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【国際】IAEA「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」2023年版を公表 ~2050年の原子力発電設備容量見通しの上方修正は3年連続~
2024年1月4日
●IAEAは2050年の原子力発電設備容量見通しを3年連続で上方修正。
●『2023年版予測』の高位ケースにおける2050年の原子力発電設備容量見通しは890GW。上方修正の主な要因は、各国エネルギー政策における原子力の見直しや、小型モジュール炉(SMR)の開発拡大。
●IAEAのグロッシー事務局長は、原子力と再生可能エネルギーを対立項とみなす言説は間違いであるとした上で、原子力が公平な競争の場に立つには、科学、事実、理性に基づき、特定の技術にとらわれない視点から意思決定がなされる必要があると強調。
はじめに
2023年11月30日に開幕した国連気候変動枠組条約第28 回締約国会議 (COP28)では、3日目となる12月2日の世界気候行動サミットにおいて、原子力発電の設備容量を2050年までに2020年比3倍とすることをめざす宣言が米国等の主導で発表され、日本を含む22カ国がこれに賛同した。国際機関の将来見通しでも近年、原子力発電の増加傾向が予測されている。
本稿では、こうした国際機関見通しを代表する将来予測として、国際原子力機関(IAEA)が2023年10月に公表した、『2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測』の2023年版(以下、『2023年版予測』)の概要をまとめる。その上で、国際エネルギー機関(IEA)が同月に公表した別のエネルギー見通しにもふれ、電力供給全体における原子力の位置づけを巡る動向について考察する。
『2023年版予測』の概要
IAEAは1981年から毎年継続して電力および原子力発電に係る中長期見通しを公表しており、『2023年版予測』はシリーズ第43版となる。IAEAによれば、同レポートにおける予測は国毎のプラントの運転状況、運転認可の更新、閉鎖の計画、新設プロジェクトなどのデータを積み上げて作成されたものであり、原子力発電の利用に関するIAEAの勧告や提言を示すものではない。予測シナリオとしては、低位ケース(現状の市場、技術、政策や規制に大きな変化はないとの想定に基づく、保守的だが蓋然性の高いシナリオに基づくケース)と高位ケース(各国の気候変動対策も考慮した野心的なシナリオに基づくケース)の2つのケースを設定している。
同レポートによる原子力発電設備容量見通しは、2011年の福島第一原子力発電所事故後、『2020年版予測』まで連続して、前年版を下回っていた。しかし2050年カーボンニュートラル目標など気候変動対策への意識の高まりを背景に、『2021年版予測』で10年ぶりに2050年見通しが上方修正された。『2022年版予測』、そして本年の『2023年版予測』でもこの傾向は続き、2050年時点の原子力発電設備容量見通しの前年比上方修正は、これで3年連続である。
<世界全体の見通し>
『2023年版予測』における2050年時点の原子力発電設備容量の見通しは、低位ケースで458GW、高位ケースで890GWである(図 1)。2022年の実績は371GWであり、高位ケースでは2050年までに、原子力発電設備容量が現在の倍以上となる。
見通しを上方修正した主な要因として、気候変動対策やエネルギー安全保障への関心の高まりにより多くの国でエネルギー政策における原子力の見直しが進み、既存炉の長期運転や新設の決定が行われるとともに、小型モジュール炉(SMR)への関心が高まり、開発の拡大がみられることを挙げている。また、予測に示されているような大幅な原子力拡大が実現するために必要なさまざまな条件のうち、高レベル放射性廃棄物の処分場や、国際レベルで原子力安全規制の調和を図ることなどについては進展がみられているが、地域によっては新設のための資金調達、サプライチェーンの確保などに課題が残ると指摘している。
図 1 IAEAによる2030年および2050年の原子力発電設備容量見通しの推移
(2012~2023年版、単位:GW〔net〕)
出所)「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」各年版に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社作成
<地域別の状況:北米における新設増加予測の上方修正が顕著>
本予測では世界を10地域[1] に分けて分析している。このうち、北米、北・西・南欧、東欧、および中央・東アジアの4地域が設備容量の上位を占めてきた。以下、前年の『2022年版予測』との比較を中心に、高位ケースにおけるこれら4地域の原子力発電設備容量の見通しを示す。
北米地域
『2022年版予測』『2023年版予測』高位ケースにおける、北米地域の原子力発電設備容量見通しを表 1に示す。北米地域を構成する米国は、世界最大の原子炉基数(2023年現在、93基が運転中)を有するが、原子力発電の歴史が長いだけに、廃炉の見込みも多い。一方で新設を後押しする動きは従来鈍かった。このため『2021年版予測』までは、高位ケースでも北米地域における2050年の設備容量は、現状より減少するとの予測が示されていた。しかし『2022年版予測』では新設の見込みが増加し、高位ケースでは2050年の設備容量が、現状を上回る予測が示され、『2023年版予測』ではこの傾向がさらに進んだ。特に、高位ケースにおける2030年以降2050年までの新規建設の予測は47GWとされており、これは前年版予測の倍である。このように、北米地域の高位ケースで2030年以降の新設見通しが上方修正された背景には、2022年に米国で施行された「インフレ抑制法」(原子力への税額控除)をはじめとする原子力支援政策に加え、米国・カナダ両国でのSMR開発の進展などが考えられる。
ただし、『2023年版予測』でも、上記の政策が効果を発揮せず、SMR等の開発も鈍化すると考えられる低位ケースにおいては、北米地域の2050年の設備容量は、現在の60%程度に減少する予測が示されている。
表 1 『2022年版予測』『2023年版予測』高位ケースにおける原子力発電設備容量見通し(北米)
(単位:GW(net))
出所)「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」各年版に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社作成
北・西・南欧
