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【カナダ】 カナダにおける原子力発電の状況~温室効果ガス排出ネットゼロ実現に向けSMR実用化競争で世界のトップ集団に~

2023年7月13日

はじめに 
   カナダでは、2050年までの温室効果ガス排出ネットゼロ目標を掲げた法律が2021年に成立した。電力部門では、2035年までの温室効果ガス排出ネットゼロ達成が目標とされており、これらの目標の達成に向け原子力の積極的な活用が図られている。大型炉は1970年代から運転を開始し、現在ではカナダ全土で全発電電力量の13%をまかなっており、小型モジュール炉(SMR)でも既にオンタリオ州・ダーリントン原子力発電所サイトで建設に向けて許認可手続きが開始されている。世界全体で見ると、SMRはロシアの海上浮揚式原子力発電所と中国の高温ガス炉が運転を開始しており、米国ではニュースケール社製のプラントに対して原子力規制委員会(NRC)が設計認証を発給している。このため、カナダはすでにSMRが運転を開始している中ロに続き、米国と並んで実用化に向けた競争で世界のトップ集団に位置しているといえる。
   本稿では、カナダにおける原子力積極活用の背景をまとめたうえで、既設炉の運転延長、SMRの開発と実用化、および放射性廃棄物の管理・処分のそれぞれについて、カナダにおける事業の概要を整理し、最後にわが国にとって参考になる点を検討する。

カナダにおける電気事業の概要:原子力積極活用方針の背景
   連邦制国家のカナダでは、ネットゼロ達成等の国としての目標・方針は連邦法や連邦政府が定め、どのようにネットゼロを実現するか等の目標や方針を具体化する方法を州や準州の政府が決定している。電源ポートフォリオは州によって大きく異なっており、13の州・準州のうち、5州で発電電力量に占める水力発電の割合が8割を超えているが、水力資源に乏しいオンタリオ州とニュー・ブランズウィック州では原子力発電が実施されている。また、サスカチュワン州とアルバータ州では、水力資源に乏しいうえに原子力発電も実施されておらず、天然ガス火力発電や石炭火力発電が中心である。
   図1は、カナダ全体と、SMRの導入に向けた取り組みを進めている上記の4州(オンタリオ州、ニュー・ブランズウィック州、サスカチュワン州、アルバータ州)の2020年における電源別発電電力量割合を示したものである。カナダ全体で見ると、水力が6割以上を占め、原子力発電は13%、火力発電(天然ガス・石炭)は20%未満となっている。原子力発電を行っているオンタリオ州とニュー・ブランズウィック州は、既設炉の運転延長やSMRの導入により、さらなる温室効果ガス排出削減を目指している。サスカチュワン州とアルバータ州は、SMRの導入によって温室効果ガスの排出削減を図ろうとしている。なお、サスカチュワン州では現在原子力発電は実施されていないが、同州には、現在カナダで操業中の唯一のウラン鉱山が立地している。

図1 カナダの地図、およびカナダ全体とSMRの導入に向けた取り組みを進めている
4州の電源別発電電力量割合
(2020年、括弧内の数字は同年の合計発電電力量)
Map by FreeVectorMaps.com", https://freevectormaps.com
州名はエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて記載
グラフの出所:カナダエネルギー規制局、”Canada’s Energy Future 2021”に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

既設炉の運転延長
   カナダでは、オンタリオ州で18基、ニュー・ブランズウィック州で1基のカナダ型重水炉(CANDU炉)が運転中であり、それぞれの州で6割弱と4割の電力を賄っている。
   オンタリオ州の長期エネルギー計画では、温室効果ガスを排出しないベースロード電源を最も費用対効果の高い形で確保するために、原子力発電所を運転延長する方針が示されている。具体的には、ダーリントン、ブルース両原子力発電所のプラント(計10基)の運転延長に向けた改修プログラムが進んでおり、既に一部のプラントは改修を完了して運転を再開している。改修により、ダーリントン原子力発電所は2055年、ブルース原子力発電所は2064年までの運転継続が計画されている。両発電所でどのプラントが最も長く運転を継続する計画であるかは示されていないが、ダーリントン原子力発電所で最も運転開始が早い1号機が2055年まで運転すれば65年間、ブルース原子力発電所で最も運転開始が早い2号機が2064年まで運転すれば88年間運転することとなる。

SMRの開発と実用化~連邦政府、州政府、企業の協力により実用化競争で世界のトップ集団に
   カナダでは、連邦政府が主導して2018年11月にSMRの開発に向けたロードマップが策定された。そのほか、連邦政府は表1のとおり、SMRの開発と実用化を支援する取り組みを進めている。
表 1 SMRの開発と実用化に向けた連邦政府の取り組み

出所:各種資料に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

   連邦政府の取り組みも背景に、2019年にはオンタリオ州、ニュー・ブランズウィック州、サスカチュワン州の3州の間で、SMRの開発と実用化の加速に向けた協力覚書(MOU)が締結された(2021年にはアルバータ州も締結)。その後、連邦政府は2020年12月にはSMRの実用化に向けて、連邦や州の政府、電気事業者、ベンダー等の当事者が進めるべき取り組みを示した行動計画を策定し、SMRの用途として次の3点を提示した。
   ① 発電利用
   ② CANDU炉で発生する使用済燃料の再利用
   ③ 遠隔地における熱や電力の供給

