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[国際] IEA、低炭素社会への移行で原子力の有用性を強調
2022年7月11日
国際エネルギー機関(IEA)は6月30日、特別報告書「Nuclear Power and Secure Energy Transitions: From today’s challenges to Tomorrow’s clean energy systems 」を発表。
世界中で燃料価格が高騰し供給保障上の懸念が高まるなか、低炭素エネルギー・システムを備えた社会への移行を目指す国では、原子力発電が重要な役割を果たす可能性があると強調した。
IEAによると、原子力発電を今後も継続利用する、あるいは利用拡大する道を選択した国では、輸入化石燃料への依存度が軽減されCO2の排出量が削減、太陽光や風力等の発電シェアが拡大した低炭素な電力システムを構築することが可能である。
逆に、原子力なしで持続可能なクリーン・エネルギー・システムを構築することは非常に難しく、リスクが高い上にコストもかかる。
IEAは、「世界的なエネルギー危機への取り組みで、原子力は再生可能エネルギーを中心とするエネルギー・システムへの確実な移行を促進できる」と強調している。
プレスリリースの中でIEAは、世界では現在32か国が原子力発電所を運転しており、低炭素な電力の生産量では原子力が水力に次いで第2位になると指摘。
これらの原子力発電設備のうち約63%は1970年代のオイルショック直後に建設されたため、運転を開始してからすでに30年以上が経過している。
しかし近年は、先進国から新興経済国にいたるまで、様々な国がそれぞれのエネルギー戦略の中で原子力に多くの役割を担わせるとともに、原子力への大規模な投資を奨励している。
IEAのF.ビロル事務局長は「エネルギーを取り巻く近年の世界情勢や地球温暖化防止への意欲的な取り組みなどから、原子力が返り咲くまたとないチャンスが訪れたと確信している」と表明。
しかしその一方で、「『新たな原子力時代の到来』は決して保証されたものではなく、返り咲けるかどうかは各国政府が原子力発電所を安全に運転させ、新たな原子力技術への投資を支持する政策を打ち出せるかにかかっている」と指摘した。
また、原子力産業界に対しては、「いくつかの先進国を悩ませている新規建設計画の工期延長とコストの増加という課題に、早急に取り組まねばならない」と言明。
「結果として、先進諸国が原子力市場で主導的な立場を失い、2017年以降に世界で着工された原子炉31基中、27基までがロシア製と中国製になった」と指摘している。
IEAではこのように、原子力発電所の安全性を高めその利用を支援するには、各国政府の断固とした政策が必要と考えているが、産業界側でも建設プロジェクトを予算の範囲内に収めるなど、その発電電力が競争力を持つよう上手く進めねばならない。
原子力のように大きな資本を必要とする長期資産の建設で、民間部門だけで十分な資金を調達できることは滅多になく、採用する技術の新旧に関わらず政府の財政支援が引き続き必要になると強調している。
2050年までのCO2排出量実質ゼロ化に向けIEAが設定した進路では、世界の原子力発電設備は2020年から2050年までの間に倍増させる必要があり、今世紀半ばまでに排出が抑制されるCO2の約半分は、まだ商業化されていない新しい技術によるものとなる。
その中には、出力が従来の大型炉の約3分の1(30万kW以下)という先進的原子炉「小型モジュール炉(SMR)」が含まれており、IEAはそのコストの低さやサイズの小ささ、プロジェクトリスクの低さという点から、これまでの大型炉より社会的に広く受け入れられ、民間投資が集まるかもしれないと指摘した。
SMRはまた、閉鎖された火力発電所の跡地にも建設できるため、既存の送電網や冷却水、熟練した労働力の再利用が可能。
ただし、これを長期的に建設していくには政策立案者の強力な支援が必要であり、IEAとしてはただ単に投資を促すだけでなく、規制の枠組の合理化や調整も必要と考えている。
原子力の継続利用を決めた国へのIEA勧告
これらを踏まえ、IEAは原子力を今後も活用する国の政策立案者に向けて以下の事項を勧告。
原子力を利用しない国については、その選択を尊重するとした。
・既存の原子力発電所の運転期間延長を承認し、安全性が保証される限りできるだけ長期に運転を継続する。
・CO2を排出せず、継続的に電力供給が可能という原子力発電所の長所が、公平かつ競争性を維持したやり方で補償されるよう電力市場の構造を設計する。
・新規の原子炉建設計画を支援するため、投資家と電力消費者の間でリスクを共有する枠組や、適正なコストで新設計画への投資が行われるような資金調達の枠組を創設する。
・新設計を採用したプロジェクトも含めて、建設プロジェクトの安全規制を効果的かつ効率的に進めるため、十分な財源と規制の能力を確保する。
・高レベル放射性廃棄物の最終処分場をこれから建設する国では、サイト近隣住民の合意が優先されるよう住民を交えて計画を推進する。
・低炭素な電力や熱、水素を低コストで供給可能な小型モジュール炉(SMR)の開発と建設を加速するため、実証炉計画やサプライチェーン開発への投資を支援する。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
【情報提供:原子力産業新聞】
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