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北米における原子炉の再稼働・改修の動き~原子力発電所の長期運転への評価が高まる~

2024年3月25日

● 米国やカナダでは、国や州が原子力発電所の長期運転の価値を評価し、必要な支援を行いながら、長期運転や一度恒久停止したプラントの再稼働への取り組みが進む。

はじめに
   わが国では、2023年2月に策定された「GX実現に向けた基本方針」において、「既存の原子力発電所を可能な限り活用するため、現行制度と同様に、「運転期間は40年、延長を認める期間は20年」との制限を設けたうえで、原子力規制委員会による厳格な安全審査が行われることを前提に、一定の停止期間に限り、追加的な延長を認める」こととされ、必要な法改正も行われた。
   国際的に見ると、原子炉の長期運転による温室効果ガス排出削減への貢献や経済性への評価が高まっており、長期間運転が停止されたプラントを再稼働する事例も見受けられる。
   本稿では、まず国際機関の試算で、カーボンニュートラルに向けて既設炉が果たすべきと考えられている役割を確認する。その上で、一度は閉鎖が決まったプラントの運転を延長する動きが進む米国と、3カ所の原子力発電所すべてで運転延長が行われることになったカナダ・オンタリオ州の事例を整理し、わが国にとって参考になる点を検討する。

カーボンニュートラルに向けた既設炉の役割
   2023年12月、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)に際して、わが国を含む有志22カ国が地球温暖化平均1.5℃シナリオでは、2020年から2050年にかけて、世界の原子力発電設備容量を約3倍とする目標を宣言した。
   上記宣言のベースとなった経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)の検討によれば、1.5℃シナリオ実現に必要な2050年時点の原子力発電の設備容量は現在の約3倍の約12億kWとなり、そのうち約3割の約4億kWは長期運転(当初想定されていたよりも長い期間プラントを運転すること)を含む既設大型炉によって確保する必要がある(図 1)。

 

図 1 1.5度目標シナリオ実現のために必要となる原子力発電の設備容量の推移
出所:OECD/NEA、“Meeting Climate Change Targets The Role of Nuclear Energy”(2022年)に基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

米国における運転延長・再稼働の事例
   米国では、電力の安定供給や温室効果ガスの排出削減を目的として、原子力発電所で原子炉の運転延長に向けた認可の更新が進められている。以下に、一度は閉鎖することとされたものの運転継続が決定したディアブロキャニオン原子力発電所の事例と、すでに恒久停止されたが再稼働に向けた手続きが進められているパリセード原子力発電所の事例について整理する。

<事例①:ディアブロキャニオン原子力発電所の運転延長>
   カリフォルニア州のディアブロキャニオン原子力発電所では、加圧水型軽水炉(PWR)2基が1985年と1986年にそれぞれ商業運転を開始した。当初は、運転期限である2024年(1号機)および2025年(2号機)にプラントを閉鎖する予定であったが、2022年9月に州議会が2030年までの運転延長を可能とする法律を制定し、同発電所を運転するパシフィック・ガス・アンド・エレクトリック社(PG&E)は運転継続を目指すことを決定した。2023年12月には、カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)が2030年まで運転延長することを承認し、現在PG&Eは原子力規制委員会(NRC)から運転延長認可を取得する手続きを進めている。
   ディアブロキャニオン原子力発電所が運転を延長することとなった要因として、以下の点が考えられる。
● 運転延長の価値の評価:
上述した州法では、新たに再生可能エネルギー(再エネ)の発電設備が建設・運転開始するまでの間、既に運転しているディアブロキャニオン原子力発電所を運転延長することは、新たな送電網の整備などの追加投資の必要がなく、電力供給力の確保や温室効果ガスの排出削減に資するとの議会の判断が示されている。
● カリフォルニア州の支援:
州法には、運転延長の支援のためにPG&Eに対して最大で14億ドルを貸し付ける規定が盛り込まれている。
● 連邦政府の支援:
米国では、2021年11月成立のインフラ投資雇用法により、至近の運転コストが収益を上回っている既設炉を対象として資金を提供するプログラムが導入された。ディアブロキャニオン原子力発電所は、本プログラムにより11億ドルの支援を受けることが決定している。

この事例は、現在、経済的に厳しい環境にある原子力発電所であっても、運転延長により長期的には経済効率性や温室効果ガス排出削減といったメリットが得られることから、州や連邦政府が支援を行うことで長期運転を実現させようとしているものと整理でき、エネルギー省(DOE)の高官も、再エネ発電設備の新設までの期間は、追加投資が不要な既設炉が電力需要を賄う最も合理的方法であると発言している。