   以下に、①、②、③の各用途のSMRの導入計画について州ごとに整理する。
<オンタリオ州>
   オンタリオ州では、OPG社がダーリントン原子力発電所サイトで①発電利用のために米国のGE日立ニュークリア・エナジー(GEH)社が開発しているSMRを建設することとしており、2022年10月にはカナダ原子力安全委員会(CNSC)に対して建設許可申請書を提出している。連邦政府は、政府系金融機関であるカナダインフラ銀行を通じてOPG社に対して9億7,000万カナダドル(約960億円)の低利融資を行っており、これは同社が建設に向けた取り組みを具体化するのを後押ししたものと考えられる。同社は融資契約締結後の2023年1月に、SMRを提供するGEH社や建設会社等と、建設に向けて契約を締結している。また、オンタリオ州ではこのほかに、③遠隔地における熱や電力の供給として米国のウェスティングハウス(WH)社、およびウルトラ・セーフ・ニュークリア社が開発を進めているマイクロ炉の建設計画も進められている。
<ニュー・ブランズウィック州>
   ニュー・ブランズウィック州では、②CANDU炉で発生する使用済燃料の再利用のために、同州に拠点を構えるARC社およびモルテックス・エナジー社の2社がそれぞれ開発を進めているSMRの導入計画が進められており、連邦政府と州政府は両社に資金支援を行っている。
<サスカチュワン州>
   サスカチュワン州もオンタリオ州に続く形で、①発電利用目的としてGEH社のSMRを導入する計画である。オンタリオ州に続くことで、同州の建設プロジェクトで得られた経験や知見を活用し、効率的に導入を進めていくことにしている。
<アルバータ州>
   アルバータ州は、まだ具体的なSMR導入計画を策定していないが、同州はオイルサンドの世界的な産出地であり、採掘のプロセスにおいて必要となる熱の発生のために多くの温室効果ガスが排出されていることから、その削減のためにSMRの活用を検討している。

   表2は、4州において導入が計画されているSMR等の情報を整理したものである。

表 2 SMRの導入を進める4州の概要

出所:各種資料に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

放射性廃棄物の管理・処分
   カナダでは、CANDU炉で発生した使用済燃料は再処理せず地層処分する計画である。処分事業の実施主体として、OPG社やNBパワー社等の原子力発電を行っている事業者により核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立されており、現在地層処分場の立地選定を進めている。2010年に開始された地層処分場の立地選定では22カ所の自治体がプロセスに関心を表明し、現在は2カ所の自治体に絞り込まれ、2024年には1カ所の好ましい立地が選定される予定である。カナダにおける立地選定プロセスにおいて特徴的な点として以下の点が挙げられる。
国民・住民との対話:カナダでは、使用済燃料を地層処分するという方針や地層処分場の立地選定プロセスの決定において国民と、そして自治体の関心表明の後は関係する自治体の住民と、積極的に対話を行っている。
立地選定への参画や住民の学習に対する評価と支援:NWMOは、関心を表明した自治体の住民による学習等の取り組みに対して資金支援を行ってきた。また、立地選定プロセスで除外された自治体に対しても、プロセスに対する協力を評価して、福祉向上等を目的として資金を提供している。
住民との関係も考慮に入れた絞り込み:カナダでは、多くの自治体が関心を表明したこともあり、自治体の絞り込みでは、技術的な評価のみならず住民と良好な協力関係を構築できるかどうかも考慮に入れている。

   カナダでは、低中レベル放射性廃棄物は現在中間貯蔵しており、NWMOも参画して処分方策の検討が進められている。このように、カナダにおける放射性廃棄物の管理・処分事業ではNWMOが重要な役割を担っているが、2023年3月に連邦政府は、放射性廃棄物の管理と廃止措置に関する政策を策定した。このなかでは、政策の遂行に対して連邦政府が責任を負うことが明確に述べられている。

まとめ
   以上、整理したようにカナダでは、温室効果ガス排出ネットゼロに向けて、既設炉の運転延長やSMRの導入に向けた動きが活発となっている。原子力発電の実施を決定し進めるのは州政府および州営電気事業者であるが、SMRの開発と実用化では連邦政府が積極的に主導し、支援している。これは、事業予見性の向上や資金負担面でのリスクの低減等を通じて、実用化への取り組みを促進していると考えられる。また、カナダが国としてSMRの導入を着実に進めていくことは、ベンダーやサプライチェーンを構成する企業にとって安定した市場としての魅力を高める効果を持つ。
   わが国も、2050年カーボンニュートラルに向け、2021年の第6次エネルギー基本計画では原子力について必要な規模を持続的に活用していく方針が示され、その実現に向けてGX実行会議等の場で議論が進められてきた。わが国が取り組みを進めていくにあたって、カナダの以下のような点が参考になる。
●州の長期エネルギー計画において既設炉の長期的な利用方針を定め、それに則り運転延長のための取り組みを進めていること
●SMRの開発と実用化に向け、連邦政府がロードマップや行動計画の策定を主導するとともに、融資等を通じて支援を行っていること
●また、連邦政府主導のもとロードマップの策定には州政府や州の電気事業者、ベンダー等の関係組織が参画し、さらに行動計画では、各組織が進めるべき取り組みが具体的に示されていること
●放射性廃棄物の管理・処分では、事業者が設立した組織が中心に進めつつも、連邦政府が責任を負うことが明確化されていること

[*1]ここで記載している税控除は、連邦政府の2023年予算案で公表されているものであり、まだ確定はしていない。
[*2]オンタリオ州、ニュー・ブランズウィック州、サスカチュワン州の3州で挙げた電気事業者は、SMRに関する行動計画に基づきSMRの導入を担当する事業者であるが、アルバータ州についてはSMR導入を進める電気事業者は現状特定されていない。

【参考文献】
●カナダ小型モジュール炉(SMR)運営委員会、“A Call to Action: A Canadian Roadmap for Small Modular Reactor”(2018年)
https://smrroadmap.ca/wp-content/uploads/2018/11/SMRroadmap_EN_nov6_Web-1.pdf
●SMR行動計画ウェブサイト(2023年5月12日閲覧)
https://smractionplan.ca/
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