『2022年版予測』『2023年版予測』高位ケースにおける、北・西・南欧地域の原子力発電設備容量見通しを表 2に示す。 この地域の『2023年版予測』は前年版から大きく変わらない。型式の古い既設炉の閉鎖が進むこと、また2030年までに運開予定の原子炉新設プロジェクトが少ないことなどから、2030年までは、高位ケースでも設備容量が減少する見通しである。しかし2030年以降は、既設炉の長期運転により閉鎖が従来の予測と比較して大きく減少することが見込まれている(『2023年版予測』高位ケースにおける閉鎖見通しは『2020年版予測』の1/3以下)。加えて、すでに6基の建設が決定しているフランスの改良型欧州加圧水型炉(EPR2)計画など、実現可能性が高い大型プロジェクトの運開が2035年ごろから順次はじまることにより、原子力発電設備容量が増加する見通しとなっている。
表 2 『2022年版予測』『2023年版予測』高位ケースにおける原子力発電設備容量見通し(北・西・南欧)
(単位:GW(net))
出所)「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」各年版に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社作成
東欧
『2022年版予測』『2023年版予測』高位ケースにおける、東欧地域の原子力発電設備容量見通しを表 3に示す。 この地域の『2023年版予測』も前年版から大きく変わらない。ポーランドでの原子力発電新規導入計画(600~900MW)をはじめ、2035年前後から順次運開するプロジェクトが進行中である。また、既設炉でも長期運転の取り組みが着実に進行している。
表 3 『2022年版予測』『2023年版予測』高位ケースにおける原子力発電設備容量見通し(東欧)
(単位:GW(net))
出所)「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」各年版に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社作成
中央・東アジア
『2022年版予測』『2023年版予測』高位ケースにおける、中央・東アジア地域の原子力発電設備容量見通しを表 4に示す。中央・東アジアの『2022年版予測』と『2023年版予測』を比較すると、稼働炉の設備容量実績値が顕著に減っている。これは主に、日本の稼働炉の計上方法が変更されたことによる。2022年版における2021年実績では、日本の稼働炉が未再稼働を含む33基であったところ、『2023年版予測』では再稼働ずみの10基に変更された。その上で、中国などでの新規運開、また脱原子力を撤回した韓国などでの新規運開を見込み、最終的には2050年時点の容量が前年予測と同水準になっている。
表 4 『2022年版予測』『2023年版予測』高位ケースにおける原子力発電設備容量見通し(中央・東アジア)
(単位:GW(net))
出所)「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」各年版に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社作成
さいごに~再エネと原子力は対立項ではない~
IAEAのグロッシー事務局長は、『2023年版予測』の公表に際し、「原子力か再生可能エネルギー(再エネ)か」という言い方は間違っており、このような考え方が、公正かつ実現性のある投資を妨げ、全ての人に不利益をもたらすと述べた。その上で、原子力が公平な競争の場に立つには、科学、事実、理性に基づき、特定の技術にとらわれない視点から意思決定がなされる必要があると強調した。
IAEAの『2023年版予測』に続いて、2023年10月24日にはIEAが、『エネルギー展望2023』を公表した。この文書でIEAは、「化石燃料時代の終焉のはじまり」に言及し、世界各国で現在公表ずみの各種施策を実施した場合を示す「公表政策シナリオ」(IEAが設定する3つのシナリオのうち最も保守的なシナリオ)でも、電気自動車やクリーンエネルギーの伸展により、化石燃料需要が2030年までにピークを越えるとの見通しを示した。特に再エネは、設備容量が2030年までに現在の3倍、2050年までに10倍と大きな伸びが見込まれているが、併せて原子力発電設備容量も、2050年までに現在の1.5倍になるとされている。さらに2050年にネットゼロの実現を前提とした最も野心的な「ネットゼロシナリオ」では2倍以上になると見込まれている。いずれにせよ、IEAも、再エネと原子力をともに、化石燃料を置き換える低炭素エネルギー源としており、対立するものとはとらえていない。
今般のIAEAやIEAの将来予測においても、低炭素エネルギー源としての再エネの大きな成長を前提としつつ、原子力にも、これを補完する電源としての役割が期待されていることが見て取れる。
ウクライナ問題が続く中でのエネルギー安全保障への危機感と、気候変動対策、2050年カーボンニュートラル目標への意識の高まりを背景に、「原子力か再エネか」から「原子力も再エネも」への転換の兆しは、確実に見え始めている。
[1]北米、中南米、北・西・南欧、東欧、アフリカ、西アジア、南アジア、中央・東アジア、東南アジア、およびオセアニアの10地域
【参考文献】
●IAEA「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電の予測」2023年版(2023年10月)
https://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/RDS-1-43_web.pdf
●IAEAプレスリリース、「各国がエネルギー安全保障と気候対策で原子力に向かう中、IAEAの年次予測が再び上方修正」(2023年10月9日)
https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/iaea-annual-projections-rise-again-as-countries-turn-to-nuclear-for-energy-security-and-climate-action
●IEA「エネルギー展望2023」(2023年10月)
https://iea.blob.core.windows.net/assets/66b8f989-971c-4a8d-82b0-4735834de594/WorldEnergyOutlook2023.pdf
ほか
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