電力需要の20%を賄う重要な電源
スペインでは2017年1月現在、7基739.7万kWの原子力発電設備が運転中で、電力需要の約20%を賄う重要な電源となっている。これらの発電設備はスペイン大手電気事業者であるイベルドローラ、ENDESAなどが出資した合弁会社が運転しているが、運転状況は良好であり、近年の設備利用率は2014年83.3%、2015年82.5%と常に80%を超えている。スペインの原子力開発政策は後述のように、海外での事故や政権交代で紆余曲折はあったが、現政権は今後も原子力発電を維持してゆく方針である。
石油危機で開発促進:外国での事故の影響で開発ストップ
石油など化石燃料資源に乏しいスペインは、早い時期から原子力開発を進めてきた。60年代後半から70年代初めにかけて、米国からは軽水炉を導入、またフランスからはガス炉を導入した。さらに、1973年の石油危機後は、「国家エネルギー計画」(PEN)が策定され、12基の原子力発電プラントを建設する計画が打ち出された。この計画に従い、80年代に7基が運転を開始した。しかし、1982年に誕生した社会労働党(PSOE)政権は、米国スリーマイル島事故を受け開発計画を大幅に縮小し、1983年のPENでは、建設中の5基の工事が中断あるいは凍結され、さらに1994年には法律によってこの5基の建設計画は最終的に中止とされた。また、運転中の発電所も1990年に1基閉鎖された。
さらに2004年に政権に就いたサパテロ社会労働党政権は、既設の原子力発電所についても段階的閉鎖を掲げ脱原子力に舵を切った。2005年には、政府は原子力比率(設備容量)を2011年までに当時の23%から10~16.5%にまで低減する計画を発表し、電力会社が求めていたホセカブレラ発電所の2009年以降の運転延長申請を却下した。
現政権下で原子力維持に転換
続く2008年3月の総選挙でも、サパテロ首相は、再度、脱原子力を掲げて首相に再選されたが、原子力なしではCO2削減目標が到底達成できないため、当選後、原子力発電所の運転期間延長には柔軟な姿勢に転じた。2009年には40年の運転期限を迎えたサンタ・マリア・デ・ガローニャ発電所(ガローニャ発電所)について、2013年7月まで4年間の運転延長を認めた。さらに政府は2011年、原子力発電比率とプラントの運転年限は、安全規制当局の意見、CO2削減やエネルギー面でのニーズを考慮して適宜決めるとの方針を明らかにした。
続く2012年1月に発足したラホイ国民党保守政権は、前政権の消極的な運転期間延長容認の姿勢から、原子力維持に政策転換した。政府は2012年7月、規制当局の結論に従い、ガローニャ発電所について、2013年7月までとする前政権下での決定を取り消し、それ以降も運転延長可能とした。その後、運転延長に必要な改修費用に加えて、政府が財政政策の一環として新たな課税措置を原子力発電にも導入したため、発電コストが大幅に増大し、ガローニャ発電所の運転延長は経済的に見合わなくなった。そのため同発電所は、運転期間の延長を申請せずに、運転期限を迎えた2013年7月に正式に閉鎖した。しかし同発電所は、2013年に政府へ運転期間延長の選択肢を残すよう要求し、スペイン原子力安全委員会(CSN)も同発電所の訴えを支持し、運転ライセンスを1年延長して、その間にガローニャ発電所が運転期間延長申請を行なうことを認めるよう政府へ勧告した。
政府は2014年2月、最近停止した原子力発電所の運転期間更新の許可申請を、停止指示後1年以内であれば認める新たな政令案を承認した。これを受けて、ガローニャ発電所は2014年5月、運転期限を2031年までの60年に延長する申請を政府に提出した。
CSNは2017年2月、ガローニャ発電所の再稼働を条件付き(フィルター付き格納容器ベント、静的水素再結合器や緊急時支援センターの設置等)で承認し、すべての条件が満足された時点で、最終的な再稼働決定を政府が行うことになった。しかし政府は2017年8月、関係機関等から提出された17のオプションや、政府のエネルギー気候プラン等を政府内で検討した結果、ガローニャ原子力発電所の運転ライセンスの更新を承認せず、廃炉を決定した。