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【国際】諸外国における小型炉・先進炉の研究開発動向~政府の支援も受け進む実用化の取り組み~
2023年4月21日
はじめに
革新炉の開発については、我が国でも政府による検討やプラントメーカーによる研究開発等が進められてきており、2023年2月に取りまとめられた「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」では、「エネルギー基本計画を踏まえて原子力を活用していくため、原子力の安全性向上を目指し、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む」ことがうたわれている。
一方国際的には、すでに中国やロシアで小型モジュール炉(SMR)と位置づけられるプラントの運転がはじまる等、我が国より一歩先を行く取り組みが進められている。諸外国における小型炉・先進炉の研究開発動向については、昨年も一度まとめているが[※1] 、本稿では昨年以降の動きを中心に、これから革新炉開発を具体化していく我が国にとって参考となるような各国の革新炉開発状況等を整理する。
北米と欧州の動向
表1は、北米と欧州でSMRの開発や建設の動きがある国について、政府の支援や、プラントの設計・開発と建設に関する動きをまとめたものである。
表1 各国におけるSMRに関連する政府の動きや開発や建設に関する動き
以下に主要国・地域の動向を整理する。
米国
米国は、93基のプラントが稼働し発電電力量では世界一の原子力国であるものの、現在建設中のプラントは大型炉であるボーグル原子力発電所4号機の1基(AP1000)のみである。こうした状況下にあるものの、原子力に対して超党派的な支持が得られている。米国エネルギー省は、原子力の拡大をバイデン政権が力を入れる気候変動対応の有力な対策の一つとしてとらえており、既設炉のほか、電力供給のみならず熱利用や水素製造等も見込んで、SMRの研究開発や実用化を積極的に支援している。
プラントの開発は、ニュースケール社やXエナジー社といった新興企業に加えて、沸騰水型炉(BWR)の開発や建設で実績を有するGE日立ニュークリア・エナジー社(GEH社)も、BWRX-300の開発を進めている。ニュースケール社のVOYGRは、SMRではじめて原子力規制委員会の設計認証を取得しているため、許認可プロセスがほかの炉型に比べてスピーディーに進むと考えられる。そのほか、廃止措置等に強みを持つホルテック社は、廃止措置後のサイトにおける建設も念頭に、SMR-160の開発を進めている。
実用化に向けては、自治体の電気事業者に対する電力供給を目的としたアイダホ国立研究所サイトにおけるVOYGR建設プロジェクトが最も進んでおり、資機材の発注等も進められている。また、化学大手のダウケミカル社が、電気や熱の供給に向けXエナジー社のXe-100建設を検討している。ダウケミカル社を含め、多くの企業がカーボンニュートラルを誓約しているが、同社の事例は温室効果ガスを排出しないエネルギー源としての原子力の先駆的活用事例の一つとも位置付けられる。
カナダ
カナダでは、現在運転中の19基のプラントはすべてカナダ型重水炉(CANDU炉)だが、増設計画はない。しかし、既設炉を有する州では原子力は引き続き重要なエネルギー源ととらえられており、また現在原子力発電を行っていない州でもSMRの導入に向けた動きが進んでいる。カナダでは、連邦政府が自ら主導して2020年12月にSMRの実用化に向けた計画である「SMRアクションプラン」を策定しており、発電炉、放射性廃棄物の減量、遠隔地のエネルギー供給の3つの経路での活用計画が進んでいる。カナダの複数のメーカーがSMRの開発を進めているほか、建設に向けた取り組みも最も進んでいる国の一つである。
発電炉としては、大型炉が運転中のオンタリオ州・ダーリントン原子力発電所サイトで、オンタリオ・パワージェネレーション社がBWRX-300の建設を決定しており、早ければ2028年の運開に向けて、2022年10月に同社は建設許可申請書をカナダ原子力安全委員会へ提出している。BWRX-300は、オンタリオ州に続いてサスカチュワン州でも採用されることが決定している。放射性廃棄物の減量を目的とした技術開発は、カナダのプラントメーカーであるARC社とモルテックス・エナジー社が進めている。遠隔地のエネルギー供給のためのSMRの導入目標時期は2026年ごろと今から約3年後に設定されており、米国のウェスティングハウス社とウルトラ・セーフ・ニュークリア社が、カナダの企業とも協力してマイクロ炉の実用化に向けた取り組みを進めている。
カナダ原子力安全委員会は、設計をレビューし、開発者にフィードバックを与える許認可前ベンダー設計レビューを実施している。この設計レビューの実施を申請した11のプラントのうち、カナダ企業のものは2つのみであり、カナダの取り組みが国際的なSMRの実用化を促進しているという面もある。
英国
英国では、現在運転中の9基のプラントのうち8基がガス炉、1基が加圧水型炉(PWR)であるが、現在2基の欧州加圧水型炉(EPR)の建設が進んでいる。英国政府は、気候変動対策やエネルギーセキュリティの確保等の観点から、大型炉やSMRの開発と実用化を推進していくこととしている。
英国では、政府が水素製造における高温熱利用等を目的として、高温ガス炉を中心として開発を支援しており、2030年代初頭までの高温ガス炉実証を目指して「新型モジュール炉(AMR)研究開発・実証プログラム」が進められている。同プログラムは、プレ概念設計を支援するフェーズAと、予備調査を支援するフェーズBで進められるが、フェーズAでは日本原子力開発機構や現地企業が参画している国立原子力研究所のチームが、2022年9月に支援対象として選定されている。製造業大手のロールスロイス社は、PWRをベースにUK SMRの開発を進めている。なお、英国ではプラントの建設に先立ち一般設計評価と呼ばれる設計の認証プロセスが必要だが、UK SMRの一般設計評価は2022年4月に開始され、また米国のGEH社やホルテック社も自社の設計についてこの評価受けることとしている。
