも注目し、地域暖房網への活用も想定している。大型炉についても、既設大型炉11基の内10基が2028年までに閉鎖される中で、大型炉2基の建設及び4基の計画が進行中だ。既に確立されている大型炉の活用と、多目的利用等が期待されるSMR・AMRの開発を並行して積極的に進めている。今後は再エネ中心の電源構成になるとしつつも、カーボンニュートラルに向けた最適なバランスを目指す姿勢は我が国の参考になるだろう。
   英国政府が大規模な基金を設立して積極的に開発を支援する背景として、カーボンニュートラルに加えて、産業創出も挙げられる。英国は自国内に大型炉ベンダーが存在しないことから、SMR・AMR開発を通じた国内サプライチェーンの再興と海外輸出を狙っており、SMR開発を支援する意義として雇用創出や経済効果を提示している。
   英国以外の各国・地域でも、それぞれの地域の特徴・ニーズを踏まえて、様々なタイプのSMR・先進炉の開発・導入計画が進められている。例えばカナダは、広大かつ寒冷な国土を持つことから、遠隔地での電熱併給をSMRの有力な用途としている。フランスでは大型炉新設計画を拡大するとともに、SMRの安全性、先進炉による放射性廃棄物削減に期待している。国内原子力基盤の維持や海外展開のポテンシャルについても、米国やカナダがSMRの開発を推進する理由に挙げており、実証が目前に迫るに伴い国際競争が激化していくだろう。特に米国は、中露が大型炉の海外展開を積極的に進めている中、SMR展開における主導権確保を狙っているとみられる。

新型炉は長期的には有望な選択肢の一つ 開発動向は引き続き注視が必要
   一方、SMRには課題も指摘される。小型化がスケールメリットに反することから、モジュール化による量産等によって発電コストを低減させることが必要となる。また、固有の安全性を鑑み、安全システムの最適化やEPZ[※2] の縮小等といったことを可能とするには、SMRの特性を考慮した安全基準が新たに必要となる。これらの課題に対しても、米国及び英国企業による量産化を目指した海外輸出に向けた取組や、IAEAによる安全要件の検討といった取組が進められており、注視が必要となる。
   我が国のエネルギー基本計画では、米国や欧州の取組も踏まえつつ、国が長期的な開発ビジョンを掲げて戦略的柔軟性を確保して進めると示した上で、2030年までに国際連携によるSMR技術の実証、高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立等を進めるとしている。課題を残しつつも諸外国の開発が加速している現状を鑑みると、長期的な視点では有望な選択肢になる可能性がある。引き続きその動向を注視しながら、我が国のカーボンニュートラル達成、エネルギーの将来に必要なイノベーションを推進していく必要があるだろう。


[※1]英国では、第4世代炉技術を用いたSMRを先進モジュール炉と定義している。
[※2]Emergency Planning Zone。原子力防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲。



参考文献
・資源エネルギー庁、エネルギー基本計画、2021年10月
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_01.pdf
・カナダ小型モジュール炉ロードマップ策定委員会、A Call to Action: A Canadian Roadma/ for Small Modular Reactors、2018年11月
https://smrroadmap.ca/wp-content/uploads/2018/11/SMRroadmap_EN_nov6_Web-1.pdf
・カナダsmr action planウェブサイト
https://smractionplan.ca/
・Ontario Power Generation社2021年12月2日付プレスリリース
https://www.opg.com/news-and-media/media-releases/media_release/opg-advances-clean-energy-generation-project/
・英国政府、The Ten Point Plan for a Green Industrial Revolution、2020年11月
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/936567/10_POINT_PLAN_BOOKLET.pdf
・英国政府、Net Zero Strategy: Build Back Greener、2021年10月
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1033990/net-zero-strategy-beis.pdf
・ロールス・ロイスSMR社ウェブサイト
https://www.rolls-royce-smr.com/
・英国原子力イノベーション・研究局、Advanced Modular Reactors Technical Assessment、2021年7月
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1006752/niro-217-r-01-issue-1-technical-assessment-of-amrs.pdf
・英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省、Advanced Modular Reactor Research, Development & Demonstration Programme、2022年2月
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1055241/amr-demo-programme-indicative-outline.pdf
・英国研究・イノベーション局ウェブサイト
https://www.ukri.org/what-we-offer/our-main-funds/industrial-strategy-challenge-fund/clean-growth/low-cost-nuclear-challenge/?_ga=2.154503291.2126804014.1647907590-1102919335.1617257594
・フランス大統領府、FRANCE 2030 – plan d’investissement、2021年10月
https://www.economie.gouv.fr/files/files/2021/France-2030.pdf?v=1641479311
・フランス大統領府、REPRENDRE EN MAIN NOTRE DESTIN ÉNERGÉTIQUE !、2022年2月
https://www.elysee.fr/front/pdf/elysee-module-19285-fr.pdf
・naarea社ウェブサイト
https://www.naarea.fr/
・全国人民代表大会、第十三届全国人民代表大会第四次会议 关于国民经济和社会发展第十四个五年规划 和2035年远景目标纲要的决议、2021年3月
http://www.npc.gov.cn/npc/kgfb/202103/e02feb61d7244e158edd86bf87477073.shtml
・中国国務院、2030年前碳达峰行动方案、2021年10月
http://www.gov.cn/zhengce/content/2021-10/26/content_5644984.htm#
・中国核電、关于海南昌江多用途模块式小型堆科技示范工程项目开工建设的公告、2021年7月
http://www.sse.com.cn/disclosure/listedinfo/announcement/c/new/2021-07-13/601985_20210713_2_NXV2cyOx.pdf
・華能集団2021年12月20日付プレスリリース
https://www.chng.com.cn/detail_jtyw/-/article/ccgb60va5Gwc/v/985934.html
・核工業集団公司2021年12月20日付プレスリリース
https://en.cnnc.com.cn/2021-12/20/c_692103.htm
・IAEA、How to Apply IAEA Design Safety Standards to SMRs、2021年2月
https://www.iaea.org/newscenter/news/how-to-apply-iaea-design-safety-standards-to-smrs

 以上
【作成:株式会社三菱総合研究所

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