電気事業連合会
会長会見 2024年6月14日

2024年6月14日に開催した電気事業連合会 会長会見において、弊会会長の林から

についてお話ししました。

水素社会推進法並びにCCS事業法成立の意義と今後の制度措置に向けた更なる検討事項

まず、1点目、水素社会推進法並びにCCS事業法成立のテーマでございます。
先月の会見におきまして、エネルギー基本計画見直しに向けた業界の考えをお伝えしました。その際、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けては、施策をしぼるのではなく、取りうる選択肢全てに、全力で取り組む必要があるという話を、申し上げました。

その一つであります火力発電の脱炭素化に向けましては、先月、水素・アンモニア利用とCCSに関する重要2法案が成立いたしました。この法案の成立は、我が国のGX戦略において、大変意義のあるものであり、火力発電のトランジションを目指す上でも、重要な存在になると考えております。

そこで、この2法案の成立について、事業者として考えるその意義、そして今後の具体的な制度措置に向けて、更に検討が必要となる事項について、述べたいと思います。お手元の右肩資料1をご覧ください。

まず、水素社会推進法についてです。現在、水素・アンモニア等、脱炭素に資する燃料と、既存の化石燃料との価格差に着目した支援や、水素・アンモニア等を活用する拠点整備に関する支援について、公募等の詳細設計に向けた議論が進められております。こうした取り組みにより、様々な事業領域で、水素・アンモニア等の活用に向けた環境整備が進むことを期待しております。

一方、これから更なる検討事項としては、現行の整理では、発電分野単体で、水素・アンモニア等を利用する事業は、支援の対象にならないとされております。発電分野が今回の価格差支援を受けるためには、鉄あるいは化学分野等、他の事業と共同して、計画を策定する必要があります。しかしながら、火力発電所の中には、鉄や化学等の産業がない地域も含めて、日本全国に分散して立地しております。電気の安定供給と脱炭素の両立に向けては、火力発電単体においても、水素やアンモニア調達に向けた措置が必要になるものと考えております。

検討事項の2つ目でございますが、今回の支援対象の時期が、2030年度までに供給開始が見込まれる事業のみ、となっている点であります。今後の改善点としましては、もう少し長い時間軸で継続的な支援となるよう、2030年度以降に、発電分野に水素・アンモニアの供給を開始する、後続のサプライチェーン、いわゆるセカンドムーバー向けの支援についても、切れ目なく行っていくことが大切だと考えております。

加えて、この法律とは直接つながるものではありませんが、電力システムにおける制度措置といたしましては、長期脱炭素電源オークションの改善も必要と考えております。第1回オークションの結果では、水素・アンモニア混焼やバイオマス専焼については、目標とする募集量には届かない状況でした。
具体的な見直し策としましては、資料下段の3つ目のポツにありますように、例えば、水素・アンモニア等の生産にかかる設備費などの上流固定費や、操業費用などの可変費についても、オークションの応札価格へ織り込み可能とすることなどが考えられます。併せて、適正な上限価格の引き上げを検討いただくことで、事業者としましては、選択の幅が広がると考えております。

続きまして、表の右側、CCS事業法についてでございますが、CO2の安定的な貯留を確保するための措置や、輸送・貯留事業に対する規制が明確化されました。今回、CCSに関する初めての法制化であり、CCS事業の環境整備において、これも大変重要な一歩になると考えております。

一方、更なる検討課題としましては、今回の法制化では、分離と回収事業が、法規制の対象となっていないことです。民間事業者が、分離・回収事業の投資判断をするためには、運転コストを回収するための事業スキームの確立や、保安に関わる技術基準の明確化などが必要になり、そのためにも、法律上の位置づけを明確化した上で、必要な事業環境が整備されることを、期待しております。

火力発電は、安定供給の維持はもとより、太陽光や風力等の変動電源の調整力としましても、引き続き不可欠な電源です。エネルギー基本計画の中でも、既設火力の役割を明確化していただくとともに、トランジションの観点から、水素・アンモニア発電やCCS等の技術開発を進めていくことが重要だと考えております。