実用化に向けては、既に廃止された原子力発電所サイトを所有している原子力廃止措置機関がUK SMRの建設サイトの絞り込みを進めている。また、英国カンブリア州のソルウェイ・コミュニティ電力会社が2022年11月、建設するSMRとしてUK SMRを選定したことを公表している。
フランス
フランスは、56基のプラントが稼働しており、発電電力量に占める原子力の割合が世界で最も高く、現政権は原子力と再生可能エネルギーをエネルギーの2本柱に据える方針を示している。マクロン大統領は2021年10月に投資計画「フランス2030」を発表し、SMR等革新炉に2030年までに10億ユーロを投じることを表明した。2022年2月の大統領演説では、既設炉の運転延長や大型炉の新設と並んで小型炉開発の方針が打ち出されており、フランス電力(EDF)等が国産SMRであるNUWARDの開発を進めている。また、NUWARDの設計に関するレビューについてフランス、フィンランド、およびチェコの規制機関が協力することになっている。EDFは現在、フランスの18カ所のサイトで原子力発電所を運転しているが、NUWARDの建設サイト選定等実用化に向けた具体的な取り組みは確認できていない。しかしながら、2023年3月にEDFは、NUWARDの開発のために子会社を設立し、2030年にはフランス国内で建設を開始する意向を表明している。
東欧
東欧諸国では、ロシアのウクライナ侵攻を背景としたエネルギーセキュリティの確保や、地球温暖化対策を目的として、原子力の導入や拡大に向けた動きが多くの国でみられている。
ポーランドには、現在運転中の原子力発電所はないものの、エネルギーの多くを石炭に頼る中、原子力は将来の重要なエネルギー源ととらえられている。2021年2月に閣議決定された「2040年までのエネルギー政策」では、大型炉について2033年に初号機の運転を開始し、以降2~3年間隔で2043年までに計6基を建設する原子力発電の新規導入計画が示された。2022年11月には、ウェスティングハウス社のAP1000を3基建設することが閣議決定されている。大型炉以外にも、日本原子力研究開発機構との協力による高温ガス炉の開発が進行中であるほか、エネルギー多消費産業の企業がSMR建設の検討を進めている。化学企業のシントス社等はGEH社のBWRX-300、銀・銅の採掘企業であるKGHM社はVOYGRの導入計画を進めている。
ルーマニアでも、国内で2基のCANDU炉を運転している国営ニュークリアエレクトリカ社がSMR建設計画を進めている。これは、ドイチェシュティの石炭火力発電所の跡地にSMRを建設するものであり、同社はこのサイトの所有者と合弁企業を設立し、VOYGRの導入を計画している。
ルーマニアのプロジェクトに対しては、米国政府が輸出入銀行からの資金提供等の支援を行っている。また、ニュークリアエレクトリカ社とポーランドのKGHM社は、VOYGRの建設における協力のための覚書を締結している。
北欧
スウェーデンでは、大型炉6基が運転中であるが、原子力を推進する現政権の方針も背景に、大型炉の運転を行っているヴァッテンファル社が、既存発電所サイトにおけるSMRの建設に関するフィージビリティスタディを開始した。また、スウェーデン王立工科大学からのスピンオフとして設立されたレッドコールド社は、溶融鉛炉SEALERの開発を進めている。
エストニアでは2020年11月に政府によってSMR導入を検討するワーキンググループが設置され、原子力発電の導入について検討が進められている。同国のフェルミ・エネルギア社は、各種のSMRの炉型を検討してきたが、2023年2月にBWRX-300を選定したことを公表した。したがって、エストニアで原子力の導入が決定された場合には、BWRX-300が建設されると想定される。
まとめ
以上の整理から抽出できる目立った動きとして、以下のような点が挙げられる。
●原子力発電の実績がある国もそうでない国も、気候変動対策やエネルギーセキュリティが課題となる中、エネルギー源としての原子力に注目し、開発や実用化を支援している。
●既設炉で実績のあるメーカーのほか、新興企業等多くの企業・組織がSMRの開発に参画している。
このように、国際的に小型炉や先進炉の実用化に向けた動きが進んでいる。その背景には、政策の策定、経済的な支援、国の事業者や研究機関の関与等、様々な政府の支援が背景にある。我が国では日本原子力開発機構が、ポーランドにおける高温ガス炉開発に協力しているほか、英国では国立原子力研究所や企業との協力の下、政府による開発支援プログラムに参画している。今後は民間企業も含め、我が国でも次世代革新炉の開発が本格化することとなる見込みだが、世界の動向を把握し、官民の役割分担を整備しつつ、我が国の状況に応じた開発・導入を検討していくことが必要であろう。また、小型炉や先進炉は、各国で単にエネルギー源としてのみならず、原子力技術の継承や人材育成の手段ともとらえられている。我が国でも、人材育成やサプライチェーンの維持は大きな課題であり、革新炉開発を通じてこれらの課題に対応していくことが重要である。
[※1] 株式会社三菱総合研究所「諸外国における小型炉・先進炉の研究開発動向」(2022年4月26日)
https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_topics/__icsFiles/afieldfile/2022/04/26/20220426.pdf
参考文献
a. OECD/NEA “The NEA Small Modular Reactor Dashboard”(2023年)
https://www.oecd-nea.org/jcms/pl_78743/the-nea-small-modular-reactor-dashboard
b. World Nuclear Association “World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements”(2023年3月)
https://www.world-nuclear.org/information-library/facts-and-figures/world-nuclear-power-reactors-and-uranium-requireme.aspx
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