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【国際】原子炉の運転期間に関する諸外国の制度の比較

2023年4月11日

 諸外国における長期運転(LTO)制度の概要

   現在、気候変動対策において、原子力の果たすべき役割にはますます関心が高まっているが、特に既設炉の運転延長が、温室効果ガス削減の方法として注目を集めている。我が国では、既存の原子力発電所を可能な限り活用することを目的として運転期間に関する新たな仕組みの整備が政府のGX実行会議等の場で検討され、2023年2月には関連法案が国会に提出されたところである。
   本稿では、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)が2019年に公表した報告書「原子炉の長期運転に関する法的フレームワーク」(以下、「NEA報告書」)に基づき、諸外国における長期運転(Long Term Operation : LTO)制度の概要を整理する。なお本稿では、LTOを、国際原子力機関(IAEA)の安全指針[※1] にならい、ライセンスにおける条件、原子炉の設計、関連する基準や規則で定義された期間を超えて原子炉の運転を行うことを意味するものとしている。
   表 1は、NEA報告書の掲載国[※2] における最初の運転期間、およびLTOでの運転期間の上限の有無を整理したものである。ここで、表内の区分については以下のとおりである。
●初回運転の期限が定められている国:最初に原子炉を運転するために発給されるライセンス等で運転期間が定められている国
●初回運転の期限が定められていない国:原子炉の運転開始時に、適用される法令上および規制上の要件を満たし続ける限り原子炉の運転を継続することが許される、時間制限がないライセンス等が発給される国
●LTOの期限が定められている国:LTOの期限が定められており、かつ、最初のライセンス等とは別個にLTOのためのライセンス等が発給される制度になっている国
●LTOの期限が定められていない国:LTOの期限が定められておらず、かつ、最初のライセンス等とは別個のライセンス等も必要ない国
など
表 1 原子炉の運転期間に関する制度の整理

 

LTOの期限が定められている国

LTOの期限が定められていない国

初回運転の期限が定められている国

アルゼンチン、カナダ、フィンランド、ハンガリー、日本、韓国、ルーマニア、ロシア、スロベニア、
スペイン、ウクライナ、米国(12カ国)

該当なし

初回運転の期限が定められていない国

ベルギー、オランダ(2カ国)

チェコ、フランス、スロバキア、スウェーデン、
スイス、英国(6カ国)

(出所)OECD/NEA “Legal Frameworks for Long-Term Operation of Nuclear Power Reactors”(2019年)に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

   表 1の整理によれば、各国の制度は、ライセンス等に期限が定められており有期のライセンス等を複数回発給する国と、ライセンス等に期限が定められておらず、定期安全レビュー等によって安全性の確認を行う国に大別できる。
   次に表 2は、表 1の「LTOの期限が定められている国」14カ国を、LTO期限、およびLTOのためのライセンス等の更新回数における制限の有無により整理したものである。LTOの期限については、10年が6カ国、20年が3カ国、個別に判断される国が4カ国等となっており、制度は様々である。一方、更新回数における制限の有無については、制限がない国が14カ国中10カ国であるのに対して、制限がある国が我が国を含め4カ国となっている。このうち、ベルギーに関しては、2019年公表のNEA報告書ではLTOは10年間しか認められていないと記載されているが、電力供給の確保等のため、政府と事業者は2023年1月に、一部のプラントの運転を2035年まで継続することで合意している[※3]。このため、LTOのためのライセンス等の更新回数に制限を設けることにより原子炉が運転可能な期間に上限を設定する制度になっている国は、少数派といえる。

表 2 LTOの期限

 

更新回数に制限がない

更新回数に制限がある

10

アルゼンチン、カナダ、韓国、スペイン

ベルギー、スロベニア

20

米国

日本、ハンガリー

10~20年

ウクライナ

該当なし

個別に判断

フィンランド、オランダ、ルーマニア、ロシア

該当なし

(出所)OECD/NEA “Legal Frameworks for Long-Term Operation of Nuclear Power Reactors”(2019年)に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

運転期限が定められていない国における制度の概要
   原子炉の運転期限が定められていない国の例として、フランスを取り上げる。フランスでは、事業者は10年ごとに原子炉の安全レビューを行い、レビュー報告書を安全規制機関である原子力安全機関(ASN)または担当大臣に提出することが求められている。また、事業者は、必要な場合、安全レビューの結果必要と判断された措置についてまとめた報告書も提出することになっている。ここで、運転期間が35年を超える原子炉の場合、この事業者が必要と判断した措置に対して、公衆協議を経てASNの承認(NEA報告書の表記では”authorisation”)が必要とされる。ただしこの承認は、原子炉の運転継続自体に関するものではなく、事業者が必要と判断した措置のみに関わるものである。