電力各社においても、JERA碧南火力のアンモニア20%の混焼試験や、関西電力によるガスタービンの水素混焼・専焼の実証など、国やメーカー、他産業と連携しながら技術開発に取り組んでいるところであります。引き続き、事業者として、火力発電の脱炭素化に向けた取り組みを加速化させてまいりますが、本日、申し上げた制度措置などの環境整備が進むことで、より一層、水素・アンモニア等の利用促進につながるものと期待しております。

今夏の電力需給状況と中期的な見通しへの対応

次に、2点目でございます。今夏の電力需給状況と中期的な見通しへの対応について申し上げます。

6月3日の基本政策小委において、発電所の補修計画の変更や復旧見通しなど、最新の計画を反映した、この夏の見通しが示されました。この結果、本年3月時点に比べて、東日本エリアでの予備率が、若干低下しておりますが、最も低い水準となる7月の北海道、東京、東北においても、安定供給に最低限必要な、予備率3%以上を確保できる見通しです。

しかしながら、近年を振り返りますと、予期せぬ発電設備のトラブルや急激な気温変動などにより、需給ひっ迫の懸念が浮上したこともございます。事業者としては、夏の高需要期に向けて、緊張感をもって、供給力の確保を万全なものとしてまいりたいと思います。電気をお使いいただく皆さまにおかれましても、引き続き、無理のない範囲で効率的な利用をお願いしたいと思います。

その上で、少し中期的な需給状況と供給力について、触れさせていただきます。

お手元に配布した右肩資料2をご覧ください。1ページの表でございますが、広域機関が2024年度の供給計画の中で示した今後10年間の年間EUE、つまり、Expected Unserved Energyです。2ページに解説を記載しましたが、この年間EUEとは、連系線からの他社からの流入も含めた供給力に対して、需要変動や計画外停止等がどの程度発生するか確率論的に評価を行い、結果として、年間で停電がどれだけ発生する可能性があるかを示すものです。いわば、停電が発生する期待値と考えていただければわかりやすいかと思います。

年間EUEの考え方が導入された背景ですが、近年、供給面における再生可能エネルギーの進展など電源の多様化に伴い、需給両面での不確実性が高まりました。そのため、これまでのように最大電力が発生する1番厳しい1断面の供給予備率のみでは、需給リスクを評価することが困難であり、8,760時間、365日の需給両方の状況を見ていかなくてはいけない、という背景があります。

資料にハッチングされている個所がありますが、これは、停電期待値が目標とする停電量を上回っている箇所となります。

広域機関によれば、この数字にあります2025年度の北海道エリア、それと東京エリア、九州エリアでは、電源の休廃止の進展などにより、目標停電量を超過しており、さらに、2026~2033年度においては、沖縄を除いた9エリアの合計の数値でも、供給信頼度の基準を満たさない状況が継続しております。つまり、全国レベルで需給がひっ迫する懸念があり、決して予断を許さない状況になっているということが分かるかと思います。

加えて、10年より先の長期想定につきましては、前回もお話させていただきましたが、電化の推進や、データセンター建設の増加といったデジタル化により、需要は大きく伸びていくことが見込まれております。一方、供給面では、火力発電所の老朽化、あるいは新規電源投資の停滞など、様々なリスクが懸念されます。

将来にわたり、供給力を確保し続けるためには、現実的な需要想定と、それに見合うだけの設備形成を計画的に進めていくことが、極めて重要になります。その上で、エネルギーの安全保障の観点も含めた、電源のバランスを考えていくことが必要かと思います。

そのための具体的な選択肢の一つとして、原子力の最大限の活用も重要となると考えております。再稼働しているプラントの安定稼働およびBWRプラントの再稼働の加速化、そして将来に向けては、新増設やリプレースなども必要になってくるものと考えています。

電気事業者としては、将来の我が国の経済と国民の生活を支えていくため、持続的な電力システムの再構築に向けて、様々な面で、最大限の努力をしてまいりたいと思っております。

本日、私からの説明は以上となります。

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