水素社会推進法並びにCCS事業法成立の意義と今後の制度措置に向けた更なる検討事項
まず、1点目、水素社会推進法並びにCCS事業法成立のテーマでございます。
先月の会見におきまして、エネルギー基本計画見直しに向けた業界の考えをお伝えしました。その際、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けては、施策をしぼるのではなく、取りうる選択肢全てに、全力で取り組む必要があるという話を、申し上げました。
その一つであります火力発電の脱炭素化に向けましては、先月、水素・アンモニア利用とCCSに関する重要2法案が成立いたしました。この法案の成立は、我が国のGX戦略において、大変意義のあるものであり、火力発電のトランジションを目指す上でも、重要な存在になると考えております。
そこで、この2法案の成立について、事業者として考えるその意義、そして今後の具体的な制度措置に向けて、更に検討が必要となる事項について、述べたいと思います。お手元の右肩資料1をご覧ください。
まず、水素社会推進法についてです。現在、水素・アンモニア等、脱炭素に資する燃料と、既存の化石燃料との価格差に着目した支援や、水素・アンモニア等を活用する拠点整備に関する支援について、公募等の詳細設計に向けた議論が進められております。こうした取り組みにより、様々な事業領域で、水素・アンモニア等の活用に向けた環境整備が進むことを期待しております。
一方、これから更なる検討事項としては、現行の整理では、発電分野単体で、水素・アンモニア等を利用する事業は、支援の対象にならないとされております。発電分野が今回の価格差支援を受けるためには、鉄あるいは化学分野等、他の事業と共同して、計画を策定する必要があります。しかしながら、火力発電所の中には、鉄や化学等の産業がない地域も含めて、日本全国に分散して立地しております。電気の安定供給と脱炭素の両立に向けては、火力発電単体においても、水素やアンモニア調達に向けた措置が必要になるものと考えております。
検討事項の2つ目でございますが、今回の支援対象の時期が、2030年度までに供給開始が見込まれる事業のみ、となっている点であります。今後の改善点としましては、もう少し長い時間軸で継続的な支援となるよう、2030年度以降に、発電分野に水素・アンモニアの供給を開始する、後続のサプライチェーン、いわゆるセカンドムーバー向けの支援についても、切れ目なく行っていくことが大切だと考えております。
加えて、この法律とは直接つながるものではありませんが、電力システムにおける制度措置といたしましては、長期脱炭素電源オークションの改善も必要と考えております。第1回オークションの結果では、水素・アンモニア混焼やバイオマス専焼については、目標とする募集量には届かない状況でした。
具体的な見直し策としましては、資料下段の3つ目のポツにありますように、例えば、水素・アンモニア等の生産にかかる設備費などの上流固定費や、操業費用などの可変費についても、オークションの応札価格へ織り込み可能とすることなどが考えられます。併せて、適正な上限価格の引き上げを検討いただくことで、事業者としましては、選択の幅が広がると考えております。
続きまして、表の右側、CCS事業法についてでございますが、CO2の安定的な貯留を確保するための措置や、輸送・貯留事業に対する規制が明確化されました。今回、CCSに関する初めての法制化であり、CCS事業の環境整備において、これも大変重要な一歩になると考えております。
一方、更なる検討課題としましては、今回の法制化では、分離と回収事業が、法規制の対象となっていないことです。民間事業者が、分離・回収事業の投資判断をするためには、運転コストを回収するための事業スキームの確立や、保安に関わる技術基準の明確化などが必要になり、そのためにも、法律上の位置づけを明確化した上で、必要な事業環境が整備されることを、期待しております。
火力発電は、安定供給の維持はもとより、太陽光や風力等の変動電源の調整力としましても、引き続き不可欠な電源です。エネルギー基本計画の中でも、既設火力の役割を明確化していただくとともに、トランジションの観点から、水素・アンモニア発電やCCS等の技術開発を進めていくことが重要だと考えております。
電力各社においても、JERA碧南火力のアンモニア20%の混焼試験や、関西電力によるガスタービンの水素混焼・専焼の実証など、国やメーカー、他産業と連携しながら技術開発に取り組んでいるところであります。引き続き、事業者として、火力発電の脱炭素化に向けた取り組みを加速化させてまいりますが、本日、申し上げた制度措置などの環境整備が進むことで、より一層、水素・アンモニア等の利用促進につながるものと期待しております。