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【国際】世界の国の32カ国は「原子力発電導入国」~プラス1.5℃目標達成に向けて、原子力は特殊な選択肢ではない~

2024年3月18日

●世界の国の32カ国は原子力発電導入国。さらに電力輸入などを通じ原子力による電力を利用する国もある。原子力は、脱炭素化における特殊な選択肢ではない。
●世界の温室効果ガス排出削減の現状は、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える目標から大きく乖離。ギャップを埋めるには、低炭素エネルギー源全体で野心的な拡大が必須。「再生可能エネルギー(再エネ)か原子力か」ではなく「再エネも原子力も」がこれからの道すじ。
●日本はCOP28で、2030年再エネ3倍化誓約と2050年原子力3倍化宣言との両方に署名。再エネも原子力も国内で可能な限りの利活用最大化を図りつつ、国際協力を含めた世界の脱炭素化への貢献が必要。

はじめに
   脱炭素化とエネルギー安定供給という世界的な課題に対する重要なアプローチの1つとして、原子力発電を認識する動きが強まっている。2023年11月30日から12月13日にかけて、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、有志国による「原子力3倍化宣言」の発表に加え、COPの成果文書となる「UAEコンセンサス」に初めて、「原子力」が化石燃料からの移行手段の1つとして明記された。「原子力3倍化宣言」は、2050年までに原子力発電の設備容量を2020年比3倍に拡大することを目指すとする有志国の宣言で、2024年1月19日までに日本を含む25カ国が賛同している*1 。COP28では再エネ発電の設備容量を2030年までに現在の3倍にする誓約(再エネ3倍化誓約)も採択されている。再エネと原子力、いずれもこれまでの努力の単純な延長線上では実現できない、非常に野心的な目標である。背景には、再エネと原子力の両方で非常に思い切った拡大策を講じなければ、地球温暖化の抑制は不可能という認識の共有がある。
   COP28を通じて原子力への認識に注目が集まったかたちだが、本稿では改めて原子力発電が広い地域、国で利用されているという、原子力発電の地理的な拡がりに注目しつつ、これからのエネルギー脱炭素化について考察する。

世界の国の32カ国は原子力発電導入国
   世界で運転中の原子力発電所は2022年末の時点で約440基であり、32カ国がこれらの発電所を運転していた*2 。国際連合加盟国が193ある中、32カ国は原子力発電導入国ということになる。世界の原子力発電導入国を図 1に示す。
   原子力発電導入国といえば一般に、欧米や日本を含む東アジアなど、主に北側先進国のイメージがあるかもしれない。しかし実際には「グローバルサウス」と呼ばれる地域でも、原子力発電が行われてきた。例えば、インドは1970年代から、国産の加圧重水炉(PHWR)を中心に独自の原子力開発を展開してきた。また、南米でもアルゼンチンで1970年代、ブラジルで1980年代から、アフリカでも南アフリカで1980年代から原子力発電所の運転実績がある。最近では2021年にUAEで最初の1基が商業運転を開始し、中東地域でも原子力発電が本格的に始まった。
   さらに原子力発電新規導入の動きは続いており、2024年1月時点で、トルコ、バングラデシュ、エジプトの3カ国で同国最初の原子力発電所の建設が進められている。加えてポーランドでも計画中6基のうち3基でベンダーが決定し、原子力発電への新規参入の実現に大きく近づいた。
   このほか、自国に原子力発電所がなくとも、原子力由来の電力を利用している国は少なくない。特に国境を越えて送電線が連系する欧州ではその傾向が強く、欧州連合(EU)では、域内全体の電力の約25%を原子力が占めている。スロベニアに立地するクルスコ原子力発電所のように、スロベニアと隣国クロアチア(いずれも旧ユーゴスラビア)の共同所有となっており、電力を両国に50%ずつ供給しているといった例もある。
   このように、原子力は地理的にも広い範囲で利活用されており、エネルギー脱炭素化の対策として、さまざまな地域で選択肢となりうると考えられる。

図 1 世界の原子力発電導入国(2022年末)
出所:世界原子力協会(WNA)World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirementsに基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

