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新たに原子力発電を導入する国々の動向とその背景

2023年12月6日

 はじめに
   温室効果ガスの排出削減目標達成や電力需要の増加見通し等を背景に、新たに原子力発電の導入を決定する国が増えている。

   本稿では、まず原子力発電導入計画を有する国の概要をまとめる。そのうえで、いくつかの国を取り上げて資源やエネルギー・電力供給の状況や原子力発電の導入を計画した背景、計画の現状を整理し、最後にこれらの国々の事例から、わが国にとって参考になる点を考察する。

原子力発電新規導入国の概要

   表1は、世界原子力協会(WNA)がまとめている「世界の原子炉およびウランの必要量」から、近年新たに原子力発電を導入した国や、建設中またはベンダーの提案を受け検討中のプラントがある国について、概要や原子力発電導入に関する経緯等をまとめたものである。
表1 原子力発電導入計画がある国の概要と経緯

 

略語  EDF:フランス電力  CNNC:中国核工業集団公司  KHNP:韓国水力原子力  WH:米ウェスティングハウス社
GEH:米GE日立ニュークリア・エナジー社  KEPCO:韓国電力公社
出所:世界原子力協会(WNA)”World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements”(2023年8月)等に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

    以下、原子力発電新規導入国のうちエネルギー自給率の高い国としてアラブ首長国連邦(UAE)、低い国としてトルコ、また小型モジュール炉(SMR)を含め原子力発電の導入に向けた動きのある国としてポーランドを選定し、導入の背景や最近の動向を整理する。

<UAE~豊富な化石資源を有するも原子力発電を導入>
   2021年時点で総発電電力量の8割以上を天然ガス火力発電で賄っている。しかしながら、高い経済成長が見込まれるなか、2007年に政府が実施した調査で以下の点が指摘されている。
●国内における発電のために利用できる天然ガスのみでは、将来の電力需要を賄うことができない。
●石油等の液体化石燃料による発電は、可能であるがコスト面や環境面で負担が大きい。
●石炭火力発電は安価な発電手段となりうるが、環境面で受け入れることができず、また供給安定性の観点から脆弱である。
●再生可能エネルギー等の導入は望ましいが、得られる電力は2020年時点で必要となる総発電量の6~7%に過ぎない(この割合はのちに4%に引き下げられている)。

    こうした検討を踏まえ、UAEでは原子力発電を導入する方針が2008年に決定された。UAEは2030年までに、発電による温室効果ガスの排出量を、追加的な対策を講じなかった場合と比較して54%削減するとの目標を提示している。
    首長国原子力会社(ENEC)と韓国水力原子力(KEPCO)が2009年に4基のAPR1400をバラカサイトで建設する契約を締結、2012年の着工後順調に建設が進み、初号機は2020年に運転を開始した。また、2号機は2021年、3号機は2022年に運転を開始している。さらに4号機は、2023年6月に運転開始に向けた準備を開始している。
    建設プロジェクトでは、UAE・韓国両国の政府や政府系金融機関が投融資を行い、資金確保体制を構築している。また、売電収入の管理等のためにENECとKEPCOが共同で設立したBarakah One社は、アブダビ水・電力会社(ADWEC)との間でバラカ原子力発電所の発電電力を固定価格で販売する電力販売契約を締結している。
   UAEはこれまで原子力発電所の運転経験がなかったため、バラカ原子力発電所の運転会社として設立されたENECの子会社のNawah Energy社が韓国水力原子力(KHNP)と運転支援を受ける契約を締結した。また、Nawah Energy社はフランス電力(EDF)とも、運転や保守で長期的に支援を受けるための契約を締結している。さらに、2023年7月にNawah Energy社は、サプライチェーンの強化やバラカ原子力発電所の運転における安全性向上に向け、東芝エネルギーシステムズ社と覚書を締結している。

<トルコ~エネルギー安全保障の確保や経済成長の実現に向け1970年代から原子力発電導入を計画>
   トルコは天然資源に恵まれておらず、天然ガス等のエネルギー源のほとんどを輸入に頼っている。2021年の電源構成は天然ガスが33%、石炭が32%、水力が17%となっており、残りの約17%を太陽光や風力等の再生可能エネルギーが占めている。同国は、2030年までに、2012年比で温室効果ガス排出量を41%削減し、2053年までに温室効果ガス排出ネットゼロを実現する目標をかかげている。
   トルコでは、エネルギー安全保障の確保や経済成長の実現のために、1970年代から原子力発電の導入が検討されてきたものの、経済事情等により実現は遅れていた。しかしながら2010年に、トルコはロスアトムを中心とするロシア企業に対して1カ所目の原子力発電所としてアックユサイトでの建設プロジェクトを発注することを決定した。同原子力発電所では2018年以降、4基のプラントの建設が進められている。同プロジェクトは、原子力発電所建設では初となる建設・所有・運転(BOO)方式で運営されており、ロスアトム等の出資により設立されたアックユ原子力発電会社は、設計・建設のみならず、プラントの運転や廃止措置も担うこととなっている。アックユ原子力発電会社のトルコ人原子力発電所職員は、ロスアトムの施設で訓練を受け、発電所に配属されることになっている。また、運転を開始したあとは、同発電所で発電された電力を一定期間、固定価格で販売する制度が整備されている。
   2カ所目となるシノップ原子力発電所の建設に向けて、日本とトルコの両政府が2013年5月に、三菱重工業とGDFスエズ社(現エンジー社)を中心とする日仏連合に優先交渉権を与える協定に署名した。その後、実行可能性調査等が進められたものの、現在日仏連合によるシノップ原子力発電所の建設は進められていない。こうしたなか、エルドアン大統領はシノップに加えて、3カ所目の原子力発電所建設に向け準備を進めることを表明している。3カ所目の原子力発電所建設には中国企業が関心を示しているほか、2023年1月には、韓国のKEPCOが4基のAPR-1400をトルコ北部に建設する提案を同国政府に対して行っている。

