1990年代に電気事業の再編、自由化を実施
スウェーデンでは1990年代に電気事業の再編が実施された。1992年に国家電力庁(バッテンファル)が100%国有企業に改組されると同時に、これまで同庁が独占的に管理していた基幹送電系統が分離され、新たに国有系統運用者スベンスカ・クラフトナートが設立された。これにより、いわゆる発送電の分離(アンバンドリング)が実施された。続いて、関連する法整備の完了に伴い、送配電ネットワークの利用を第三者に開放することにより、1996年から電気事業の自由化が開始された。これにより、電力会社間の自由な電力取引が可能になり(卸電力市場の自由化)、電力需要家は、一般家庭も含めて電力会社を自由に選択できる法的基盤が整備された(小売電力市場の自由化)。
卸電力価格は大きく変動
自由化された卸電力市場においては、電力会社間の個別契約に基づく相対取引に加えて、相手を特定しない、取引所を介した電力取引も行われている。スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークを含む北欧諸国では現在、ノルドプールと呼ばれる国際電力取引所が運営されている。スウェーデンは、国内の電気事業が自由化された1996年から、ノルドプールに参加している。電力取引所では、電力の需要と供給のバランスに基づいて、卸電力価格が決定される。ところで、北欧諸国は全体で見ると、水力発電が主要な電源となっている。このため、水力電源による供給力、すなわち、地域の降水量(降雪量)とそれに伴うダム貯水量の水準が、卸電力価格の水準に大きな影響を与える。例えば、低いダム貯水率と厳冬による電力需要の増大が重なれば、需給状況はタイトになり、結果的に卸電力価格は上昇することになる。
スウェーデンがノルドプールに参加した1990年代の後半では、冬期の気温が比較的おだやかで、かつ、豊富な降水量に恵まれ、ダム貯水率は例年以上に高く維持されていた。このため、この時期の卸電力価格は比較的、低い水準で推移していた。ところが、2000年代に入ると、しばしば渇水や寒波が重なって、価格水準が次第に上昇する傾向が見られるようになった。例えば、ノルドプールの年間平均の卸電力価格を比較すると、最も低かった2000年で1MWh当たり107.95クローナに対し、最も高かった2010年では同505.91クローナとなった(1MWh=1,000kWh、1クローナは約15円)。ただし、至近年においては卸電力価格が低下傾向にあり、2017年では同283.38クローナであった。
小売電気料金も上昇
卸電力価格の変動は、小売電力価格の水準にも影響を与えている。スウェーデンの平均的な家庭用の電気料金水準(諸税を含む)は、1990年代と比較して、2010年代にはおおむね2倍近い水準に上昇している。このように料金が上昇している中、電力需要家による電力会社の変更が、欧州の他の諸国と比べて比較的進んでいる。スウェーデンのエネルギー規制機関データによると、2016年の1年間で電力会社を変更した需要家は10.2%に上ると報告されている。