<事例②:パリセード原子力発電所の再稼働>
   ミシガン州のパリセード原子力発電所では、PWR1基が1971年に系統に接続され、2022年5月に恒久停止されて、発電所は当時の運転会社であったエンタジー社から廃止措置を行うホルテック社に売却された。パリセード原子力発電所が恒久停止されたのは、エンタジー社と小売事業者・コンシューマーズエナジー社が締結していた電力購入契約(PPA)の早期解約が決定したためであり、その原因は、パリセード原子力発電所の発電コストが市場における電力購入コストよりも高くなったためである。
   このように、経済性の課題から一度は恒久停止が決定したが、州や連邦政府の支援により運転延長が可能になり、新たなPPAの締結に至ったことから、再稼働に向けた手続きを進めることとなった。
● ミシガン州の支援:
ミシガン州の2024会計年度予算には、パリセード原子力発電所の運転再開に向けて1億5,000万ドルの支援を行う規定が盛り込まれた。
● 連邦政府の支援:DOEは大規模なエネルギーインフラ設備を対象として、プロジェクトの実施者が金融機関から融資を受ける際に債務の返済を保証する支援を行っている。ホルテック社はパリセード原子力発電所の再稼働に向けて、2023年初めにDOEに対して債務保証を行うよう申請した。なお同年12月には、複数の連邦議会議員が連名で、DOE長官にあてて、速やかに債務保証に関する決定を行うよう求める書簡を提出している。
● PPAの締結:
上述のとおり、コンシューマーズエナジー社とのPPAの早期解約がパリセード原子力発電所の恒久停止の原因となったが、2023年9月にホルテック社は、ミシガン州の地方公益電気事業者とパリセード原子力発電所の発電電力を売買するためのPPAを締結した。

現在ホルテック社は、運転再開の許認可手続きを進めるためにNRCとの協議を進めている。ディアブロキャニオン原子力発電所の事例と同様に、州政府のみならず連邦政府においても、原子力発電所の運転延長のメリットが認識されていると考えることができるだろう。

カナダ・オンタリオ州における運転延長・改修の事例
   カナダでは、連邦政府が2016年11月に、2030年までに電力の90%をゼロエミッション電源で賄うことを決定した。電力需要の半分以上を原子力で賄っているオンタリオ州の長期エネルギー計画では、温室効果ガスを排出しないベースロード電源を最も費用対効果の高い形で確保するために、原子力発電所を運転延長する方針が示されている。具体的には、ダーリントン、ブルース両原子力発電所の合計10基のプラントで、運転延長に向けた改修計画が進んでおり、既に一部のプラントは改修を完了して運転を再開している。改修により、ダーリントン原子力発電所は2055年、ブルース原子力発電所は2064年までの運転継続が計画されている。
   また、2024年1月には、ピッカリング原子力発電所5~8号機も改修による30年の運転を延長する方針が示された。州内に3カ所の原子力発電所を所有するオンタリオ・パワージェネレーション(OPG)社は、2024年内にピッカリング原子力発電所の改修を進め、2030年代半ばには完了する見通しとなっている。
   このように、オンタリオ州において複数の原子力発電所の運転延長が可能となる背景には、連邦政府による資金調達環境の整備がある。連邦政府は、グリーンボンド(発行により調達した資金を環境面での基準を満たした事業に活用する政府発行の債券)を活用した原子力分野における資金調達の対象として、新たなプラントの建設や研究開発、サプライチェーンの構築に加えて、既設炉の改修を含めている。オンタリオ州政府も、ピッカリング原子力発電所5~8号機の改修の初期段階に対して、資金支援を行う意向を示している。

まとめ
   以上の北米の事例は、既設炉の長期運転の価値を評価し、短期的に経済的な課題に直面している場合や改修のために大きな投資が必要になる場合は国や州が支援を行ったうえで、長期運転を実現させようとするものである。既設炉の長期運転により実現される価値としては、本稿で取り上げた温室効果ガス排出の削減や経済効率面でのメリットに加えて、ウクライナ情勢等により燃料価格の変動性が増す中での原子力の価格安定性なども挙げられるだろう。
   また、カナダにおける原子力発電所の改修は、現場経験を有する人材の継続雇用や技術伝承を通じた人材育成にも大きく貢献するものであり、原子力の人材確保が課題となっているわが国にとっても参考となるだろう。


【参考文献】
● 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)、“Meeting Climate Change Targets The Role of Nuclear Energy”(2022年)
https://www.oecd-nea.org/jcms/pl_69396/meeting-climate-change-targets-the-role-of-nuclear-energy?details=true
● カリフォルニア州法、”SB-846 Diablo Canyon powerplant: extension of operations.”(2022年9月2日)
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202120220SB846
● ホルテック社プレスリリース、”Holtec Formally Initiates Process with NRC to Reauthorize Operations at Palisades Power Plant”(2023年10月6日)
https://holtecinternational.com/2023/10/06/holtec-formally-initiates-process-with-nrc-to-reauthorize-operations-at-palisades-power-plant/
● オンタリオ・パワージェネレーション(OPG)社、”Pickering Nuclear Generating Station”(2024年2月22日閲覧)
https://www.opg.com/power-generation/our-power/nuclear/pickering-nuclear/ 
● オンタリオ州プレスリリース、”Ontario Supporting Plan to Refurbish Pickering Nuclear Generating Station”(2024年1月30日)
https://news.ontario.ca/en/release/1004128/ontario-supporting-plan-to-refurbish-pickering-nuclear-generating-station#
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