ライセンス等に期限が定められている国における制度の概要
a.米国
   ライセンス等に期限が定められている国の例として、米国を取り上げる。米国では、最初の原子炉運転ライセンスは最長40年となっている。また、運転期間を最長20年間延長できるライセンスの更新が可能であり、ライセンスを更新できる回数に制限は設けられていない。ライセンス更新申請に当たっては、統合プラント評価、期間限定経年劣化解析および経年劣化管理プログラムという評価等を含む申請書を提出し、原子力規制委員会(NRC)による審査を受けることが義務付けられている。
   最初のライセンスの40年という期間は、連邦法により設定されている。NRCは、この期間は経済的な要因や独占禁止の観点から設定されたものであり、技術的な観点から設定されたものではない。なお、更新ライセンスの20年という期限は、連邦法ではなくNRCの規則によって定められたものである。

b.日本
   日本では、2012年の原子炉等規制法改正により、原子炉の運転期間は、初めて使用前事業者検査の確認を受けた日から40年と定められている。また、運転期間は、原子力規制委員会の認可を受けて、1回に限り延長することができ、その期間は20年を超えてはならないことも規定されている。延長申請に当たっては、原子炉圧力容器やコンクリート構造物等の劣化状況を把握するため詳細な点検である特別点検の結果、劣化状況の評価結果および施設管理方針をまとめた資料を提出することとなっている。
   なお、運転期限の上限の設定に関して、原子力規制委員会は2020年7月、「現行制度における運転開始から40年という期間そのものは、…(中略)…立法政策として定められたもの」であり、「発電用原子炉施設の利用をどのくらいの期間認めることとするかは、原子力の利用の在り方に関する政策判断にほかならず、原子力規制委員会が意見を述べるべき事柄ではない」との見解を公表している[※4]
   政府は、2023年2月に、運転の延長期間は20年を基礎としつつ、事業者が予見しがたい事由による停止期間を考慮した期限に限定するとした法案を国会に提出している。

まとめ
   以上、原子炉の運転期限が定められているか否かによって、各国の制度を2類型に整理した。
   フランスでは、原子炉の運転期限は定められていないが、10年ごとに安全レビューが求められ、また運転期間が35年を超えた場合には安全レビューの結果必要と判断された措置についてまとめた報告書に対する規制機関の承認が必要とされる。よって、いずれの類型でも、35年や40年といった期間を一つの節目として、LTOの安全性を確認しているということができる。
   一方で、長期運転により原子炉の安全性が低下する可能性がある、あるいはそうしたことが科学的に確認されているという理由で、運転期限を定めている国は確認できなかった。原子炉の運転可能な期間に上限を設定するとすれば、それは引用した原子力規制委員会の見解にあるとおり「政策判断」に基づくということになるだろう。

[※1]IAEA “IAEA SAFETY STANDARDS SERIES No. SSG-48 AGEING MANAGEMENT AND DEVELOPMENT OF A PROGRAMME FOR LONG TERM OPERATION OF NUCLEAR POWER PLANTS” (2018年)
https://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/P1814_web.pdf
[※2]掲載国は、NEA加盟全34カ国中の24カ国と、非加盟国のウクライナ。なお、NEA報告書に掲載されているが、現在運転中の原子炉が存在しない等の理由で表1には掲載されていない国が5カ国ある(ドイツ、イタリア、ポーランド、ポルトガル、トルコ)。
[※3]運転継続で合意したチアンジュ3号機とドール4号機はともに1985年に運転を開始しているので、2035年まで運転を継続すれば60年間運転することとなる。
[※4]NEA報告書によれば、ハンガリーとスロベニアでも、日本と同様に原子炉の運転可能な期間に上限が設定されているが、どのような根拠で期限を設定しているのかは確認できていない。

参考文献
a.OECD/NEA “Legal Frameworks for Long-Term Operation of Nuclear Power Reactors”(2019年)
https://www.oecd-nea.org/law/pubs/2019/7504-long-term-operation-npp#:~:text=Legal%20Frameworks%20for%20Long-Term%20Operation%20of%20Nuclear%20Power,of%20decisions%20to%20authorise%20or%20approve%20the%20long-term
b.NRC “Backgrounder on Reactor License Renewal”(2023年3月8日閲覧)
https://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/fact-sheets/fs-reactor-license-renewal.html
c.三菱総合研究所 “原子力発電所の運転期間に上限を設定する意味とは”(2023年3月8日閲覧)
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20221122_2.html

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