<ポーランド~電源の多様化やCO2排出削減等を目的として原子力発電の導入を計画>
   ポーランドは石炭資源が豊富であり、2021年時点で総発電電力量の約7割を石炭火力発電で賄っている。
   ポーランドでは、社会主義時代の1980年代半ばに原子力発電所の建設が進められたが、1986年のチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所事故の影響で反対運動が高まったことを背景に、このプロジェクトは1991年に中止された。その後、政府は2005年に、電源の多様化とCO2排出削減の観点から、2020年をめどに原子力発電の導入を目指す方針を決定した。2020年までの原子力発電導入は実現しなかったものの、この決定のあともロシア産天然ガスへの依存低減、高い電力需要の増加見通しや再生可能エネルギーのみでは需要を賄いきれないことといった理由から、原子力発電導入の方針は維持され、建設サイトや採用するベンダーの選定が進められてきた。
   2021年12月には、原子力発電導入計画を進めているポーランド原子力発電会社(PEJ)が、バルト海沿岸のルビャトボ・コパリノを、最初の原子力発電所の優先建設サイトに決定した。また、翌2022年11月には政府が、最初の3基の原子炉として米ウェスティングハウス(WH)社のAP1000を採用することを決定した。なおポーランドでは、このほかに現地の民間エネルギー企業等と韓国KHNPの協力による大型炉建設計画や、複数のSMRの導入計画も進められている。2023年4月には、SMR導入計画を進める米国のニュースケール社およびGE日立ニュークリア・エナジー(GEH)社の2社に対して、米国の政府系金融機関がそれぞれ40億ドルずつ支援する意向を示している。また、米国政府は、ポーランドに人材訓練のための施設を建設する意向である。

まとめ
   以上を踏まえ、わが国にとって参考になる点を考察する。まず、表1からは、エネルギー自給率が高い国も含め、エネルギー安全保障や電力供給、CO2排出削減や化石燃料の燃焼に伴う環境への悪影響の防止等を考慮して原子力発電の導入を進めていることが確認できる。そのなかでも、バングラデシュやトルコ、ポーランドは、半世紀ほど前には原子力発電導入の検討を開始しており、検討開始から現在に至る期間に、外部環境は変動したものの、原子力の必要性は依然として変化していないと考えられる。このことは、電力やエネルギー政策の立案には長期的な視点が必要であることを示しているように思われる。
  わが国はエネルギー自給率が10%程度と表1にまとめた国々と比較しても低いため、電力の安定供給、エネルギー安全保障の確保やカーボンニュートラル実現といった観点から原子力発電を有効に活用していくことの必要性は高いといえよう。なお、UAEとトルコでは原子力発電の売電収入が固定価格で買い取られることとなっており、こうした制度は運転会社の安定した収益の確保のみならず、建設時の金利負担の抑制にもつながると思われる。
   次に、新規原子力発電導入国の拡大は、わが国の企業にとってビジネスチャンスととらえることもできる。新規導入国は豊富な原子力発電所の運転経験をもつ国の知見や人材を必要としている。また、トルコでは早くから原子力発電の導入が計画されていたものの、資金確保における困難に直面したが、ロシアによるBOO方式での契約は建設資金確保の一助になったものと考えられる。その他、韓国政府はUAEに、米国政府はポーランドに対して資金面での支援を行っており、わが国も政府系金融機関の活用を含め、資金支援も行うことで事業者の海外展開を後押しできるのではないだろうか。
   最後に、ポーランドはSMRの導入を検討しているが、わが国と出資等で関係を有する米国企業がベンダー候補となっている。これらのベンダーが受注を決めれば、わが国の企業がサプライチェーンに食い込む可能性が高まるだろう。わが国の企業が高い技術力を有する資機材等を輸出できれば、わが国における技術力や人材の維持と技術の継承、輸出先国における原子力安全の向上等さまざまなメリットが得られると思われる。

[1]エネルギー自給率は、国際エネルギー機関(IEA)の2023年発行”World Energy Balances”より、2021年の当該国の自国におけるエネルギー生産量をその国の総エネルギー供給量で除して算出している。

【参考文献】
●世界原子力協会(WNA)ウェブサイト、“World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements” (2023年11月8日閲覧)
https://www.world-nuclear.org/information-library/facts-and-figures/world-nuclear-power-reactors-and-uranium-requireme.aspx
●国際原子力機関IAEA、”Power Reactor Information System (PRIS)” (2023年11月8日閲覧)
https://pris.iaea.org/pris/
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