4. 原子力開発動向

フランスの原子力政策の背景・特徴

フランスは日本同様、1970年代の石油危機を契機として、原子力発電の大規模開発にまい進した。その結果、2017年末現在、58基6,313万kWの原子力発電設備を運転しており、総発電電力量の72%(2016年)を占めるに至っている。

このように、大規模な原子力開発が行われた背景には、自国に化石燃料などのエネルギー資源が乏しかったことに加えて、欧州におけるエネルギー面での、当時のフランスの地政学的事情があったと考えられる。石油危機の中、欧州で主導権を発揮するには、確実なエネルギー源の確保が必須とされ、豊富な石油・天然ガス資源を持つ英国、石炭資源を持つドイツに対して、フランスは原子力の大規模開発によって、そのエネルギー源を確保する戦略に踏み切った。

この大規模開発を行うに当たっては、フランスの政治・行政体制が有利に働いたとされる。ブルボン朝以来の強力な中央集権体制に加え、強大な大統領権限などから迅速な政策の実行が可能となった。また経済政策面では、当時の混合経済体制も大規模開発を支えた。原子力などの国家関与の強いエネルギー産業では、政府が計画経済的手法を取り入れ「エネルギー計画」が策定され、長期的な観点からの政策決定・実行が行われた。原子力に対する世論の面でも、フランスはキュリー夫人など著名な研究者を輩出したことに見るように、第二次世界大戦前から原子力の研究・開発の歴史を有していたことに加えて、大戦後は冷戦下、自前の核を保有するという国防の観点から米国、旧ソ連に次いで核開発を行ってきた。そのため民生利用である原子力発電についても従来、国民に強く支持されてきたという経緯がある。

原子力比率低減へ

この結果、フランスは現在発電の70%以上を原子力が占めるに至っている。しかし、前述の通り、福島第一事故後の2012年に誕生したオランド政権下、EU大での再エネ導入の要請もあり、電源の多様化を進めるという観点から、現在は原子力比率を低減する政策が取られている。ただし、前述のように、原子力発電比率を2025年までに50%まで引き下げるという目標については、目標達成年を後ろ倒しすることとなり、現在新たな目標年の設定に向けて議論が行われている。

新規建設は継続

一方、原子力の新規開発は継続されている。1986年のチェルノブイリ事故の際にも原子力開発への影響はなく、順調に継続された。その後、国内での電力需要の鈍化もあり、新規建設の着工は1991年以降途絶えることとなったが、2005年には将来電源の中心として原子力開発を継続することが決定し、次世代炉として欧州加圧水型炉(EPR)1基が建設されることになった。サイトは既設炉のあるフラマンビルで、現在その3号機として建設が進められているが、工事の大幅な遅延のため、現時点での運開予定は2019年となっている。

原子力比率低減の現マクロン政権下でも、新規建設の動きは継続されている。フランスの原子力企業アレバは、フィンランド(オルキルオト)でのEPR建設遅延などで経営危機に陥り、近年、その再建に向けて事業再編が行われてきたが、それも一段落し、アレバの原子炉部門子会社アレバNPはEDFの子会社となり、再出発を果たしている。そのEDFは現在、フラマンビルに続く国内でのEPRの建設の検討に加え、新型EPRの設計にも着手している。なお、国内での新規建設は、「エネルギー移行法」で決められた設備容量枠6,320万kWを超えなければ可能であり、閉鎖する炉があれば、その容量分の建設が可能となる。

原子力の海外進出にも積極的

また、フランスは原子力産業維持のため、原子炉の輸出に積極的である。現在フィンランドで1基、中国(台山)で2基のEPRが建設中であり、いずれも2019年に運転開始する予定である。また、EDFは英国のヒンクリーポイントで2基、サイズウエルで2基の建設を計画しており、ヒンクリーポイントについては1基が2019年に着工する予定である。これらのプロジェクトには中国企業CGNが資本参加する一方、CGNが英国で建設するプロジェクトにはEDFが資本参加する。さらに2018年3月には、インドでEPR6基を建設するプロジェクトの枠組み協定が締結され、順調に行けば2019年中に建設開始される予定である。

なお、原子炉以外の輸出については、2018年1月、ニューアレバ社(現オラノ社)と中国CNNCが商業規模再処理施設を中国内に建設することで合意している。
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