「再エネか原子力か」ではなく「再エネも原子力も」へ
   地球温暖化の抑制に関して、世界の現状は非常に厳しい。国連環境計画(UNEP)は、COP28に先立つ2023年11月20日に公表した報告書において、世界各国が対策を実施し、それぞれ自国が掲げる現行の2030年の温室効果ガス排出削減目標を達成したとしても、今世紀末の世界の平均気温はプラス2.5℃~2.9℃となるとの見通しを示した。これは、パリ協定の目標であるプラス1.5℃からはほど遠い。乖離を埋めるためには、今後さらに全方位的に、極めて野心的な対策をとる必要がある。
   COP28の開会で、議長を務めたUAEのジャーベル産業技術相は、パリ協定の目標達成に関して「これまでの道すじでは間に合わないことは科学的に明らかである。いまこそ新しい道を見つける時だ。」と発言した。
   再エネと原子力はいずれも、発電時に温室効果ガスを排出しない低炭素電源だが、これまで電力部門の脱炭素化において、競合する選択肢として捉えられる傾向があった。
しかし世界がいま必要としているのは、既存のエネルギーシステムを化石燃料から低炭素電源に置き換え、脱炭素化することだけではない。すべての人がクリーンなエネルギーを手に入れつつ、同時に経済成長と豊かな暮らしを追求できる社会の実現である。
   国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギー見通し2023年版」(WEO2023)によれば、2022年時点で世界の発電電力量の約6割が、化石燃料によって生み出されている。しかし、2050年ネットゼロを目指すシナリオ(ネットゼロシナリオ)に沿えば、2050年には、化石燃料による発電は二酸化炭素回収・貯留(CCS)つき火力を含めても、ごくわずかとなる。一方で、経済成長や電化の進行により電力需要は増加し、世界の総発電電力量は、2050年までに2022年の約2.6倍に増加すると見込まれている。化石燃料電源がなくなっていく中で、発電電力量の増加に対応していくためには、再エネ、原子力、さらには水素やアンモニアといった非化石・低炭素エネルギー源による発電量を全体として、2050年までに2022年の6.6倍に増やす計算となる。

図 2 WEO2023 ネットゼロシナリオに基づく発電電力量増加と化石燃料電源の減少
出所:国際エネルギー機関(IEA)World Energy Outlook2023に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

   低炭素電源をこれだけ拡大するとなれば、もはや「再エネか原子力か」といったように、あらかじめエネルギー源を限定するのではなく、世界の各国・各地域で、利用可能なあらゆる低炭素電源を野心的に拡大していくことが必要である。つまり、これからの脱炭素化・電力需要増加に対応していくためには、多くの地域で、「再エネも原子力も」視野に入れて、これからの道すじをつけていくことが重要となる。

さいごに:原子力発電は特殊な選択肢ではない
   エネルギーの脱炭素化と需要の増加を踏まえた電力供給能力の確保を両立していくためには、これまでの施策の延長線上にとどまらない低炭素電源の野心的な拡大が必須である。その際には稼働率や発電効率の上昇といった既存低炭素電源の最大活用から、革新的な低炭素技術の開発と普及まで、あらゆる可能性を追求していかねばならない。しかしその中でも、既存の利用可能な技術を最大限に有効活用することは、最初に行うべき対策の1つといって間違いないであろう。
   本稿で見てきたとおり、現在、世界の国の32カ国は「原子力発電導入国」である。再エネと原子力はいずれも、すでに広く利用されており、かつエネルギー脱炭素化の選択肢として特殊なものではない。各国は、地理的、気候的要因を踏まえ、国情に応じて、自国の低炭素電源拡大およびベストミックスを真剣に追求し、実現していかなければならない。また、温暖化は地球規模の課題であるため、自国の取り組みだけでなく、国際協力も重要である。新規導入のポテンシャルはあるが枠組やノウハウがない国や地域を、国際社会全体で後押しする取り組みがなければ、今世紀末の世界の平均気温をプラス1.5℃に抑えるというパリ協定目標と現状の間に横たわる大きな溝は、とうてい埋まらない。
   日本はCOP28において、2030年までの再エネ3倍化誓約と2050年までの原子力3倍化宣言の両方に署名した。安全性、経済効率性、安定供給と環境適合の両立をエネルギー全体の枠で考えていく中で、日本がどのような方向性を示すのか。再エネも原子力も、国内で可能な限りの利活用の最大化を図りつつ、国際協力を含めた世界の脱炭素化への貢献が必要となるであろう。

[1]米国、フランス、日本、韓国、カナダ、ウクライナ、スウェーデン、英国、フィンランド、チェコ、アラブ首長国連邦、スロバキア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロベニア、オランダ、アルメニア、ポーランド、ガーナ、モルドバ、モロッコ、モンゴル、クロアチア、ジャマイカ。
[2]世界原子力協会(WNA)による。なお、32カ国のうちドイツは、2023年4月に原子力発電を終了した。

【参考文献】
●米国エネルギー省(DOE)ウェブサイト掲載、「原子力3倍化宣言」(2023年12月1日)※米国時間
https://www.energy.gov/articles/cop28-countries-launch-declaration-triple-nuclear-energy-capacity-2050-recognizing-key
●国際エネルギー機関(IEA)「世界エネルギー見通し2023年版」(WEO2023)(2023年10月)
https://origin.iea.org/reports/world-energy-outlook-2023
●欧州議会「EUにおける原子力」(2023年9月6日)
https://www.europarl.europa.eu/thinktank/en/document/EPRS_BRI(2023)751456
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