6. 電気事業体制
自由化前から電気事業を集約、送電を分離
1875年から始まったスペインの電気事業は、経済成長と共に発展し、1960年には電力会社数が私営を中心に約3,000社に達した。しかし1970年代には巨額の原子力投資、 石油から石炭への燃料転換、通貨価値の下落などによって電力会社の財務状況が悪化した。そのため、政府は送電系統の所有・給電指令の権限を接収する一方、電力会社の統合を進めた。1985年には、送電系統を所有し給電指令を行うスペイン電力系統会社(REDESA、後にREEに改名)が設立された。
一方、企業統合は、エンデサなど大手電力会社が、 財務危機にあった小規模電力会社を次々と買収して行き、1995年には4大グループ(エンデサ、イベルドローラ、ウニオン・フェノーサ、イドロカンタブリコ)に集約された。特にエンデサとイベルドローラの両グループを合わせてシェアは、発電で80%という寡占状態が生まれ、電気料金も上昇した。
自由化で5大電力会社に集約
政府はこの寡占を解消し競争を促進するため、2000年、自由化政策の一環として、大手電力会社の発電容量の増加制限など市場集中化防止措置を実施した。その結果、欧州の大手電力会社がスペインに進出し、スペイン大手も外国企業の傘下に入る企業が続出した。イドロカンタブリコはポルトガル電力会社EDPの支配下に、またENELヴィエスゴ 社(イタリアENELがエンデサ所有の一部の発電・配電会社を買収してできた会社)はドイツE.ONに買収された。また最大手の一つであるエンデサも、イタリア ENELに買収された。ウニオン・フェノーサは、スペイン大手ガス会社ガス・ナチュラルに買収された。その後、政府が再エネ買取コストを電気料金に転嫁することを認めず、電力会社が巨額の赤字を抱えるに至った。このため2014年、外国企業はこれら電力会社を売却する動きが見られ、ENELはエンデサの一部株式を売却し、E.ONはスペイン子会社をオーストラリア資本の金融機関に売却した。
この結果、スペインでは、最大手のエンデサ、イベルドローラの2社に、ガス・ナチュラル・フェノーサ、EDP HCエネルヒア、ヴィエスゴの3社を加えた5大グループが電気事業の中心を形成している。
このような株式所有者の変更にも係らず大手5社体制は変わっていない。これら大手5社は、それぞれ発電会社、配電会社、供給会社を持つ垂直統合型の持ち株会社であり、5社で発電市場(発電電力量ベース)の約7割、また小売市場(供給量ベース)では規制料金市場の約10割、自由化市場の約8割を占める(小売市場については後述)。