高まるエネルギーの輸入依存
韓国は、1970年代から造船など重化学工業を中心とした産業開発により経済の基盤を築き、その後、1980~1990年代を通じて実施した高付加価値型産業の育成などにより高度成長を遂げた。その結果、1997年にはOECDの仲間入りを果たした。こうした経済成長やモータリゼーションの発達などにより、1970年以降、エネルギー消費量が飛躍的に増加した。最終エネルギー消費量は、石油危機が発生した1973年の1,740万toe(石油換算トン)から2015年の1億7,421万toeへ、この42年間に10倍に拡大している。
一方、エネルギー供給は、国内に化石燃料資源が乏しいため、そのほとんどを輸入に頼っており、輸入依存度は1973年の66.8%から2015年の85.4%に上昇するなど、年々高まる傾向にある。
2030年に再エネ比率を11%、石油ガスの自主開発比率を40%に引き上げる方針
このような状況を反映して、これまでに様々なエネルギー政策が実施された。1970年代には、2度の石油危機を受けて脱石油化が推進され、併せて省エネが促進された。1990年代には、社会・経済の構造改革が進められ、工業部門が多様化するとともに、公益事業改革が進められ、さらにエネルギー部門の改革も開始された。
エネルギー部門の改革では、1993年にエネルギー産業での規制緩和が進められ、政府のエネルギー価格への過度な介入が抑制された。さらに、アジア通貨危機の影響を受けた1998年には、エネルギー産業の構造改革が重点的に取り上げられ、電力部門の分割・民営化が推進された。
また、「気候変動枠組条約」批准を受けて1998年に国別報告書を国連に提出するなど、1993年以降、地球環境問題や資源確保に対する関心が高まっている。
こうした情勢を踏まえ、現在の韓国のエネルギー政策は、国内外の情勢の変化、とりわけ市場自由化の進展、エネルギー市場のグローバル化による国際競争の激化、エネルギーセキュリティあるいは地球環境問題の高まりなどを反映して、「エネルギー・経済・環境」(3E)の調和を重視したものとなっている。
知識経済部(MOKE、2013年3月に産業通商資源部(MOTIE)に改組。「部」は日本の省に相当)が2008年に策定した「第1次・国家エネルギー基本計画」(2008~2030年)では、低炭素社会の実現と安定した経済成長の達成が基本方針になっている。この基本計画は、李明博政権が打ち出した社会・経済政策「低炭素グリーン成長国家戦略」に基づき策定されたもので、2030年の主要目標として、
①エネルギー原単位(エネルギー消費量/GDP)を0.185に引き下げる(2007年は0.341)、
②エネルギーに占める化石エネルギー比率を61%に引き下げるとともに、再生可能エネルギー(再エネ)比率を11%に引き上げる(2007年はそれぞれ83%、2.4%)、
③グリーン技術などエネルギー技術の水準を世界最高レベルに引き上げる、
④石油・ガスの自主開発率を40%に引き上げる(2007年は4.2%)、
⑤原子力発電比率を発電設備容量で41%に、発電電力量で59%に引き上げる、
などを掲げた。
また、基本計画を補完するものとして作成された2008年の「エネルギー・ビジョン:エネルギー政策の方向性と開発戦略」では、①環境に優しいエネルギー需給システムの構築、②原子力を中心とする安定的なエネルギー供給基盤の確立、③エネルギー関連技術による輸出産業(特に原子力発電と再エネ)の育成、などを推進することが打ち出されている。
このようなエネルギー政策により、政府は、今後のエネルギー需要の増加率を年率2~3%に抑えるとともに、エネルギー源や輸入国の多様化を図ることを目指している。
政府は、これらの施策によって、2030年の最終エネルギー消費量が3億8,890万toeに抑制されるとしている。また、今後、石油依存度が低下する一方、原子力や再エネの開発が進むことから、2030年には最終エネルギー消費量の構成が石油43.8%、電力22.8%、都市ガス12.4%、再エネ10.4%、石炭9.5%、その他1.1%になると予測している。
その後、2011年に東日本大震災による福島原発事故が発生し、2013年には国内で数件の原発の偽造部品使用事件が発生したことから、政府は「第1次・エネルギー計画」の目標を大幅に変更し、原子力発電比率を下方修正することを決定した。2014年1月に公表された「第2次・国家エネルギー基本計画」(2013~2035年)では、原子力の新規開発分を廃炉分と同程度の規模に留め、2035年の原子力発電比率を29%(発電設備容量)と下方修正した。また、その引き下げ分を天然ガスや石炭、再エネで賄うことが規定された。
なお、2017年5月に文在寅政権が誕生したが、同大統領は選挙公約で脱原発を表明しており、現在、原子力発電所の建設中止などを検討している。検討結果は、作成中の「第3次・エネルギー計画」、あるいは同計画を基にした「第8次・長期電力需給計画」に反映されることになる。